教育図書館における複数コレクションの提供


江草由佳
国立教育政策研究所 教育研究情報センター
〒153-8681 東京都目黒区下目黒6-5-22

ABSTRACT:

国立教育政策研究所教育研究情報センターが行っている 電子図書館プロジェクトについて報告する。 この電子図書館プロジェクトは、 国立教育政策研究所教育図書館が所蔵している様々なコレクションを、 Web上から検索し閲覧できるようするためのプロジェクトである。 教育分野の貴重な研究資料を提供するにあたって、ニーズやコストの両面から コレクションごとに電子化手法を切りかえたり、 書誌事項の項目をどのように設定したかなど、 複数のコレクションを提供するために注意した点に着目して報告する。

キーワード
電子図書館、 複数コレクションの提供、 電子化、横断検索



Providing Heterogeneous Collections at Library of Education


Yuka Egusa
Educational Resources Research Center, National Institute for Educational Policy Research
6-5-22 Shimomeguro, Meguro-ku, Tokyo 153-8681, Japan

ABSTRACT:

This paper describes a digital library project at Library of Education, National Institute for Educational Policy Research. This project aims at digitizing heterogeneous collections and providing them through Web. These collections could not be accessible online beforehand, and providing it through Web is useful for researchers of Japanese education. Methods of digitization for each collection are considered in terms of costs and benefits. We provide search capability for whole collections simultaneously. Its design and functionality are also described.

Keywords
Digital library, Heterogeneous collection, Digitization, Cross Searching

1 はじめに

国立教育政策研究所教育研究情報センターでは、 国立教育政策研究所附属図書館の教育図書館が所蔵する資料のデータベースの 作成・公開を目的とした電子図書館プロジェクトを進めている[1]。 このプロジェクトで作成したデータベースは 今年度中に公開を予定している。

これまで当該電子図書館プロジェクトは、 研究員1人と事務員3人(うち図書館員2人)から構成されるチームにより、 システム機能や仕様、書誌項目の検討を行なってきた。

対象とするコレクションは、 教育図書館が所蔵するコレクションである。 はじめに簡単に教育図書館について説明する。

教育図書館は、教育に関する図書、資料、教材、教具等を収集・整理し、 教育に関する調査・研究の支援を目的とした専門図書館である[2]。 利用者は教育研究について調査・研究する人として 当該研究所の所員、研究者、教員、学生、一般などを対象としており、 所員でなくとも来館利用が可能であり、また紹介状等も必要ない。 最新の教科書など一部の所蔵資料は開架式で利用できるが、 多くの資料は閉架式であり、また所員以外には基本的に貸出は許可していない。 他機関との関係では、NACSIS-CATに参加しており、文献複写サービスや 電話でのレファレンスなどにも対応している。

蔵書には、和洋教育関係の図書、雑誌のほか、 教科書・大学紀要・地方教育資料・戦後教育資料などがあり、 平成17年度の蔵書数は、和図書が143,146冊、洋図書が40,702冊、 教科書が98,705冊、その他が199,706冊で、合計482,259冊である。

教育図書館では、教育に関する様々な特徴を持ったコレクションを所蔵しており、 例えば、戦後の検定教科書、戦前の教科書、 個人文書、戦後の教育改革資料、地方行政の教育資料、大学紀要などがある。 これらのコレクションの特徴を活かした管理・提供の効率化が必要とされている。

しかし、現状では、1995年10月以降に受けいれた図書の OPAC(それ以前のものは教育分野の図書を中心に順次遡及入力中)と、 後に述べる教育研究論文索引として公開中の教育関連の論文以外は、 紙の目録カードで運用しており、 多くの資料は来館しなければその所蔵の有無などを検索できず、資料にアクセスできないという状況である。

そこで、電子図書館プロジェクトとして、いくつかのコレクションを対象として データベース化し、Webを通して検索できるように検討を進めた。


2 電子図書館プロジェクトで対象としたコレクション

電子図書館プロジェクトで対象とするコレクションには、 教育研究論文索引、戦前教科書、戦後教科書、外国教科書、個人文書、 戦後教育資料、研究成果物公開がある。

2.1 教育研究論文索引

教育研究論文索引は、 教育研究分野のための教育専門索引で、昭和39(1964)年から昭和62(1987)年まで 教育図書館が編集してきた「教育索引」を継承するものである。

教育図書館が受け入れた逐次刊行物から、図書館員が人手で 教育研究論文、教育関係記事、教育関係資料(英文も含む)を選定し、 目録化、索引付けして収録している。 収録対象は、大学紀要(短大・高専を含む)、教育関係学会・協会誌、 一般雑誌・教育関係誌、教育関係機関の逐次刊行物である。

本電子図書館プロジェクトは、「教育索引」の論文情報(約126,000件)と 「教育研究論文索引」の論文情報(約132,000件)の 合せて約258,000件の論文情報を対象としている。

2.2 戦前教科書

戦前教科書は、第2次世界大戦後に検定教科書が発行されるまでに 出版された教科書のコレクションである。 この戦前教科書には以下がある。 一部マイクロフィルム化がなされている。 約50,000万冊所蔵している。

2.3 戦後教科書

第2次世界大戦後に発行された検定教科書のコレクションである。 約50,000冊を所蔵している。

2.4 外国教科書

外国で発行された教科書のコレクションである。 約9,000冊を所蔵している。

2.5 個人文書

個人文書は、教育研究や教育行政にたずさわった人の文書・個人文庫のコレクションである。 この個人文書には以下がある。

なお、教育図書館が所蔵する個人文書には、他に安西安周文庫(1,200件)があるが、 これは明治初年の日本医学資料を対象としたコレクションのため、 本電子図書館プロジェクトでは対象としない。

2.6 戦後教育資料

戦後の教育改革に関する法律、命令、規則、通達及び制定課程の経緯などに関する 教育改革の基本資料であり、2,542件の資料がある。

2.7 研究成果物公開

国立教育政策研究所が発行した報告書や、 所員が作成した科学研究費補助金の報告書などである。 所員の研究成果を広める役割を担っているため、本電子図書館プロジェクトでは、 1980年以降に発行されたものを対象としている。 古い資料については、資料件数も含めて調査中であるが、 おおよそ1500件程度の件数である。

3 電子化プロセス

図 1: 電子化プロセスの流れ
\includegraphics[width=0.5\hsize,clip]{image/convert.eps}

1は電子化プロセスの流れを図に表わしたものである。 戦前教科書や戦後教育資料は、 該当コレクション中の多くの資料が本プロジェクトが開始する前から、 すでにマイクロフィルム化されていた。 そのため、すでにマイクロフィルムがある資料に関しては、 そのマイクロフィルムからWebを通して提供しやすいPDFを作成した。 また、元々マイクロフィルムがない資料に関しても、 マイクロフィルムには長期保存の定評があるということから、 マイクロフィルムとPDFの両方を作成している。 多くの資料があるため、質より量を重視し、 400dpiのモノクロ画像としてのPDFを作成している。 物理的な1冊の本と対応がとれやすくするために、 1冊につき1つのPDFファイルとしている。 また、所蔵データとの整合性をつけやすくするために、 PDFのファイル名は請求記号を元にして付けている。 また、電子化する資料の順番については、 劣化が激しいと判断される資料などから優先的に電子化している。

研究成果物公開は、 資料の性質上1冊の中に多くの記事が含まれているため、 各章ごとにPDFを分けている。 また、研究成果の中身を文字列検索したいといったニーズから、 画像情報だけでなく、文字情報を含んだPDFを作成している。 また、研究成果は新しいものほど利用ニーズが高いと予想されるため、 新しく刊行された資料から優先的に電子化している。 このように、コレクションによってどのような電子化を行なうかを 変えている。

2007年2月現在、 それぞれのPDF化の進捗状況は以下のとおりである。


4 検索システム

2節で述べたように、本電子図書館プロジェクトでは、 様々な特徴を持つ教育に関連したコレクションを対象としている。

本プロジェクトでは、 このように複数のコレクションに対する検索要求には大きくわけて 2つあるのではないかということに着目した。

  1. 「英語教育における雑誌記事の情報が知りたい」 といった場合のように、 ある限定されたトピックに注目しており、特定のコレクションが わかっていて、そのコレクションに特有の検索項目などを 利用して検索したい要求である。 例にあげたものであれば、ここでは「雑誌記事」に 着目しており、「教育研究論文索引」というコレクションがある。 このような要求は、 教育分野の研究者などで、ある程度コレクションに精通している 利用者が持つと予想される。
  2. 「日本の外国語教育における資料が調べたい」と いった場合のように、漠然とした検索要求であるなどして、 どれか特定のコレクションというわけではなく、 複数のコレクションもしくは総てのコレクションを まとめて検索したいという要求である。 1つ目の検索要求とは逆で、 教育分野に詳しくなかったり、 どのようなコレクションがあるかわからないといった、 一般の利用者に、このような要求が出てくると予想される。

そこで本研究プロジェクトは、 前者の検索要求を満たすために、 個々のコレクションの特徴に合わせた書誌項目や、一次資料の電子化を検討し、 それぞれ別のデータベースとして設計した。 検索インタフェースも、 語彙の決まった分類項目などがある場合はメニューにしたりなど、 コレクションごとに個別に設計した。 また、後者の検索要求を満たすために、 まとめて検索できる横断検索の機能をつけ、 共通検索項目とみなせるものは、 検索項目間を対応付けて項目を指定した横断検索もできるようにした。

4.1 コレクションごとの検索

それぞれのコレクションの特徴に合わせた検索や資料の提供のために 各コレクションごとにそれぞれデータベースを用意して、 書誌項目、検索インタフェース、電子化のプロセスを検討した。

4.1.1 書誌項目

1は、コレクションごとに設計した書誌項目である。 このように、コレクションごとに必要な書誌項目を設定して、 それぞれの特徴を反映させている。 例えば、戦後教科書は検定教科書という資料の特性のため、 発行年だけでなく、 検定した年とその教科書を実際に学校の現場で使用した年度をそれぞれ別個に 設定している。 また、教科書の場合、小学校・中学校・高等学校などの学校種別や、 国語・理科などの教科や物理・世界史などの科目のようにコード表も作成した。 他には研究成果物公開は所員の研究成果の公開資料なので、 研究代表者や研究代表者の所属などの項目がある。


表 1: 書誌項目
教育研究論文索引 戦後教科書 個人文書 外国教科書 戦前教科書 戦後教育資料 研究成果物公開
書誌ID 書誌ID 書誌ID 書誌ID 書誌ID 書誌ID 書誌ID
目録規則 目録規則 目録規則 目録規則 目録規則 目録規則 目録規則
論題 書名 タイトル 書名 書名 書名 タイトル
掲載誌名 掲載資料名 巻号 別タイトル 掲載資料名 研究種目
巻号 編著者 コレクション名 編著者名 編著者 研究代表者
著者名 発行者 編著者名 発行者 発行者 発行年
著者名よみがな 発行者番号 発行者 発行地 編著者 発行年 整理番号
発行年月日 発行者略称 請求記号 発行地 和暦 課題番号
ISSN 請求記号 年月日 発行年 発行者 資料コード 所属
請求記号 教科書目録掲載年度 関連地域 請求記号 発行年 ページ数 ページ数
掲載ページ数 使用年度(西暦) ページ数・大きさ ISBN 請求記号 宛先 登録日
キーワード 使用年度(和暦) 宛先 資料ID 教科 文書分類
文献番号 使用年度(検索用) 内容 教科 種目 内容
冊子体 検定年度(西暦) 記号 教科(日) 時代・学校区分 キーワード
登録日 検定年度(和暦) 備考 学年種別 ページ数・大きさ 備考
学校種別 発信日 学年種別(日) 備考 登録日
教科 登録日 資料種別 資料種別
種目 ページ数・大きさ 登録日
学年 登録日
教科書記号
教科書番号
ページ数・大きさ
備考
資料種別
登録日

4.1.2 検索インタフェース

2から図8は、 各データベースの検索インタフェースを示している。

このように、それぞれの書誌項目にあわせて検索項目を設定している。 また、少数の統制語彙をからなるような検索項目に関しては、 メニュー選択できるようにしている。 戦前教科書(図3)の資料種別、時代・学校区分、教科、種目や 戦後教科書(図4)の学校種別、教科、種目や 外国教科書(図5)の資料種別や 個人文書(図6)のコレクション名や 戦後教育資料(図7)の発行年などである。

また、検索結果のソート方法に関しても、 コレクションによってソートに指定できる項目を変えている。 例えば、教育研究論文索引(図2)の並び替え項目は、 請求記号、論題、掲載誌名、巻号、著者名、登録日、書誌IDであるし、 研究成果物公開(図8)は、 タイトル、研究代表者、発行年、書誌IDとしている。

図 2: 検索インタフェース:教育研究論文索引
\includegraphics[width=\hsize,clip]{image/s-paper01.eps}
図 3: 検索インタフェース:戦前教科書
\includegraphics[width=\hsize,clip]{image/s-senzen01.eps}

図 4: 検索インタフェース:戦後教科書
\includegraphics[width=\hsize,clip]{image/s-postwar-text01.eps}
図 5: 検索インタフェース:外国教科書
\includegraphics[width=\hsize,clip]{image/s-gaikoku01.eps}

図 6: 検索インタフェース:個人文書
\includegraphics[width=\hsize,clip]{image/s-kojin01.eps}
図 7: 検索インタフェース:戦後教育資料
\includegraphics[width=\hsize,clip]{image/s-sengodoc01.eps}

図 8: 検索インタフェース:研究成果物公開
\includegraphics[width=\hsize,clip]{image/s-outcome01.eps}
図 9: 検索インタフェース:横断検索
\includegraphics[width=\hsize,clip]{image/cross-search-01.eps}

4.2 複数コレクションの検索

4節冒頭で述べた横断的な検索要求に対しては、 複数のコレクションをまとめて検索できる横断検索の インタフェース(図9)を用意した。

横断検索では、選択した複数のコレクションをまとめて検索できる。 全検索項目に対して行うフリーワード検索の他に、 タイトル、著者名、発行者、請求記号という検索項目を設定した。 これらの検索項目は、共通の検索項目としてみなせる検索項目の マッピングを行なうことで設定した。 表2には、そのマッピング表を示す。


表 2: 項目マッピング表
\begin{table}\begin{center}
\includegraphics[width=\hsize,clip]{image/cross-search-item.eps}
\end{center}\end{table}


4.3 検索の実行例

どのような検索の流れになるか、横断検索した場合について説明する。 検索の流れは、各コレクションを個別に検索した際も同様である。

コレクションにチェックを入れることで、 まとめて検索したいコレクションを選択することができる。 図9は教育研究論文索引と 戦前教科書を選択しているところである。

検索したい検索項目の入力ボックスにキーワードを打ちこみ、 検索ボタンをクリックすると、 検索結果のリストが表示される。 図9は、 タイトルに「和歌」を指定しているところである。

結果リスト(図10)には 複数のコレクションを検索した結果がまとめて表示される。 結果をダウンロードをクリックすると、 ヒットした検索結果のリストをタブ区切りで 手元のPCにダウンロードすることができる。 リストのリンクをクリックすると、 書誌データの詳細(図11)を見ることができる。 一次資料のPDFが登録されている場合は「本文」のリンクを クリックすることで、一次資料のPDFを見ることができる(図12)。

図 10: 検索結果
\includegraphics[width=\hsize,clip]{image/cross-search-02.eps}
図 11: 書誌データの詳細
\includegraphics[width=\hsize,clip]{image/cross-search-03.eps}

図 12: 一次資料のPDF
\includegraphics[width=0.5\hsize,clip]{image/cross-search-04.eps}

5 おわりに

本報告では、国立教育政策研究所教育研究情報センターの電子図書館プロジェクト として、 教育研究論文索引、戦前教科書、戦後教科書、外国教科書、個人文書、 戦後教育資料、研究成果物公開の7つのコレクションを提供する 電子図書館システムの構築について報告した。

複数のコレクションを提供することに着目し、 大きく2つの検索ニーズを想定し、それぞれのニーズを満たすために、 各コレクションの検索と、複数のコレクションを一度に検索するための 検索の2つについて述べた。

2007年2月8日現在、電子図書館システムに登録されている件数は、 以下のとおりである。

教育研究論文索引が書誌141,135件(コレクションの54%、1969年〜1970年:9147件、1988年以降分:131,988件)、個人文書が書誌5,997件(コレクションの100%)、 外国教科書が書誌84件(コレクションの10%)、戦後教育資料が書誌2,542件(コレクションの100%)・本文1,817件(コレクションの70%)、 戦前教科書が書誌108件・本文104件(コレクションの0.2%)、戦後教科書が6,805件(コレクションの7%)、 研究成果物公開が書誌69件・本文69件(コレクションの4%) である。 教育研究論文索引と研究成果公開については、順次データを追加更新する 予定である。 その他のコレクションについては現在のところ、 追加更新の具体的な予定は立っていないが、 利用情報や利用ニーズを調査して、整備を検討していく予定である。

現在の電子図書館の公開状況は、 教育研究論文索引についてはすでにWebを通して公開中である。 残りの6つのコレクションについては、 今年度中の公開を目標に現在作業を進めているところである。

6 謝辞

電子図書館プロジェクトチームの 情報支援課の中山仁史氏、教育図書館の船渡川清氏、鈴木由美子氏、 また初期メンバーの武笠まゆみ氏(現東京大学社会科学研究所図書室)には、 資料提供、議論などに協力していただいた。ここに記して感謝する。

参考文献

1
Egusa, Yuka; Nagatsuka, Takashi. "New innovative access to educational and cultural multimedia contents". World Library and Information Congress: 72nd IFLA General Conference and Council. Seoul, Republic of Korea, 2006-08, 16p. (online), available from http://www.ifla.org/IV/ifla72/papers/097-Egusa_Nagatsuka-en.pdf, (accessed 2007-02-09).

2
国立教育政策研究所教育図書館. available from http://www.nier.go.jp/homepage/jouhou/toshokan/, (accessed 2007-02-09).