電子出版とネットワークの融合は、情報の生産流通過程の変革をもたらした。従来、著者とエンドユーザーとの間に位置した出版社、取次店、書店、図書館に対しても機能の変革を求め、それぞれのサービス形態をも多様化させた。
近年、コンピュータによる図書館システムの導入や、デジタル化された2次情報の活用で図書館は変革をとげた。今、デジタル化された一次情報の収集と蔵書のデジタル化、著作権を考慮した電子情報の有効活用が、電子図書館を指向する従来の図書館にとっては付加されるべき最も重要な課題である。
CALIS図書館システム、DIALOG、UnCover、日本語文書処理システム(自動抄録作成)等を提供し、電子出版を計画する丸善の立場から、デジタル化された情報と図書館機能との関係を述べた。
図書館との共存関係を継続する企業が描く高度情報化へのシナリオは、商用的な視点を加味しながらも、デジタル化を指向する図書館との共通の問題意識の上に画かれている。
図書館とベンダー間のパートナーシップとアライアンスの重要性は今後高まるばかりである。
This revolution in the information industry is causing a fusion between electronic publishing and networks. Until now, the publisher, distributor, book seller, and library separated the author from the end user, but because of these changes in the industry, each of their respective services are being forced to change.
The developments in library computer systems first began with the digitization of secondary information. The extension of this into the digitization of the primary information, namely the library collections themselves, brings forth different issues. Primary among these is copyright. How this is addressed and which directions libraries take will be the most important issues in the future.
From Maruzen's position, the CALIS Library System, DIALOG, Uncover, Japanese document processing systems, electronic publishing and other offerings, represent different ways in which digitized information can be connected with library functions.
Libraries and businesses must work together to assure the existence of high quality information, and from a business point of view libraries that are aiming toward total digitization have common goals that need to be defined and realized. The partnership and alliance of libraries and vendors is an important issue, and both parties need to work together in order to assure their future.
貸出管理から始まった大学図書館の機械化は、発注・受け入れ、図書管理、逐次刊行物管理、閲覧・目録作成など、図書館業務に変化をもたらしたことは周知の事実である。オンライン情報検索サービスが登場し、CD−ROMによる二次情報や一次情報の提供が開始され始めると、「メディアは情報そのものではない」と思いつつも、戸惑われた図書館員も多かったのではないだろうか。
今インターネットの時代を迎え、電子情報を取り扱うことの必要性は、図書館の規模の大小やレベルを問わず、全ての図書館において高まっている。利用者は冊子体という概念にとらわれることなく、CD−ROMの場合と同様に図書館員の介在なしに直接情報にアクセスする機会も増えた。(図1)
情報ネットワークの複合化・国際化により、収集すべき情報を全て一カ所で管理することは現実的ではなく、不可能になりつつもある。基盤整備により資源の共有化が促進され、図書館の適正規模、図書館内の組織改革、図書館間の相互連帯等、新たな課題解決が迫られている。[1][2]
また、図書館サービスの側面においては、物品を扱うという考えから離れ、常に情報の本質を見極めることが必要ではないだろうか。新たな課題として、蔵書のデジタル化、電子図書の貸し出し返却、出版社や書店への支払い等、電子商取引や著作権に関する問題も大きくクローズアップされてくるであろう。
今、図書館は電子図書館への指向の有無にかかわらず変革を迫られており、その壁が既存システムと融合させながらも、着実に取り払われていきつつある。 米国電子図書館への取り組みのなか、なかなか実現へ具体的に動かない現状について、その阻害要因について述べた文献がある。国内の現状とは必ずしも一致しないであろうが、一つの参考意見として記しておく。[3]
(1)膨大な費用。
(2)図書館サービスへの要求が多すぎる。
(3)生涯教育、通信教育等、新規需要が増加している。
(4)取り組み方として、トップダウンではなくボトムアップでなくてはならない。
(5)統一された電子図書館構想は自由市場にそぐわない。(ベンダー、ハードメーカー)
(6)教育関係者、研究者、著者、出版社、ケーブルTV会社、自治体、政府などの様々な思惑、利益)
(7)図書館における非生産的、および組織的問題。
(8)図書館の評価が、データベースの大きさ、便利さ、ドキュメント・デリバリーのスピード等ではなく、蔵書の量によっている。
(9)図書館員の評価システムが、リスクを冒したり、資源の相互利用をさせないようになっている。
(10)図書館員の養成、教育機関が違ったことを教えている。
将来、それもごく近い将来、学術情報の流通に関して次のような変化が起こりうることが予測される。[4]
(1)図書館では、学術系資料の紙による印刷物の収集は減少する。
(2)図書館では、印刷体の目録誌や抄録誌の継続購入が中止される。
(3)ドキュメント・デリバリーが増加する。
(4)全文テキストや電子ジャーナルへのアクセスが必要になる。
(5)コンピュータのハードやソフトのメンテナンス予算が増加する。
(6)現状予算の組み直しが必要になる。
(7)電子情報の取り組みついて、組織内外の専門家や業者とのつながりが強くなる。
このような予測に対して、丸善内部においては書籍雑誌部門、電子計算機部門、出版部門、情報サービス部門等それぞれスタンスは異なっている。インターネットへの対応においても同様である。図書館や他のベンダーの実状も同様ではないだろうか。
インターネット時代の情報流通の在り方、情報管理や著作権、電子商取引、人材育成等解決すべき課題は多い。しかし我々は、既存サービスの多くがインターネットを通じてよりよい形で置き換えられものと認識している。既に一部のサービスは丸善WWWサーバを介して公開中である。(図2、図3)
ftpによる顧客との大量の書誌データ交換(UTLASのCATSS等)、telnetによる書籍オンライン・オーダーシステム、CALISによるWeb対応OPAC、E-Mailでのメッセージ交換、日本語文書処理システムによる自動抄録システム[5](図4)、さらには電子ジャーナルの開発も開始した。
我々が経験する全てのノウハウと、図書館の持つノウハウの融合により電子図書館へのアプローチも確実なものとなると思われる。
まさに今後の図書館の方向性を示唆している。図書館は所蔵する本を重視した倉庫の役目から、利用者へのサービスに重点をおいた情報提供の役割を担うことになる。サービスは重要な資源であり、それを行う図書館員は所蔵するコレクションより重要な資源であるといえる。企業とて同様である。
図書館とベンダーの間にはどのような協力体制が望ましいのだろうか。 今後、電子図書館を指向し図書館が変貌を遂げていったとしても、図書館員が情報社会の中のナビゲーターであることは変わらない。利用者の要求は増すばかりである。知的環境の創造を企業理念とする我々インフォメーションベンダーにとっても急激に変貌する情報社会への対応は同様である。特に電子情報に関しては、組織内の専門家や外部ベンダーとのつながりがりが一層深くなり、ネオギルドの成立も不可欠であろう。
高度情報化・ネットワーク社会であるとはよく言われるが、それ以上に高度人間化社会であることを常に心していくべきではないだろうか。
[2]長尾真, 電子図書館, 岩波書店, 1994.
[3]A.N.Charners, Consortia and The National Electronic Library, Electronic Proceedings of The tenth annual Computer in Libraries conference, Feb 27 - Mar 3, 1995.
[4]Johannah Sherrer, Collection development in the electronic environment, Electronic Proceedings of The tenth annual Computer in Libraries conference, Feb 27 - Mar 3, 1995.
[5]岩淵保 他,日本語全文情報の自動索引法,情報処理学会第44回(平成4年前期)全国大会.
[6]Drucker,Peter F., The Age of Social Transformation, The Atlantic Monthly, November. 53-58, 1994.
[7]readmore(www.readmore.com)図書館で重複不要になった雑誌の情報交換の場がある。
[8]wais(www.wais.com)電子カタログを提供し、また電子出版のサーバーでもある。
[9]carl(www.carl.org)UnCover等優れたシステムを持つ。
[10]yahoo(www.yahoo.com)優れたインターネット・ナビゲーター。
[11]libweb(www.lib.washington.edu/‾tdowling/libweb.html)図書館のweb一覧