論文執筆と編集のためのツールとしてのSGML −「情報管理」冊子体と全文DBの同時発行に向けて−

森田歌子 新名真紀子
科学技術振興事業団 科学技術情報事業本部 「情報管理」編集事務局
鈴木政彦
科学技術振興事業団 研究基盤情報部
石黒裕康
科学技術振興事業団 科学技術情報事業本部 システム開発部
〒102 千代田区四番町5番地3
Tel:03-5214-8415
Fax:03-5214-8417
u2morita@mr.jst-c.go.jp

「概要」

「情報管理」誌では,効率的編集とより高度な利用,マルチメディア化(冊子体・全文DB・CD−ROM・WWW等)を目的として,JICST DTDの開発を行い,SGML文書作成システムの検討を行った。この検討・開発はJICSTの次期システム開発と冊子体作成の編集の立場から相互で意見交換を行いつつ進めた。このSGML文書処理システムを使用して「情報管理」(Vol.38No.8)冊子体作成と並行してSGMLデータ作成,CD−ROM版,Internet上での試験的公開を行った。その後,論文作成(執筆・編集)の段階でのSGML文書データ作成,SGML文書データを元にした冊子体の作成と全文DB作成の同時進行の検討を行っている。本稿では,編集の立場から,DTD開発の経緯及びSGML文書入力・作成の実際と問題点,冊子体作成のための組版試みの概要及び課題を述べる。

「キーワード」

SGML,冊子体,論文執筆,編集,DTD,全文DB

SGML as a Tool for Writing and Editing Academic Journal Articles -- for Parallel Publishing of Printed and Fulltext DB of "Joho Kanri" at JICST

MORITA Utako, SHIMMYO Makiko, SUZUKI Masahiko, ISHIGURO Hiroyasu
Japan Science and Technorogy Corporation, Information Center for Science and Technology
5-3,Yonban-cho, Chiyoda-ku, Tokyo 102 JAPAN
Tel:+81-3-5214-8415
Fax:+81-3-5214-8417
u2morita@mr.jst-c.go.jp

[Abstract]

The publishing division of the "Joho Kanri" journal at JICST has developed a set of Document Type Definition (DTD) and an experimental SGML-based publishing tool as a prototype of the next generation publishing environment, which will have tools for efficient editing, publishing and delivery of the journal and for publishing in multiple media, e.g., printed paper, fulltext database, CD-ROM, and WWW. The division has published an issue of "Joho Kanri" (Vol.38, No.8) encoded in SGML based on the DTD via CD-ROM and the Internet in parallel with publishing in print. The division has been working on evaluation of usability of SGML in the writing and editing processes and parallel production of the printed and electronic journals. This paper describes the experimental publishing tools and discusses key aspects based on the experiences on the tools.

[keywords]

SGML, publishing, editing, writing, DTD, full-text database

1 開発の経緯と概要

1.1 情報管理誌の構造とDTD

 情報管理誌のSGML化を検討するに当たり、現在行っている編集プロセス等についての先入観を全く捨てて、全く別な視点で「情報管理」誌を見てみることとした。

 そこで、まず最初に、既に発行済みの3年分を取り上げ、収録されている記事の構造の分析を行った(図1)。「情報管理」誌の記事は、論文、講演、連載、ディスカッション、ニュース、図書紹介、アナウンス、文献の紹介の、8種に分類できた。これは、「情報管理」誌自体が、情報処理関連の技術等の論文をまとめた雑誌としての性格から、比較的容易に推測される。中でも、本誌の大部分を占める論文は、一般論文、講座形式の論文、講義の論文などがあり、比較的構造がはっきりしている。その他のものについては、やや形式に統一性が少なく、個別に構造をまとめた。

 次に、「情報管理」誌のDTD定義を行った。情報管理誌のDTDを検討するために、まず、JICSTとして従来から利用してきている書籍・雑誌・論文という観点からのDTDの検討を行った。JICSTでは、入手した資料については、全て資料管理システムで資料の入手からJICST書誌データベース作成、JICST文献データベース作成、JICST英文データベース作成、そして閲覧・複写対応まで一元管理している。それに合わせて、二次情報DTD、雑誌DTD、基本ドキュメントDTDの3種を設定し、さらにそこから派生する予稿集DTD他を設定し,各々にエンティティを対応させた(図2)。このエンティティには、基本DTD構造構成、構成要素、要素、数式、化学式等が考えられる。

1.2 SGML文書処理システムの開発と試作

 これらの検討を元にJICST DTDの開発を行い,データ入力・作成・編集作業のためのSGML文書処理システムの開発を行った(表1)。SGML文書処理システムは,大別すると「データ入力支援ツール」,「SGMLデータ生成処理」,「SGMLーHTML変換処理」で構成されている。図3にシステムの概要を示した。

 このSGML文書処理システムを使用して「情報管理」(Vol.38No.8)冊子体作成と並行してSGMLデータ作成,CD−ROM版,Internet上での試験的公開を行った(http://www.jicst.go.jp.publish/joho-kanri/vol38/index_08.html)。

 現在,論文作成(執筆・編集)の段階でSGML文書データ作成,SGML文書データを元にした冊子体の作成のための組版への対応を検討している。

2 データ入力支援ツール「JICSTタガー」

 データ入力支援ツール「JICSTタガー」はワープロ/テキストエディタ,SGMLデータ生成・パージングソフトウエアを組み合わせ,SGMLタグの予備知識が無くても容易にSGML文書データを作成できる。このツールを使えば論文執筆の際,SGMLを意識すること無く,またSGMLタグを直接記述する必要が無い。あるいは原稿がテキスト形式で記述されていれば,編集の段階でこのツールを使用し,SGMLデータを作成することが出来る。

 このSGMLデータを元に全文DBの作成,HTML変換,組版ソフトとの組み合わせにより印刷物作成のデータ一元化が出来る。

2.1 原稿作成の道具としての[ツール]メニュー

 今回作成したJICSTタガー(以下,本ソフト)は,「一太郎」(Ver.6)文書に対してJICST DTDに沿ったタグを付けるプログラムで,以下の特徴を持つ

 本ソフトをインストールすると一太郎の[ツール]メニューに,ひな形読込,入力補助,タガー,TeXプレビュー,タガーその他の5つのコマンドが割り付けられる(図4)。

2.2 SGML文書作成の流れ(図5

(1)「ひな形読込」コマンドでひな形を読み込む。その際,既存のDOSテキストの原稿があればそれを読み込むことができる(図6)。

(2)読み込まれたひな形を元に,入力規約に従って文書を作成・更新する。その際,「入力補助」コマンドを使用すると各要素を手軽に入力できる(図8)。

(3)文書の入力が終了(図9)したら,[タガー」コマンドを実行する。SGMLタグが付けられ,SGML文書に変換されDOSテキストの形式で保存される。エラーがあればSGML文書に脚注としてメッセージが挿入される。

(4)文書にエラーがあった場合は(2)に戻って修正する。 これ以降,TeXプレビューを使い印刷イメージの確認も出来るが,「情報管理」ではTeX以外の組版プログラムでの印刷を検討しているので,ここでは省略する。

図10

3.SGMLデータによる冊子体の作成

 「情報管理」は月刊誌で,現在は毎月,印刷物として発行しているが,今後,編集・印刷の段階でSGMLデータを作成することにより,全文DBと冊子体の同時発行に向けて検討し,出来るだけ早い時点で実現するために鋭意,作業を進めている。

 現在,SGMLデータによる日本語組版のプログラムの検討を行っているが,「情報管理」誌の性格から派生する問題も存在している。本誌は学会誌と商業誌の中間的な性格を持つ雑誌という位置付けにあり、その扱う分野は科学技術だけでなく、社会・経済や文学、歴史さらには美術・芸術など、非常に多岐にわたっている。また内容も論文や解説、あるいは半ば広告・宣伝の意味を含むものまである。そのためタイトル、章・節などの定義が難しいものがかなり含まれ、その扱いが繁雑である。また、商業誌的な部分としてイラスト的性格を持ったレイアウトや飾り等も相当含まれる。その扱いについては基本的には編集の意図、すなわち見栄えを良くし読み易さを多く求めるか、逆に内容を中心として定型的な紙面作りとするかといった観点に切り分ける必要がある。

 しかし,最近は組版編集のかなり細かい要求にも対応できる可能性をもつプログラムが開発されてきたので,具体的な検討を始める予定である。

4 今後の課題

(1)操作性の改善と普及

 原稿執筆者が,簡単に使える原稿用紙として利用できるよう,入力の操作性を改善するとともに,使用できるワープロ/テキストエディタを拡張する。

(2)編集者と出版社の役割

 SGMLデータ作成と編集・印刷の工程を簡略化し,作業内容を明確にする。簡略化することにより編集の効率化を図る。

(3)冊子体と全文DBの同時発行

 編集の効率化によって同時あるいはタイムラグを最小にすることが可能になるであろう。編集の効率化を図るに当たって、考慮すべき点がいくつか考えられるが、基本的な部分については現在,相当に技術的に解決されているので具体的な検討を行っていけば、冊子体と全文DBの同時発行への足掛かりとなるのではないかと考える。

(4)SGMLデータに対応できる日本語組版プログラムの改善

5 参考文献

[1]JIS X 4151,文書記述言語SGML,(1992)

[2]石塚英弘.SGMLと全文データベース.情報管理.Vol.37,No.2,p.148-159

[3]石塚英弘.SGMLによる情報知識学会誌の印刷編集について.情報知識学会誌.Vol.1, No.1,p.24

[4]石塚英弘.SGML形式による学会誌全文データベースの構築と印刷.情報知識学会誌.Vol.2, No.1,p.23-48

[5]森田歌子,鈴木政彦,宮川謹至,浜中寿.SGML方式による情報管理誌全文データベース化の可能性とHTMLによる電子版情報管理誌の試作.情報学基礎.37-2,p.7-14

[6]石黒裕康,千葉博,森田歌子.SGML文書作成プロトタイプシステム.第33回情報科学技術研究集会予稿集.p.68-72,

[7]森田歌子.学術論文の制作と標準化.医学情報サービス研究大会予稿集.(1996)