ネットワーク情報資源における情報単位の識別 − IETFにおけるURIを例にとって −

福田 求,野末 俊比古,根本 彰
東京大学大学院教育学研究科
〒113 東京都文京区本郷7-3-1
Tel: 03-3812-2111(内線3976) Fax: 03-5800-6810
E-mail: {fukuda, tnozue, anemoto}@educhan.p.u-tokyo.ac.jp

概要

 情報をどのようなまとまりで取り扱うか,すなわち「情報単位」をいかに認定する か,というのは,新たな情報サービスを行う上で基礎的かつ重要な論点である。現在 のコンピュータネットワーク上では,従来の図書館が行なってきた情報サービスの立 場から見ると,効果的な形で情報資源が提供,利用されているとは言いがたい面があ るが,本稿ではまず,この「情報単位」という視点から従来の図書館資料とネットワ ーク情報資源を比較検討することで,今後のネットワーク上の効果的な情報サービス の方向性を考える。また,ネットワーク情報資源の単位の認定・識別の仕組みについ て議論を行なっているIETFによるURI,その中でも特にURNの構想について紹介し,考 察を加える。

キーワード

ネットワーク情報資源,IETF,URI,URN

Identifying a Unit of the Networked Information Resouce - URI of the IETF -

Motomu FUKUDA, Toshihiko NOZUE, Akira NEMOTO
Graduate School of Education, The University of Tokyo
7-3-1, Hongo, Bunkyo, Tokyo, 113, JAPAN
Tel: 03-3812-2111(ext.3976) Fax: 03-5800-6810
E-mail: {fukuda, tnozue, anemoto}@educhan.p.u-tokyo.ac.jp

Keywords

Networked Information Resource, IETF, URI, URN

1. はじめに

 コンピュータネットワークが整備され,その上に多様な情報資源が大量に提供され るようになった現在,ネットワーク情報資源は情報利用行動において無視できないも のとなった。人々はネットワーク上で,情報を提供,入手,コピー,加工,削除,移 動する「自由」を謳歌しており,これにより質的にさまざまな情報資源がネットワー クに点在することになった。この様にある程度自由に情報を提供,利用できることは ネットワーク情報資源の長所ではあるが,現時点では,従来の印刷資料を中心的に扱 ってきた出版流通や図書館といった場における情報の提供,利用の仕方から見ると, 効率的,効果的なシステムが確立しているとは言いがたい。

 そこで本稿では,ネットワーク情報資源の効果的な情報システムの確立のための第 1歩として,ネットワーク情報資源の特性を,情報を管理する上でも提供,利用する上 でも重要な視点となる,「情報の単位(まとまり)」について,見ることにする。そし て,この情報の単位に関する世界的な動向の1つとしてURI,その中でも特にURNについ て紹介し,考察を加えることにする。

2. 情報単位から見たネットワーク情報資源

2.1 情報の物理的単位と内容的単位

 ネットワーク上で効果的,効率的な情報サービスを構築するにあたって,ネットワ ーク情報資源の性質を把握しておく必要がある。その際,これまで図書館が扱ってき た図書館資料との比較において検討すれば,ネットワーク情報資源の性質を浮き彫り にできるだけでなく,図書館が積み重ねてきた情報を扱うノウハウを活かせるかどう か,活かせるとすればどういう部分についてか,その時の条件は何か,などが分かり, ネットワーク上の情報サービスをよりよい形で構築するための,何らかの示唆が得ら れると期待できる。なお,ここでいう図書館資料とは,従来図書館で一般的に収集, 蓄積,提供,検索などのサービスの対象としてきた,印刷媒体を中心とする,いわゆ るパッケージ型のメディアを指す。

 ネットワーク情報資源および図書館資料の性質を整理するにあたって,いくつかの 視点がありえるが,ここでは図書館情報学においても重要である,情報の「単位」[1] というものに注目してみたい。情報の単位とは,「その外部とは何らかの区別(境界) によって隔たれており,内部は何らかの一貫性や共通性を持っているようなまとまり」 を言う。この情報の単位はさらに作業的に,「物理的単位」と「内容的単位」とに分 けて考えてみることができる。

 「物理的単位」とは,「その中味が何であるかにかかわりなく,外側から見てわか るような,何らかの形態・形式的な境界によって,外部と区切られているようなまと まり」である。例えば,図書館資料においては,「紙」(正確にはインクや綴じ糸など も含む)という物理的な形態によって,その外側とは区別された「冊子体」という存在 が物理的単位の重要な一つとして挙げられる。ネットワーク情報資源においては, 「ファイル」や「ディレクトリ」といった,コンピュータによって電子的にその外側 と区別されるような形態・形式でまとまっているものが物理的単位の例となる。

 一方「内容的単位」とは,「文字,画像,音声などによって表象されるものが,外 界とは異なる,何らかの一貫性や共通性のもとに集合しているまとまり」を言う。図 書館資料においては,例としては,一定の「書名」のもとに,一定の「著者」によっ て書かれた「テキスト」という一貫性を持ったまとまりは,「著作(work)」と呼ばれ る内容的単位である。ネットワーク情報資源においては,あるテーマのもとにリンク を集めた「ホーム(Web)ページ」の内容のまとまりや,あるいは,図書館資料と同様の 「著作」というまとまりなどを内容的単位ということができる。

2.2 ネットワーク情報資源の性質

 さて,以上のように規定した意味での情報の物理的,内容的単位という観点からは, 図書館資料とネットワーク情報資源の性質は,次のように整理することができよう。 まず図書館資料は,物理的単位である「冊子体」と内容的単位である「著作」との結 び付きが堅固である(図書館で扱ってきた資料は図書,雑誌などの印刷資料以外にもた くさんあるが,それらも印刷資料と同等に考えることができる。例えば,音楽CDにつ いては,「ディスク」=「冊子体」,「楽曲」=「著作」として,図書,雑誌と相当 の性質を持つと見なして,議論を進めることができる)。これに対してネットワーク情 報資源は,物理的単位である「ファイル」や「ディレクトリ」「サイト」などと,内 容的単位である「著作」「メモ」「ホーム(Web)ページ」「メール」などとの結び付き が安定していない。

 これは具体的には,次のようなことを意味する。すなわち,図書館資料は,一旦印 刷されて出版されてしまい,「冊子体」と「著作」との関係が固定化すれば,その関 係が変化することは比較的少ない。一方ネットワーク情報資源は,例えば「ファイル」 と「ホーム(Web)ページ」との関係は,ファイルに対し,削除,移動,変更,複写など の操作を与えることによって,簡単に変化してしまう。また実際にそうした操作は, 比較的頻繁に,かつ容易に行われる。あるいは,「ファイル」に新たな「ページ」へ の「リンク」が加えられるとか,他の「ファイル」とまとめて,一つの「ページ」に するなどの操作が行われる場合も,物理的単位と内容的単位の関係が変化する例とし て挙げることができる。

2.3 情報単位から見た情報サービスの方向性

 このようにネットワーク情報資源は,情報単位という視点から見ると図書館資料と は異なる性質を持つ。図書館が持っている組織化,蓄積,提供などのメカニズムと同 様のものを,ネットワーク上で構築するには,図書館のノウハウをすべてそのままネ ットワーク上で適用するわけにはいかず,何らかの方策を講じる必要がある。それに は,単純化して考えると,大きく分けて次の二つの方策があることになる。

 (A)一つは,ネットワーク情報資源に何らかの制約や制限を課し,その性質を図書館 資料の性質に近づける,という方針である。こうすれば,技術的な問題を含む他の課 題は解決しなければならないが,少なくとも単位という視点からは,図書館資料と同 様の方法によって,ネットワーク上に図書館サービスを展開することが可能となる。

 (B)今一つは,ネットワーク情報資源の性質に対応した,新たなメカニズムを持った, 情報サービスを作りあげる,という方針である。図書館のノウハウを拡張,拡大,あ るいは新しいノウハウを案出して,図書館資料では想定されていなかった,ネットワ ーク情報資源の性質にも対応しようというのである。こうすれば,ネットワーク情報 資源は現状のまま,制約や制限を課すことなく,情報サービスを展開することが可能 となる。

 ただし,(A)(B)の方策は背反するものではなく,最終的には,両者のバランスをと りながら具体的な方法を構築していくことになるだろうが,ここでは,議論を行うこ とが目的であるので,便宜上,両者を区別しておく。

 さて現在,ネットワークの世界では,さまざまな情報組織化,蓄積,提供,検索の ための試みが行われており,広く普及して,一般に使われているものも少なくない。 例えばWWWの世界で利用されている検索エンジンは,その試みの一つであるといえるが, これはネットワーク情報資源(の生産)には制約や制限を加えず,情報の組織化,検索, (アクセスの)提供を実現しようとするものである点で,(B)の方針が強く表われている と解釈できる。またIETF(後述)によって議論,提案,整備が行われているURI(後述)を めぐる構想も,情報の組織化,提供の試みの1つである。WWWブラウザの普及などによ って,広く認識されているURL(URIを構成する一つ,後述)のみを見ると,情報(の生産 )には制限や制約を加えないという点で,URIもやはり(B)の方向性を志していると解釈 できそうである。しかし,URIをめぐる議論を検討し,とりわけ現在議論の盛んなURN をも含めてURIの全体像を見ると,実は(A)の方向性を目指すものとも解釈できる。こ のことについて,次章以降でURI,URNを検討した上で,改めて考えてみたい。

3. URIによる情報単位をめぐる動向

3.1 URIの構成および現状

 URI(Uniform Resource Identifier)とは,大まかに言えば,ネットワーク情報資源 の統一的な記述方式であり,さらには,それを用いた情報の組織化や提供のメカニズ ムの構想である。このURIはインターネット上の諸基準を提案する団体組織IETF(Inte rnet Engineering Task Force)[2]内部において議論が進められてきた[3]。IETFには, テーマに応じてアドホックに設置されるワーキンググループ(WG)がいくつか存在する が,その一つであるURI WGが特にURI関連の議論を行なってきた[4]。このIETF内での これまでの議論をもとに,URIとは何かをまとめみる。

 URIは,URL(Uniform Resource Locator), URN(Uniform Resource Name), URC(Unif orm Resource Characteristic)という三者から構成されている[5]。このうちURLは, ネットワーク上の情報の物理的な配置場所(アクセス先)を記述するものであり,今日 WWWブラウザなどでよく目にするものである。またURNは,「情報資源の識別同定を行 う」という目的のために考えられた,情報資源に付与される「名前」である。ネット ワーク上では日常的に,情報は世界規模で移動されたり,複製されたりするが,その ような状況で,特定の情報を識別したい(例えば,ある情報は既に自分が入手している 情報と同じものか否かを判断したい)というニーズに応えるためのものがこのURNであ る。また,さらにこのURNを用いて,実際の情報資源自体や,情報資源の所在情報(例 えばURL)や書誌的な情報(例えば次に説明するURC)にたどり着く「レゾリューション」 という機能もURNのサービスとして求められている。そしてURCは,情報資源のさまざ まな特性に関するメタ情報,例えば,ある情報資源の作者(著者),データ形式,アク セス制限,価格などを記述するものである。これらを図書館資料の比喩でたとえると, URLは情報の配置場所を示す配架記号にあたり,URNは情報(の内容的単位)の識別同定 に用いられるISBN[6],ISSNなどの各種の識別コードにあたり,URCはさまざまな書誌 的情報(データ)に相当する。

 以下では,このようなURIの中でも,本稿の論点である情報単位の識別に特に関わる URNについて詳しく見ていく。

3.2 URNの概要

 URNの作業計画のアウトラインを提示し,IETFの中で今後も議論や作業を続けていく べきかどうかを確かめるため,1996年6月27日モントリオールにてURN BOFが開かれた。 このBOFにおける議論の叩き台として3つのInternet-Draft[7][8][9]が1996年6月13日 に公表されている。個別の議論は別として,全体の結論としては,今後もIETFにおい てURNの問題を論じる価値があるという総意が得られたため,URNのワーキンググルー プ発足に必要な書類(Charter)をまとめ,IESG(Internet Engineering Steering Grou p)に提出することが決められた。以下ではこの3部作をもとに,現在考えられているU RN像を概観する。

3.2.1 情報識別のための資源名の管理

 URNではまず「ネームスペース」というものを想定している。これは,情報資源の名 前を決定するルールに支配された空間(または集団)であり,各ネームスペースごとに, 資源名の表記方法や,資源名を与える主体,ネームスペース内の資源名の管理者など が存在する。ネームスペースとして,従来の出版流通で用いられているISBNやISSNを 利用しようという考えや,ネットワークに固有のネームスペースを利用しようとする 考えがあるが,このような複数のネームスペースの存在を認め,管理するために, 「ネームスペース登録機関」を設ける必要がある。すなわちURNの形式で資源名を表記 するためには,各ネームスペースがネームスペース登録機関に登録されていなければ ならない。また登録されることで,各ネームスペースはID(Namespace Identifier = NID。例えば"ISBN"や"ISSN""IANA"といったもの)を与えられる。

 各ネームスペースには,そのネームスペース内全体を管理する「ネームスペース管 理者」が存在する。またネームスペース管理者の下には,実際に資源名を付与したり, 付与する権限を誰かに委任する「ネーミングオーソリティ」が存在する。なお,ネー ムスペースによっては,ネームスペース管理者とネーミングオーソリティが同一であ る場合などもあり,ネームスペース内の構成は自由度を持たせてある。

 まとめると,世界規模で資源名を管理するために,「中央機関(ネームスペース登録 機関)において,資源名の管理や付与を行う集団(ネームスペース)を登録し」,「各集 団(ネームスペース)ごとに自身が扱う情報資源の名前を決定する」と階層的,段階的 な仕組みをURNは採っている。この仕組みをURNの表記方法に反映させることで,情報 資源に対する統一的な名前を付与できることになるが,このURNの一般的な表記方法は, 「URN:ネームスペースID(NID):ネームスペースごとの情報資源名(Namespace Specifi c String = NSS)」である。

  ・一般例  URN:NID:NSS

  ・表記例1 URN:ISBN:XXXXX URN:IANA:XXXXX

  ・表記例2 URN:inet:p.u-tokyo.ac.jp:XXXXX

        URN:inet:e.u-tokyo.ac.jp:XXXXX

 表記例1の場合,ISBNとIANAという2つのネームスペースで,それぞれ別の情報資源 に対して,XXXXXという同じ名前が偶然付与されたとしても,URN全体としてはネーム スペースIDの部分によって2つの情報の識別が可能である。また表記例2の場合は,同 じinetというネームスペース内で,各ネーミングオーソリティが,別々の情報資源に 対して,同じXXXXXという表記を用いても,ネーミングオーソリティ自身を表す部分 (p.u-tokyo.ac.jpとe.u-tokyo.ac.jp)で差異が存在するので,URNによって2つの情報 資源を識別できることになる。

3.2.2 レゾリューション

 上記のような仕組みによる情報識別のための資源名の管理だけでなく,その資源名 を用いた,「情報資源自体」の入手,あるいは情報資源の「所在情報」や「書誌的情 報」の入手の仕組み,すなわちレゾリューションの仕組みも,URNの文脈で議論されて いる。

 ネームスペースのID(= NID。3.2.1の表記例1ではISBNやIANAなど)が登録してあるシ ステム(NID Registry)にURNを入力すると,そのシステムはURNから「ネームスペース ごとの情報資源名(= NSS)」の部分を抽出する。そしてさらに,このNSSにネーミング オーソリティ(Naming Authority = NA。3.2.1の表記例2ではp.u-tokyo.ac.jpなど)自 身を表す文字列があるかどうかを判断し,あればNIDとNAを,無ければNIDのみを,レ ゾリューションサービス登録システム(Resolution Authority Registry)に引き渡す。 このシステムにはレゾリューションを行う複数のレゾリューションサービス(のID)が 登録されており,その中から,引き渡されたNIDやNAの情報を扱うレゾリューションサ ービスが,何らかの条件によって選択される。そして選択されたレゾリューションサ ービスへ,最初に入力したURNが引き渡され,最終的には,そのサービスが提供する結 果(情報資源自体,情報資源の所在情報(URLなど),情報資源の書誌的情報(URCなど)) が得られる。

 

 全体的にまとめれば,URNに関わる管理は,出版流通におけるISBNやインターネット におけるDNSに見られるような階層的な管理方法を採っており,各階層の機関が,自分 が付与する資源名を管理することで,URN全体として統一的な命名の仕組みを持ってい る,と言うことができる。また,各階層内の資源名の管理の仕方に関しては,自由度 が持たせてあるとも言える一方,未決定の部分や考察されていない部分があるとも言 える。現在は,URNの実現,普及に向けて,資源名のより具体的な付与,管理方法の議 論が待たれている。以下ではそのような議論のための論点を整理することにする。

4. 情報単位識別のためのURNの機能

 いかにURNを付与,管理し,URNを用いた情報単位識別のシステムを構築するかを考 えるためには,URNが本来どのような機能や特性を持っているべきかが明らかにされね ばならない。この章ではIETFにおけるURNに関連する前述のInternet-DraftやRFC1737 [10]を参考にしながら,URN自体が持つべき機能および,URNを取り巻くシステムの機 能について整理し,議論を行う。

4.1 URN自体の機能

4.1.1 固有性

 URNは,名前によって各情報の識別を行うものであり,各情報に付与される名前はそ れぞれ唯一無二のものでなければならない。すでに述べたが,ISBNやDNSと同様に,U RNでは命名のための組織を階層的に構成しているので,各組織が管理すべき資源名の 固有性のみを考慮していれば,URN全体では資源名の固有性が,原理的には容易に得ら れることになる。

 しかし,実際の個別のURN付与作業においては,名前は1つの情報の「内容」的まと まりに対応して付与されるため,情報「内容」の識別作業を行わねばならない。まず 名前を付与すべき情報内容のまとまり,すなわち情報単位を認識せねばならないが, 情報が互いにリンクされるハイパーテキスト構造の情報資源に代表されるように,ネ ットワーク情報資源には情報の内容的単位の認定が困難な場合もかなり存在する。ま た内容的単位の識別が比較的容易である場合でも,同じ内容とも受け取られる複数の 情報資源の,形式が異なる場合(例えばPostscript形式のものとPlain Text形式のもの )や,言語が異なる場合(例えば英語と日本語),同じ名前を付与すべきかといった点な ども,個別の情報資源を見ながら考慮せねばならないだろう。

 このように,1つの名前を1つの情報単位に対応させるといっても,情報内容の認定 に関わってくるため,情報の内容的まとまりについて従来考察してきた,図書館情報 学における情報組織化の議論を参考にし,またネットワーク情報資源の特性に即しな がら,URN付与作業を行っていく必要があるかもしれない。

4.1.2 持続性

 名前と情報資源の固有な対応関係は,(半)永続的に固定化されなければならない。 固有の名前をある情報資源に割り振ったとしても,その名前と情報資源の組み合わせ が簡単に変わってしまっては,名前(URN)による情報の管理は不可能である。現在のW WWの世界では,情報の名前(の代わり)としてURLを用いているが,これではディレクト リ構成を変更したり,情報を違うサイトにコピーしたりしただけで,名前が次々と変 化してしまう。情報を移動しても名前が変わらないような仕組み,すなわち名前が持 続性を持つ仕組みを考えるためには,やはりどこかで一括して,情報の所在には依存 しない,名前と情報資源の対応表を管理する必要がある。URNの仕組みは,情報の所在 に依存しない名前と情報資源の対応関係を登録する機関およびシステムを想定してい るので,持続性を実現する道具立ては存在していると言える。

 しかし「4.1.1 固有性」の場合と同様に,運用の面では解決すべき問題がある。例 えば,ネーミングオーソリティ以下の下位レベルの資源名管理で,各管理者の責任の もとに名前が付与されるわけであるが,出版流通におけるISBNのように名前をきちん と管理することで利益が得られるような場合には,命名機構の下位レベルにあたる出 版者も正確な管理を行うと考えやすい一方,利害関係とは関係なく情報を提供,利用 しているようなホームページの管理者が,名前を管理し続けていくことは,動機の面 からも困難な場合が生じると考えられる。また,大学など管理者の構成員が比較的頻 繁に変わると思われる機関での,継続的な管理も難しい面がある。つまり,ISBNは出 版者という比較的存在の安定した機関が管理主体であったので,実用に耐える安定し た名前管理が可能であったが,ネットワークの世界では,そのような安定した管理主 体が存在しにくいのである。URNの「持続性」は,安定した管理主体の選択や維持とい った部分に大きく依存することになるだろう。

 他にも,情報内容に関わる,名前と情報資源の組の維持方法の問題がある。例えば, ネットワーク情報資源においては,誤字,脱字が存在した場合はすぐに訂正したり, 少量でも新たな情報があれば,直ちに既存の情報に付加したり,といったことを比較 的容易に行うことができるが,このような情報内容の変更のどの段階で新たな名前を 付与するか,という問題である。僅か一文字訂正するたびに新たな名前を付与すれば, 無数のほぼ同様な情報に対して無数のURNが付与されてしまい,利用しにくい資源名と なってしまう可能性がある。このようなことは従来の出版流通の世界では,例えば, 図書の「版」レベルの内容変更があった場合は新たなISBNを付与するが,「刷」レベ ルの変更ではしない,といった大まかな線引きも可能であったが,頻繁に内容変更が 行われうるネットワーク情報資源では,資源名の管理はより複雑なものになるかもし れない。

4.1.3 適応性

 URNは,(1)伝統的な既存の命名法,例えばISBNのようなものを取り入れられる,(2) 現在ある多様なネットワーク情報資源に対して名前を付与できる,(3)将来に現れる情 報資源,プロトコル,レゾリューションシステム,アプリケーションなどにも利用で きるような自由度を持つ,といった「適応性」を持っている必要がある。

 出版流通におけるISBNは,図書に代表されるようなパッケージ型のメディアの情報 資源を中心的に記述すればよいため,名前を管理する国や出版者といった管理単位ご とに名前の記述法を工夫して変える必要はない。しかしネットワークでは,情報がさ まざまなプロトコルやサービス形態で提供されるため,それぞれに適した名前を付与 せねばならない。このような多様な情報提供形態に対応するために,URNはネームスペ ースごとに自由な記述方式を採ることを想定している。これは管理の側,命名する側 から見ると,非常に利用しやすい記述方式であるが,情報利用者の側から言えば,情 報サービスごとに資源名の記述方式が大きく異なる可能性もあり,資源名の記憶や転 写が難しいといった問題も現れるかもしれない。

4.1.4 簡易性

 URNは機械だけでなく人間にも利用しやすいものであるべきである。そもそもURNは 情報活動において補助的なものであり,ネットワーク上の諸活動を遅らせたり,妨げ たりするようなものであってはならないので,情報の利用者,提供者,管理者の誰に とっても出来るだけ容易に扱える必要がある。情報の利用者から言えば,「4.1.3 適 応性」を保証するためにネームスペースごとの記述の自由度を保証しつつも,統一で きる部分があればURN全体で記述の統一を推奨するといったことも必要かもしれない。 情報発信者や管理者の側から言えば,複数存在するレゾリューションサービスの中か ら自分の情報資源に適したものを簡単に選択できるようにすること,URNに関わるシス テムの実装が容易であること,なども当然考えねばならない。

4.2 URNを取り巻くシステムの機能

4.2.1 信頼性

 URNシステムに関わる情報は,故意にしろそうでないにしろ誤った書き換えから守ら ねばならない。「情報資源自体」「レゾリューションに用いる情報」「URN情報を変更 する人」といったものが「本物」か否かを確かめられる仕組みが必要である。この件 に関しては,ディジタルサインや暗号などのセキュリティ技術の進歩が常に要求され るが,URNのシステムは新たなセキュリティ技術に柔軟に対応できるようにしなければ ならないだろう。とにかく情報が無断で書き換えられたりコピーされたりしないよう な仕組みはURN実現に重要である。この要件は,URNだけでなく,従来の出版流通にの るような価値ある情報をネットワーク上で流通させるための必要条件でもあると言え る。情報内容の無断の変更や複製がなされる状況が続くかぎり,現在の出版流通にお いて経済活動を行っている出版者や著者は,今と同じようにネットワーク上に情報を 提供することには躊躇すると考えられるからである。

 一方,利用者の側からは,URNサービス利用時における検索過程(ログ)の情報など, プライバシーに関わる情報の保護がURNのシステムに必要な機能であろう。逆に情報提 供者の側では,顧客(自分が提供した情報の利用者,読者)情報の保護の機能が,商用 のレゾリューションサービス機関などでは特に必要かもしれない。

4.2.2 普及性

 「自由」を重んじるネットワーク上の精神風土において,「標準」的に特定の仕組 みが普及することは難しい面があるが,普及してこそ統一(Uniform)的な記述を行う意 味があるので,できるだけURN普及の状況を作り出さねばならない。

 URN普及の鍵をにぎるのは,一つはコストの問題であろう。例えば従来の出版流通の システムをネットワーク上にのせ,それによって利益を得ようとするような集団には, URNによる情報管理は有効なので,少々コストがかかってもURNを導入しようという意 識があるかもしれない。しかし,現在あるURLによって機能しているシステムに満足し ている人々は,URNを管理する労力や時間やお金を使うということは考えにくい。また URNの管理を責任を伴わない善意に基づいて行う,という考え方では,世界規模でかつ 大量の情報に対して安定したサービスは行いにくい。現実的には,コストをかけてま でURNによる管理を行うか否かで,特定の情報資源をURNサービスの対象とするか否か を判断することになるかもしれない。できるだけURNを普及させようとするならば,当 然諸コストを低くする工夫が必要である。

 一方,URNを広めるための人的な努力も必要である。URNを提供,利用する際には, この4章で述べているようなURNの持つべき機能についての知識が必要となるが,その 知識を広く伝達するような仕組みも必要である。現在日常的に利用されているシステ ム(メーリングリスト,ニュースなど)の利用のルールでさえ,新規の利用者に,きち んと伝達されているとは言いがたい。URNに必要な知識を整理し,正確に伝達する仕組 みを確立しなければ,何らかの障害が,特定の集団だけでなく,URNの性格上世界中に 広がる可能性もある。障害を引き起こさないまでも,URNを使いにくいものにしないた めにも,この要件はきちんと考慮すべきであろう。

 また,URNが普及するためには,4.1.4のURNの持つ簡易性というものが必要であると 同時に,URNの記述やそのレゾリューションシステムを利用するための,使い勝手のよ いインターフェース(ブラウザ)の出現が重要であると言える。URL(に対する知識)がM osaicやNetscapeによって世界的に一気に普及したように,URNにおいてもさまざまな ネームスペースの情報資源を統一的かつ効率的に利用できるインターフェースの出現 が必要であろう。

5. おわりに

 以上に見てきたように,本稿で紹介したURNは,さまざまな機能を持つべきであるが, 基本的には,情報の内容的単位の識別に基づいて付与されるものであり,URNに関わる 作業においては,内容的まとまりに対する何らかの制御が行われることが考えられる。 つまりURNを付与する対象としてふさわしい情報内容のまとまりを,取捨選択するなり 新たに創作するなりして決定し,そのまとまり=情報単位ごとに,レゾリューション サービス,すなわち情報そのものの提供や,所在情報や書誌的データの提供のサービ スを行うのである。このように考えると,このURNおよびそれを含むURIの構想は,取 り扱うネットワーク情報資源に制御を加え,図書館資料の性質に近づける,2.3の(A) の方向性に近いと言える。

 筆者らは,ネットワーク情報資源の提供サービスの方向性として,従来の出版流通, 図書館が行なってきたサービスこそが適当と考えているわけではない。冒頭にも述べ たように,自由で多様な情報の提供,利用こそがネットワーク情報資源の特長である。 その多様なサービスの一つとして,URIによる情報サービスは存在しているのであるが, そのようなサービスへのニーズは明らかにあるし,また,そのような形態でサービス を考えるならば,従来図書館情報学において議論してきた情報組織化,書誌コントロ ール,といった領域の知見を,役立てることができると考えられるので,さまざまな 問題,要件が存在してはいるが,このURIの考え方は妥当な方向性の一つであると結論 づけられるだろう。

参考文献

[1]図書館情報学における情報単位のより詳細,精緻な議論の例としては,

和中幹雄 資料の把握 <丸山昭二郎編『講座 図書館の理論と実際 3 目録法と書誌情 報』雄山閣,1993> p. 149-169.

がある。なお本稿においては,目的に従って議論を単純化するため,必ずしも「著作」 などの用語を厳密な定義のもとに使用していない。

[2]IETFについては

<URL:http://www.ietf.cnri.reston.va.us/home.html>

を参照のこと。

[3]URIに限らずIETFが提供するカレントな情報は

<URL:http://ds.internic.net/ds/dspg0intdoc.html>

などからアクセスできる。また,URI WG関連の情報は

<URL:http://www.ics.uci.edu/pub/ietf/uri/>

<URL:http://www.ietf.cnri.reston.va.us/html.charters/uri-charter.html>

にもまとめられているが,情報の更新が遅れている部分がある。他に,

野末俊比古,福田求,影浦峡“ネットワーク情報資源における書誌的記述の標準化: IETFによるURI構築への展開”『情報・ドキュメンテーション標準化ニューズレター』 No. 8, 1996.6.14, p. 2-6.

においてURI WGの議論がまとめられている。

[4]なおURI WGは当初の目的を達成したため,現在は閉止されており,次の段階として, URNに関するBOF(Birds Of Feather)が設けられ,ここをベースにして,新たに正式な URNのWGが組織されようとしている。

[5]これにURA(Uniform Resource Agent)を加えるという提案もあるが,具体的には未 確定な要素が多く,本稿では除外する。

[6]URNの比較の対象となるISBNについては,例えば

松平直壽『コードが変える出版流通 ISBNのすべて』日本エディタースクール出版部, 1995. 149p.

を参照のこと。

[7]Daigle, Leslie L.; Faltstrom, Patric; Iannella, Renato. A Framework for the Assignment and Resolution of Uniform Resource Names. Internet-Draft(draft-daigle-urnframework-00.txt). June 13, 1996.

[8]Daniel, Ron; Mealling, Michael. Resolution of Uniform Resource Identifiers Using the Domain Name System. Internet-Draft(draft-daniel-naptr-00.txt). June 13, 1996.

[9]Girod, Lewis; Sollins, Karen R. Requirements for URN Resolution Systems. Internet-Draft(draft-girod-urn-res-require-00.txt). June 13, 1996.

[10]Sollins, Karen; Larry, Masinter. Functional Requirements for Uniform Resource Names. Request for Comments 1737. December 1994.

[11]URI関連の最新の議論はメーリングリストにおいて行われている。 URIのメーリングリスト uri@bunyip.com のアーカイブは

<URL:http://www.acl.lanl.gov/URI/archive/archives.html>

URNのメーリングリスト urn-ietf@bunyip.com のアーカイブは

<URL:http://smash.gatech.edu/archives/urn/>

である。