自治省コミネット構想における図書館情報ネットワークシステムの概要
楠 正宏
株式会社日本総合研究所 ネットワークインテグレーション事業部
〒102東京都千代田区一番町16番
Tel: 03-3288-4804, Fax: 03-3288-4808, E-Mail: kusunoki@tcom.jri.co.jp
三原 純一
(同上)
E-mail: mihara@tcom.jri.co.jp
概要
平成3年度から自治省が推進する地域情報ネットワーク整備構想(コミュニティ・ ネットワーク構想)において、図書館情報ネットワークシステムの開発と、地方公共団体における事業化に取り組んだ。
地域情報ネットワーク整備構想では、効率的で機能的にも優れた情報通信シスムを全国的に普及させることを目指し、地方公共団体におけるシステム開発を支援しながら標準的なシステムを作成することを目標にしてきたが、本年度をもって開発を終え、来年度から普及促進を行うこととなった。
図書館情報ネットワークシステムは、公共図書館をネットワーク接続し、相互貸借等の図書館業務を支援する機能等を有しており、総合目録データベースを技術的な核としている。電子図書館の前段階として図書館間のネットワーク実現の気運も高まっているので、本システムの普及促進を目前に控えた機会に、システムの概要や開発のポイント等について報告させて頂く。
キーワード
図書館情報ネットワーク、総合目録、相互貸借、ILL、ウォンテッド、書誌同定、MARC、書誌ユティリティ
Development of "Library Information Network System"
on Community Network System Project
Masahiro KUSUNOKI
The Japan Research Institute, Limited
16, Ichibancho, Chiyoda-ku, Tokyo, 102, JAPAN
Phone: +81 3-3288-4804, Fax: +81 3-3288-4808,
E-Mail: kusunoki@tcom.jri.co.jp
Junichi MIHARA
The Japan Research Institute, Limited
E-Mail: mihara@tcom.jri.co.jp
Abstract
This paper describes feature of Library Information Network system.
Keywords
library, inter library loan, MARC, bibliography, datebase
1. はじめに
近年における情報通信技術の目覚しい発展に伴い、社会のあらゆる分野で情報化が急速に進展している。地方公共団体においても、地域住民の福祉の向上と地域の活性化を図る上で積極的に地域の情報化を推進することが求められており、地方行政の分野における情報通信システムの整備と活用が重要とされている。
こうした背景に鑑み、自治省では平成3年度より地方公共団体等の先導的な地域情報通信システムの開発及び運用に関する事業を地域情報ネットワーク整備構想(コミュニティ・ネットワーク構想)として推進し、効率的で機能的にも優れた情報通信システムを全国的に普及させることとし、図書館情報ネットワークシステム、公共施設予約・案内システム、地域カードシステムの3つのプロジェクトについて事業実施団体を指定し、各団体におけるシステム開発を支援しながら、全国で共通的に利用できるシステムの構築を行ってきた。
本システムの設計と開発は、財団法人地方自治情報センターの事業として行われ、学識経験者等による委員会の議論を踏まえ、株式会社日本総合研究所が委託を受け作業にあたり、平成8年度をもって完成の運びとなった。
現在、青森県、宮城県、山梨県、福岡県、京都府亀岡市、長崎県佐世保市においてシステムが稼動しており、平成9年度より全国の地方公共団体への普及を目指すことになっている。地方公共団体は、低廉な料金を(財)地方自治情報センターに支払うだけで導入することになる予定である。
本論では、係る図書館情報ネットワークシステムの機能や開発ポイント、地方公共団体への導入を通して得た知見、および今後の展望等について、概要を紹介する。
2. 図書館情報ネットワークシステムの要件と仕様
2.1 図書館情報ネットワークシステムの機能
図書館情報ネットワークシステムは、地域情報環境の整備に重点をおいて検討され、地域における公共図書館間のネットワークにより図書館サービスの充実を図ることを要件とし(図1)、相互貸借を電子的に支援する機能、ウオンテッド(所蔵等情報を提供依頼する掲示板)機能、および郷土資料等の目録共同作成を支援する簡易な書誌ユティリティ的機能を主要機能としている。また、端末ソフトウェアとしては、司書をはじめとする図書館職員が高度な書誌検索を行える職員向けの端末機能と、利用者が容易に書誌検索ができるタッチパネル式のOPAC端末機能を用意した。(図2)
2.2 総合目録方式の採用
相互貸借の支援を実現するため、地域の図書館の所蔵資料を横断的に検索する仕組みが必要である。想定される図書館の数は中心になる都市とその周辺の図書館数、あるいは県域に存在する図書館数であり約10〜100館である。また司書をはじめとした図書館職員による高度な検索(書誌項目間の論理演算等)を実現する必要がある。こうした要件から、データを1箇所に集中させ高度な検索等が迅速に行える総合目録方式を採用した。
2.3 最小標準MARCの設定と流通MARC形式への対応
総合目録データベースの構築に際して目録内容のレベル合わせ等が必要となり、最小限登録すべき書誌項目のガイドラインを定め最小標準と名づけた。一方、現実の図書館のMARCの利用状況を鑑み、普及している流通MARCなど多様な形式のMARCを受け入れることを可能とするようデータベース登録ファイル形式を用意し、フィルターにより流通MARC等を登録ファイル形式に変換する仕組みを準備した。
2.4 書誌並置方式の採用
総合目録を構築する場合、書誌を同定して(名寄せして)データベースの集約を行うかどうかがしばしば議論になる。書誌同定を行う場合と同定せずに書誌を並置する場合の利害得失は次のとおりである。
(書誌同定を行う場合のメリット)
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検索結果が1書誌1回答となりすっきりする
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所蔵資料の種類を特定でき、資料管理ができる
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データベースが圧縮でき記憶装置の容量が節約できる
(書誌同定を行う場合のデメリット)
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同定と見做すための条件設定が困難なため、自動化すると誤同定による書誌消失の危険があり、半自動では専門家による特定作業が必要になる
(書誌並置方式のメリット)
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システムの仕組みが簡単である
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各図書館が記述した目録を保存・尊重できる
(書誌並置方式のデメリット)
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検索結果が1書誌1回答とならない(ただし、この件は、表示時に集約することにより解決する方法がある)
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データベースが冗長巨大化し、記憶装置のコストがかかる(ただし、この件は、記憶装置の低価格化により問題視されることが少なくなってきている)
こうした比較を踏まえ、地域情報としては、オリジナル書誌の尊重と誤同定による消失危険の重大性、およびシステムの簡易化の観点から書誌並置方式を採用した。ただし、流通MARCの場合、MARC IDのユニーク性が確実であり、誤同定リスクが極めて少ないことから、これをキーとした同定は可能な仕組みとした。
2.5 オープン技術、世界標準プロトコルの採用
地域の図書館においても着実な機械化が進展しており、様々なメーカーによる様々なアーキテクチャ、様々なプロトコルが使用されている。図書館間を接続するネットワークシステムでは、こうしたシステムとの接続をニュートラルに保つ観点からオープンな技術を基本とすることとし、出来る限り世界標準プロトコル(TCP/IP等)を採用する方針とした。これにより、様々なレベルによる各図書館の業務システムとの接続や共存を比較的低コストで実現できるように配慮した。
また、アーキテクチャとして、サブシステム間を平易な文字ベースの電文で結合するオープンな仕組みとした。
この電文はネットワークシステムを介して送受信することが可能で、クライアント/サーバ間通信プロトコルとして取り扱うことができる。この際、Z39.50プロトコルのサポートを検討したが、書誌項目を示すタグが米国LC MARCをベースとしており日本への適用には拡張が必要となることから、これを本システムの開発において独自に行うのは好ましくないと判断し、スケルトンを参考にするのに留めた。
こうした電文やプロトコルの設定により、システムの拡張やカストマイズにも比較的柔軟に対処可能となっている。
2.6 動態確認を部分的に実現
地域に中核となるセンター図書館(以後センター館)が存在する場合、その図書館の業務システムを地域に開放して相互貸借を実現するような取り組み例がある。この場合のネットワークは、センター館が一方的にサービスを提供する形態であるが、センター館の機械化システム(業務システムパッケージ)のすべての機能や情報を周辺の図書館に提供することも可能である。
一方、図書館情報ネットワークシステムは、センター館の業務システムと並置して総合目録システムを設置することになり、業務システムの機能や情報を利用できない。
この際、特に議論になる事項に資料の動態情報がある。資料が貸出し中であるか、書架に在庫していて貸出し可能であるかといった情報は、業務システムにおいて利用者への貸出し処理と同時にトランザクション処理され管理される情報であるため、業務システム以外が即時にその情報を得ることは難しい。
そこで、本図書館情報ネットワークシステムでは、リアルタイムで業務システムに対し動態情報の照会を行うアプリケーション間通信のインタフェース(プロトコル)を用意した。業務システム側にこの応答機能を構築すれば、総合目録検索の際にリアルタイムでその資料の動態情報が入手できる。
2.7 端末接続インタフェースと2種類の端末ソフトウェア
2.5で触れたクライアント/サーバ通信プロトコルをサポートする端末ソフトウェアとして、職員向けの高度な操作が可能なGUIソフトウェアと、タッチパネル方式による一般利用者向けのOPACソフトウェアの2種類を、MS-Windowsベースで開発した。TCP/IPベースのネットワークインフラ上で、広く利用可能となっている。
3. 普及フェーズへの展望
3.1 財団法人地方自治情報センターを介して頒布予定
本図書館情報ネットワークシステムの標準システムは、財団法人地方自治情報センターが著作権を持ち、平成9年度以降は、地方公共団体が希望する場合、低廉な使用許諾料金によりこれを自由に使用することができるようになる予定である。この際、システムの導入や運用などの支援が必要な場合は、業者が使用許諾を得て支援作業を行うことができる。
3.2 容易なカストマイズ仕様の公開
本システムは、第2章でも触れたようにオープンな技術により構築しており、様々な拡張やカストマイズ、様々な外部接続が可能となっている。拡張用の公開仕様として以下を予定している。
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拡張API・・サブシステムの外部電文仕様に基づき、システムの自在な拡張を可能としている。(図3)
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クライアント/サーバ間通信プロトコル・・・拡張APIうち、特にクライアントとサーバ間の通信を行う電文プロトコル。様々な仕様の端末ソフトウェアを開発することができる。
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受入MARC仕様・・・データベース登録ファイル形式。この形式へ変換するフィルターを利用することが前提で、そのフィルタの入力ファイル形式を自在に拡張できる。
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動態照会API・・・業務システムに対して動態情報の照会を行うアプリケーション間通信のインタフェース。業務システム側に応答機能を構築することにより様々なシステムとの接続が可能となる。
3.3 ポーティングの考え方
本システムの動作プラットフォームは、一般的に普及しているオープンな環境上で動作できるよう考慮し、サーバプログラムはUNIX、クライアントはMS-Windowsをベースに開発した。サーバプログラムについては標準的UNIX環境への移植性があり、多様なバージョンやリリースメーカー等へのポーティングすることができる。
3.4 全国ネットワークへの展望
IPA(国立国会図書館)の全国書誌や学術情報センターなどの全国規模の取り組みに対しては、特別な接続の仕組み等は用意していないが、オープン技術の延長線上で効果的な関わりが実現できると期待している。
また、世界的にもしばしば議論に上るZ39.50プロトコルへの対応についても、スケルトンはすでにサポート済みであり、MARC識別子タグ等の標準化がなされれば対応可能であると考えられる。
地域ネットワーク、全国ネットワーク、国際的なネットワークという階層的な発展が行われることを期待する。
4. 実際の導入展開を通して
4.1 6個所の地方公共団体へ導入展開
本システムは、自治省の指定による6個所の公共団体に対して、地域の特性を配慮したカストマイズを行いながらシステムを開発し、順次稼動に漕ぎ着けた。稼動順に実施団体を紹介すると以下の通りである。
(平成5年度稼動)青森県、長崎県佐世保市広域圏
(平成6年度稼動)山梨県
(平成7年度稼動)福岡県
(平成8年度稼動)京都府亀岡市広域圏、宮城県
4.2 いくつかの問題と課題
本システムの開発と導入展開を通していくつかの問題・課題に出会ったので、箇条書きにて主な事項を列挙しておく。
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現実のMARCの多様性と仕様のぶれ
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総合目録構築のコスト(データ抽出コスト)
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相互貸借における物流コスト
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相互貸借の対象とする資料の価値
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MARCのネットワーク使用料金
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複数システムの融合におけるシステムインテグレーションの責任分界
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技術進化の速さと開発時期
等
5. おわりに
平成3年度以来5年にわたって本プロジェクトに参加させて頂いたが、着手当時、公共図書館には無縁のものと思われたインターネットが情報スーパーハイウェイやマルチメディアのブームとともに急進展し、存在すらなかったWWWサーバやMosaic(ブラウザ)が標準プラットフォームとしての地位を確立した。まさに情報通信技術の革命期に行われたプロジェクトであったとの感がある。
システム開発にあたっては、こうした次々に登場する新しい標準を出来る限りフォローアップすることによりシステム仕様が陳腐化しないよう設計変更を重ねたが、何とか今後21世紀を展望する中でも存在価値があるシステムになっていると考えている。
本ネットワークシステムが各地で使われ、地域ネット、全国ネット、世界ネットの一要素として機能することを、プロジェクトに携わった者として期待する限りである。
謝辞
本システムの開発と公開は、自治省 自治大臣官房 情報管理室、および財団法人地方自治情報センターのご尽力により実現致しました。また、システムの構想、要件定義におきましては、図書館情報ネットワーク委員会の諸先生方にご教示をいただき、実際の設計、導入に際しては、青森県、宮城県、山梨県、福岡県、京都府亀岡市、長崎県佐世保市にご苦労をお願いしました。この場を借りて御礼させていただきます。