MAP-EXTR:特別講義:教育に果たすインターネットの役割(訳者注1)                       パトリック・クリスペン                        リチャード・スミス                        関 口 礼 子 訳 Roadmap ワークショップも終わりに近づいたので、インターネットが近い将 来、教育に果たす役割について考える機会を提供したいと思います。 この問題を語るのに、私は、Richard Smith 氏以上の人を思いつきません。 「Richard Smith 氏は、ピッツバーグ大学の Ph.D. の学生として研究中に、 インターネットの情報資源を見つけました。氏は、大学院でインターネット 使用について教え、それに続いて、1991年、"Navigating the Internet" と 呼ぶワークショップを開催しました。 1992年の夏、Smith 氏は、インターネット訓練の授業を−−インターネット を通じて−−行うことを決め、その時は、30人か40人も受講者がいれば よいと考えていました。ところが、全部で864人もの人が、20ヶ国以上 の国から、彼の "Navigating the Internet: An Interactive Workshop" の 受講登録をしました。第2回目のワークショップは、50ヶ国以上の国から、 15,000人以上の人々を引きつけました。 これらの、今までの基礎をくつがえすような国際ワークショップの結果とし て、Smith 氏は、世界中の、文字通り何千人もの人にインターネット資源使 用法のトレーニングをしたことになります。このことは、American Libra- ries の1993年1月号で、Smith 氏に、"Internet Mentor" の称号を授ける に至りました。氏は、需要度の高い、評価の高いサービスを提供することに 喜びを感じているので、将来、いっそう大きな、いっそう質のよい、インタ ーネットワークショップを行うことを計画しています。」(1) Ladies and Gentlemen, 誇りをもって、*私の*よき指導者、Richard Smith 氏をご紹介いたします。 −−−−−−−−−−− Patrick Crispen 氏から、氏の Roadmap distance education のワークショ ップに、一部分を書いてほしいとの依頼を受けました。私は、教育界におい て卓越した力になりつつある、この新しい形態の distance education と新 しいテクノロジーについて、一般的な考察を何点か示したいと思います。 副大統領 Al Gore 氏は、ますますハイテクノロジー化してゆく社会で、合 衆国が競争力を保持してゆくに必要な情報スーパーハイウェイを建設すると 語っています。National Information Infrastructure (NII) は、現在の、 コンピュータ、テレビと電話、テレコミュニケーションのテクノロジーを含 んですでに建設途上にあり、国中の、教室という教室、図書館という図書館、 病院という病院、診療所という診療所(最近では、郵便局も加わって)がネ ットワークにアクセスできるようになったとき、あらゆる人が利用できるよ うになるということを約束しています。それは、今ではひじょうに一般的に なっているので、新聞の漫画欄で Outland という作品は、サイバーパンク を登場させて面白おかしく扱い、また、MTV (訳注2)、Nightline(訳注3)、 FX(訳注4)、その他の商業作品が、今や、オンラインで入手できます。 このコミュニケーションの新しい手段は学問的仕事のパタンを変えると予言 されています。家庭や職場のコンピュータから、教育に携わる人々が、今や、 何百という図書館カタログ、定期刊行物インデックス、 reference books、 図書や定期刊行物論文の全文、主たる芸術作品展、求人情報、連邦政府の情 報等にアクセスすることができます。糖尿病研究、古代地中海史、科学技術 における女性、大学管理、Pittsburgh Pirates(訳注 野球チーム名)とい ったような多岐にわたるテーマについても、仲間たちとのコミュニケーショ ンが毎日行われています。考えられるありとあらゆるテーマについて利用で きる、何千ものディスカッショングループが存在しています。 このネットワークのネットワークのそもそもの始まりは1970年代でしたが、 このコミュニケーション現象がコンピュータ科学や情報科学の分野を越えて 拡がったのは、ごく最近のことです。今日、図書館職員、健康関係専門職員、 歴史家、法律関係者、その他の多くの専門職従事者が、インターネットが貴 重な調査と教育のツールであることを見いだしつつあります;インターネッ ト社会のもっとも成長の激しい部門は、民間会社です。 しかし、このネットワークの重要な影響が現れるのは、まだこれからでしょ う−−公教育(学校教育)における情報の配布のことです。今、インターネ ットを通じて、学校教育に認定される授業が生みだされつつありますが、こ れは、現在、distance education (通信教育)または distance learning (通信学習)が行われている方法を変えることになるでしょう。この、 distance education(遠隔地教育)(訳注5)という方向は、テレコミュニ ケーションの設備とコンピュータを備えた学校が増加し、かつ、そのような 設備が廉価になるにつれて、ますます拡大してゆくと思われます。 教育のためにこのネットワークを用いようという最初の試みに、2年前に企 画された実験授業があります。私は1992年の夏に、このネットワークの使い 方に関するワークショップを、教室でなく、また、集まってする講習会でも なく、インターネット自身を使ってオンラインで行おうと決心しました。私 は、受講申しこみは30人か40人であろうと思っていましたが、なんと 864人もの人が参加しました。授業はEメールで、インターネット資源に アクセスする方法、さらに、ひとたびアクセスしたら次は何をするのか、を 指導するということから成っていました。理論上は、受講者は、朝Eメール を読み、指示に従って1時間ぐらい試みてみて、その日に教えられたところ をマスターするということになっていました。しかし実際は、3週間の授業 は、たいていの受講者にとって少々負担でしたので、指導内容は、都合のよ いときに熟読すればよいように、 save されました。これは、このタイプの distance education の主たる利点です。 "Navigating the Internet: An Interactive Workshop" は、たいへん好評 だったので、第2回目の授業が2カ月たたないうちに行われました。第2回 目のクラスへの受講登録の期間は2週間を設けました。が、登録者が15,000 人に達したので、登録を打ちきらねばなりませんでした。ピッツバークのカ ーネギー図書館から行われた、この前のワークショップ “Navigating the Internet: Let's Go Gopherin'"(Gopher というのは人気のあるインターネ ットインターフェースです)は、54ヶ国から19,994人の人を引きつけました。 これらの公教育外で行われた、基礎的なEメールの授業は、distance educa- tion に対して、このコミュニケーションメディアが持つ潜在的可能性を示 してくれます。グラフィックス、ハイパーテキスト、コンプレスビデオ、音 声とマルチメディアが加わると、distance education における授業の情報 配布は革命的に変わることでしょう。大学の中には、インターネットを通じ て受講できる degree programs(訳注6)を開始しつつあるところもいくつ かあります。 テレコミュニケーションの技術は、生徒、教職員、研究者、大学教員に情報 を提供する任務を持つ教育関係者や図書館職員に対して、多岐にわたる指導 の機会を勢ぞろいさせました。テクノロジーは、教師と生徒の間のコミュニ ケーションを拡大し、また、教師と教師、生徒と生徒の間のコミュニケーシ ョンも増す手段を提供しています。 正規に単位を認定される授業の場合もそうではないインフォーマルなワーク ショップの場合も、どのような聴衆に焦点を絞るか、どのようなテーマに焦 点を絞るか、ということは、多くの教育関係者や図書館専門職者たちが選択 として考えつつあることです。 印刷教材に大幅に依存し、それをオーディオテープや電話でのコンタクト、 ビデオテープ、カラースライド、図、実物見本セット等で補強した、伝統的 な distance education (通信教育)の制度とは異なって、インターネット は、Mosaic のようなソフトウエアによって、グラフィックス、音声、ビデ オファイルへのアクセスを増し、しかも、リアルタイムのコミュニケーショ ンができます。革新的なコンピュータとテレコミュニケーションのテクノロ ジーが、コミュニケーションの新たな手段を加えることによって、伝統的な distance education の幅を広げ、高めているのです。 生産性の高いものにするためには、distance education は、有効でかつ効 果的な方法で受講者同士の情報の交換ができなければなりません。コンピュ ータとテレコミュニケーションのテクノロジーは、ユニークな方法のコミュ ニケーションを提供しており、これらのテクノロジーを用いる利点と弱点の 例は、文献の中に数多く書かれています。 Hiltz は、コンピュータに仲介されるコミュニケーションを、中等後教育 (訳注 日本流に言えば、高校卒業後の教育)の、伝統的な教室での授業を 補完する付加的機能とするのと、授業配布(course delivery)の主たる方法 とするのと、両方の方法で用いてみました。生徒が質問に答え、他の生徒の 答えにさらに反応する電子会議は、“virtual classroom" (仮想教室)の中 でのコミュニケーションを作りだし、効果的な、しかし伝統的な教室でのコ ミュニケーションとは異なるタイプのコミュニケーションであることが分か りました。このコミュニケーションにおける変化は、他の人たちによっても 報告されています。すなわち、ペーパーレスなネットワーク内でのコミュニ ケーションは、メッセージが同じフォントと同じスクリーンサイズで現れ、 生徒が読むとき同じ敬意を払い、教師からの情報も、生徒からの情報も同等 となり、メールを書く人同士のコミュニティの中で力を水平的に広げる傾向 があることを、実験は示しています。 Houston Community College System の distance education のクラスで、 モデムを使って正規の認定授業をする実験が数年間行われましたが、dis- tance education は、教室での伝統的な授業や昔の distance education の授業にくらべて、いくつかの利点を持っていることが分かりました。結果 のいくつかは、次のような利点を示しました: (1) 即時性−−とくに、印刷物中心の通信教育による授業と比較して。 (2) グループアイデンティティの感覚−−コンピュータシステムが、生 徒の出会いの場になった。 (3) 対話の改善−−生徒は、伝統的な教室のセッティングより、対話が 多くなった。 (4) 教師のコントロールの改善−−コンピュータシステムは活動の記録 を取ることができる。 (5) 積極的な学習−−生徒の授業参加が活発になった。 最後に、インターネットは、地理的に分散した、何千人もの人々に情報を配 布する便利な手段であり、距離や、伝統的な教室の教育セッティングで通常 見うけられるような文化的多様性というような障壁を取りのぞきます。 たとえば、この節は、私の自宅で書かれ、 2400 ボーのモデムを通じてルイ ジアナにある私のローカルのアカウントに送付されました;それから、私は、 文書を、即時に、ピッツバーグにある私のアカウントに ftp しました;最 後に、私はこれをアラバマにいる Patrick にEメールで送り、それから Patrick がそれをあなたのところに届けたのです。私は、"Navigating the Internet" という本を3カ月で共同執筆しましたが、その間、カリフォルニ アにいる共同執筆者の Mark Gibbs とも、インディアナポリスにある出版社 の SAMS 社とも、一度も会いませんでした。 Distance education は、教え る者にとってもボーナスがあります。“Let's Go Gopherin'" は、オハイオ ミシシッピ、ペンシルバニア、その他のさまざまなロケーションから配布さ れましたが、私はその間、旅行していました。 電子的配布方法を用いての distance education というのは、新しい考えで はありません。オーストラリアと英国は、テレコミュニケーションを通じて 多数の人々に電子情報を与えることにおいて、劇的なステップを遂げました。 合衆国では、インターネットの爆発的な発達と National Research and Edu- cation Network (NREN) が提案されて、今や、学校教育における情報の配布 が、経済的かつ効果的な方法で、可能になりました。 もちろん、新しいテクノロジーが教育に影響を与えるであろうということは 以前から予測されていましたが、その潜在的に持つ可能性を十分発揮するま でになっていませんでした。公共のテレビはその最たる例です。幼稚園から 高校に至るまでの教育や、さらに高等教育に影響を与えるであろうと予言さ れながら、公共テレビは、伝統的な教室のセッティングのほんの小さな補足 として役だってきただけでした。しかし、今日のテクノロジーは、教室に入 りこみつつあるだけでなく、大学教授や教師の、職場の机の上や、さらには 自宅の机の上にすら、ひろく見いだされるようになっているのです。テクノ ロジーに容易にアクセスできるというこのことが、これが教育に影響を与え るうえでの主たる原因になるのです。 高等教育は、Al Gore の情報スーパーハイウェイのビジョンの中で、きわめ て重要な役割を果たすでしょう。 MCI(訳注7) や Bell (訳注8)といっ たような、主たる商用テレコミュニケーションの巨人は、現在のインターネ ットを、簡単に使えて、一般の人々がアクセスできる、情報配布のシステム へと変えつつあります。この、広範にわたるアクセス、すなわち、世界中の 学習者に教え、情報を伝達する方法のゆえに、学際的な学問背景、多様な機 関、多様な文化出身の教育に携わる人々の共同でもって、教育は、伝統的な 教師・教室という環境から、壁のない virtual classroom (仮想教室)へと 変わってゆくことになるのです。 スミス氏の注 (いろいろなところから取ってきているので、形式が統一されていなくてす みません。) Blaschke, Charles L. 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Smith                rjs@lis.pitt.edu 翻訳者            関口礼子                     sekiguch@ulis.ac.jp             Roadmap Lessons 日本語版著作権所有者     (c) 1995 Reiko Sekiguchi                sekiguch@ulis.ac.jp 本稿は、1995年3月19日、パトリック・クリスペン氏から関口が翻訳・ 配布の許可をいただいて、翻訳・配布しているものです。