AIRwayプロジェクト:機関リポジトリ活用のためのリンキングサービスの構築

嶋田 晋
筑波大学附属図書館情報サービス課
〒305-8575 茨城県つくば市天王台1-1-1
TEL: 029-853-3030 FAX: 029-853-6023

宇陀 則彦
筑波大学大学院図書館情報メディア研究科

杉田 茂樹
北海道大学附属図書館

鈴木 宏子
千葉大学附属図書館

山本 哲也
名古屋大学情報連携基盤センター

片岡 真
九州大学附属図書館

鈴木 敬二
北海道江別市

概要

 AIRwayプロジェクトとは、リンクリゾルバを通じて機関リポジトリに登録されたオープンアクセス文献への誘導を実現することを目的とした研究開発プロジェクトである。リンクリゾルバとAIRwayサーバとの連携により、全文入手の機会が増大するだけでなく、機関リポジトリに登録された文献の可視性の向上と、機関リポジトリの利用促進がなされる。本稿は、機関リポジトリ活用のためのリンキングサービスを構築するAIRwayプロジェクトについて解説する。

キーワード

学術機関リポジトリ、リンクリゾルバ、リンキングサービス、オープンアクセス

AIRway Project: Establishment of Linking Services for Increasing Use of Institutional Repository

SHIMADA, Susumu
University of Tsukuba Library, Information Service Division
1-1-1 Tennodai, Tsukuba City, Ibaraki Pref. Japan. 305-8575
TEL: 029-853-3030 FAX: 029-853-6023

UDA, Norihiko
University of Tsukuba, Graduate School of Library, Information, and Media Studies

SUGITA, Shigeki
Hokkaido University Library

SUZUKI, Hiroko
Chiba University Library

YAMAMOTO, Tetsuya
Information Technology Center, Nagoya University

KATAOKA, Shin
Kyushu University Library

SUZUKI Keiji
Ebetsu City, Hokkaido

Abstract

 The "AIRway" project is a research and development project that has a goal of navigating to open access articles in institutional repositories via link resolvers. It leads not only increasing chances of getting fulltexts, but also improving visibility of articles in IRs and prompting use of IRs by liaison between link resolvers and the AIRway server. In this article we describe the AIRway project that establishes linking services for increasing use of IRs.

Keywords

Institutional Repository, Link Resolver, linking service, Open Access

1.はじめに

1.1 CSI事業[1]

 AIRway(Access path to Institutional Resources via link resolvers)プロジェクトとは、国立情報学研究所(National Institute of Infomatics:以下NII)の次世代学術コンテンツ基盤共同構築事業(Cyber Science Infrastructure:以下CSI事業)の一環として、平成18年度から開始されたプロジェクトである。

 NIIは平成17年度よりCSI事業として、大学等学術研究機関との連携及び支援を目的とする委託事業を行っている。その中に「次世代学術コンテンツ基盤の整備・拡充」という項目があり、具体的には学術機関リポジトリ(Institutional Repogtory:以下IR)の構築・連携の支援が挙げられている。平成17年度には筑波大学を含む19大学が採択され、主にIRの構築を行った。CSI事業2年目となった平成18年度は、17年度より一歩踏み込んだ内容として、IRの全国的な展開に加え、先端的な研究開発が目標として掲げられた。その先端的な研究開発のひとつとして、リンクリゾルバとの連携を謳ったAIRwayプロジェクトが採択された。研究開発プロジェクトでは、複数大学の連携が認められており、AIRwayプロジェクトにおいては、北海道大学を主担当とし、筑波大学、千葉大学、名古屋大学、九州大学が連携し、オブザーバとしてNII自身も関与することとなった。

1.2 AIRwayプロジェクト[2]

 AIRwayプロジェクトの趣旨は、リンクリゾルバとIRの連携にある。リンクリゾルバについては後述するが、IRに登録されている文献をリンクリゾルバ経由で提示できれば、可視性の向上につながる。例えば、電子ジャーナルへのアクセス権を持たない機関であっても、リンクリゾルバによってIRに登録されている文献(主に学術雑誌掲載論文の著者版を想定)へ誘導されることで、追加コスト無しに全文を入手することができる。これは、IR登録コンテンツの可視性の向上だけでなく、学術情報流通の障害軽減にも繋がる。

 これらの実現のためには、IR登録の文献の所在情報を一括して保有し、リンクリゾルバからの問い合わせに対して応答できる仕組みが必要である。電子ジャーナルの世界では出版者から情報の提供を受けているCrossRef[3]が存在するが、CrossRefと同様の、IR版の文献所在情報サーバを作ろうというのがこのプロジェクトの動機であった。なお、以後、プロジェクトとしてのAIRwayをAIRwayプロジェクト、このプロジェクトによって作られるIR版の文献所在情報サーバをAIRwayサーバと呼ぶ。

2. AIRwayサーバの概要

 リンクリゾルバからの問い合わせに応答することから、以下のような仕様となっている。

2.1 メタデータセット

 以上のように、仕組みとしてはごく単純であるが、実装において問題点があった。つまり、国内のみならず世界のほとんどの機関リポジトリにおいて、メタデータフォーマットはoai_dcというDCMES(Dublin Core Metadata Element Set)[6]準拠のメタデータセットが用いられている。これはOAI-PMH[7]によるメタデータの提供・収穫を想定したものだが、Dublin Coreで定義されているメタデータは基本的なもののみのため、今回のようにISSN、巻号、ページが必要な用途には対応できない。descriptionやidentifier等、比較的自由に使用できるエレメントやそこに限定子を付与したものを使用して、DOIやPMIDを入れたり、巻号・ページ等を入れているケースは散見される。しかし、これらを格納するエレメントや記述方法がそれぞれのIRで統一されていないため、仮にメタデータを収穫しても、それぞれのIRに合わせて必要な項目を抽出していくのは困難である。そのため、AIRwayは独自のメタデータセットを持つという選択を行った。つまり、DOI、PMID、ISSN、巻号、ページ等を個別のエレメントとして持つことになった。

 一方で、NIIが事実上日本標準のメタデータスキーマjuniiを改訂しjunii2を制定しようという動きがあった。もしjunii2にAIRwayに対応できるエレメントが存在すれば、今後、日本で標準となるであろうjunii2対応のリポジトリはAIRwayにも対応できることになる。そのため、NIIと共同し、junii2のスキーマをAIRwayに対応できるような形でまとめることとなった。junii2のエレメントセットは2006年末に公開され[8]、一部のIRではすでにjunii2に対応している。またベンダーも順次junii2対応を表明している。AIRwayサーバは、junii2形式で対象のIRからメタデータを収穫し、独自形式で格納する。

2.2 リンクリゾルバ

 リンクリゾルバとは、各種データベースの検索結果や参考文献情報から、自機関で利用可能な一次情報や関連情報への統合的な誘導を支援するツールである。一般に「中間窓」と呼ばれる画面を表示し、一次情報や所蔵検索、文献複写依頼、各種検索エンジンへのリンクを提示し、利用者の求める情報へ誘導する[9][10]。リンクリゾルバによって、各種情報へのリンクの提供、情報相互のリンクが提供されるリンキングサービスが実現する。一般的なリンクリゾルバに関する挙動は以下の通りである。

 AIRwayはこの2番目において作用する。つまりCrossRef相当の役割として、OpenURLで受け取った文献情報を、リンクリゾルバはAIRwayサーバに問い合わせる。AIRwayはその文献情報で自分のデータベースを検索し、ヒットしたものがあったらその情報をリンクリゾルバへ返戻する。リンクリゾルバはAIRwayサーバから返された情報から、IRに登録された全文へのリンクを表示させる。


(図1: 1-CATEによるAIRway対応(北海道大学附属図書館))


(図2: S・F・XによるAIRway対応(筑波大学附属図書館))

 この一連の流れにより、電子ジャーナルを購読していない、あるいはキャンパス外等の理由で電子ジャーナルへのアクセスができない場合でも、全文を入手が可能になる。これまではIRに登録された文献を入手するためには、OAISterやJuNiiといった各IRからメタデータを収穫して構築されたメタデータデータベースを検索したり、個別のIRを探す必要があった。しかし、リンクリゾルバとAIRwayサーバの連携によって、利用者はIRの存在を意識することなく、IRに登録された文献へ誘導される。このことは、IRに登録されたコンテンツの可視性の向上に繋がるだけでなく、IR登場のきっかけとなったオープンアクセス運動[11]への貢献度も高い。

 なお、日本語対応のリンクリゾルバは数社から提供されており、2007年2月8日時点で、AIRwayとの連携を実装したリンクリゾルバは、図に示したAIRway主担当大学の北海道大学で使用されている1-CATE(OCLC Openly Infomatics)と、筑波大学で使用されているS・F・X(Ex Libris)である。AIRwayプロジェクトでは、これらリンクリゾルバのベンダー・日本代理店相手にも説明会を行っており、上記以外にも対応予定のベンダーが存在する。今後、対応バージョンが順次リリースされることが予想される。

3.AIRwayの課題

 以上述べてきたように、AIRwayプロジェクトは今後のIRの普及、発展を図る上で、重要な役割を果たすプロジェクトであると自負している。一方で、課題があることも認識している。

3.1 リンクリゾルバの使用を前提

 リンクリゾルバを用いて、IR登録の文献へ誘導することが目的であるため、リンクリゾルバの使用が前提にある。日本代理店を持つベンダー数社から提供されているが、大学図書館の予算が縮小傾向にある中で、新規にリンクリゾルバを導入できるところは限られてくると思われる。オープンソース、フリーのリンクリゾルバ[12]も存在するが、サーバーへのインストールや導入後の継続的なメンテナンスなどの「隠れたコスト」は無視できない。そのためAIRwayは、オープンアクセスに貢献し、お金のない機関でも電子資源のメリットを得られるようにすると標榜しているが、実際にはお金のある機関でしか使えないのでは、という批判も存在する。

 しかし、今後、電子資源の重要性が飛躍的に増していく中で、利用者のニーズにそった資源への誘導が可能なリンクリゾルバの重要性も増していくことが考えられる。図書館システムに組み込まれる等、普及の可能性は否定できない。またできるだけ少ない負担で導入・維持管理ができ、AIRwayに標準で対応したオープンソースのリンクリゾルバの開発が期待される。

3.2 IRの学術雑誌掲載論文の登録数

 リンクリゾルバは、各種データベースから、学術雑誌掲載論文の全文への誘導を主に担っている。またAIRwayの目的が、自機関では購読していない電子ジャーナルの全文取得である。そのため、AIRway自体にIRに登録された学術雑誌掲載論文(の主に著者稿)の所蔵情報が相当数存在しないと、AIRwayは「使えない」ものになってしまう。現在日本のIRでは、構築初期段階にあることから、紀要や学位論文といった比較的「入れ易い」コンテンツが中心となっている。今後、学術雑誌掲載論文の登録が増加していくことが期待されるが、現状ではIR登録の雑誌掲載論文数は決して十分ではないことから、現時点においては、AIRwayに十分な利用価値があるとは言い難い。

3.3 CSI事業終了後の維持の問題

 現在、北海道大学を中心に5大学がAIRwayプロジェクトを担当しているが、これまで述べてきた役割や意義を鑑みると、このプロジェクトは本来は大学数校で担うものではなく、全国レベルの調整、維持管理体制が必要である。現在は研究開発の段階にあるため、サーバの停止やメンテナンスは比較的容易だが、今後、有用性が証明され本格的に運用されることになった場合に、どこがどのように安定した維持管理を担うかは、まだ決まっていない。

4.AIRwayプロジェクトの展開

 以上のように課題はあるものの、その解決やAIRwayサーバのリンクリゾルバ以外との連携も視野に入れて、AIRwayプロジェクトの今後の展開や展望を述べる。

4.1 コンテンツの収集

 junii2のメタデータエレメントが発表されるなど、日本のIRにおいては、AIRwayがメタデータを収穫しやすい環境が整いつつある。そのため、学術雑誌掲載論文(の著者稿)のIRへの登録を進めていくことがまず必要とされる。北海道大学や千葉大学など、先行大学は積極的に学術雑誌掲載論文の登録を行っているものの、全体としては紀要や学位論文の登録が主になっている。IRのコンテンツとしては当然これらも重要であるが、ことAIRwayプロジェクトに関しては、それ以上に学術雑誌掲載論文の登録が望ましい。

 筑波大学附属図書館では、従来の電子図書館からIRへのコンテンツの移行、及びこれまで漏れていた紀要、学位論文の登録、学位論文登録のためのプロモーションが軌道に乗った。そのため、昨年度より準備を進めていたが、今年より本格的に学術雑誌掲載論文の登録に向けてのプロモーションを開始する。

 またAIRwayプロジェクトでは、今後国内だけでなく、PMIDやDOIなど文献を一意に識別できる要素を持っている海外のIRを対象に、AIRwayサーバへの登録をプロモーションしていく計画もある。これらにより、できるだけAIRwayサーバで対応できる文献所在情報を増やし、IRへのアクセスを促進していく。

4.2 リンクリゾルバ以外への活用

 現在のところ、AIRwayサーバはリンクリゾルバへの利用を主な目的としている。しかしAIRwayサーバの仕組みは「OpenURL」を送るとそれにヒットした文献の所在情報の「XMLデータ」を返す、というものになっている。そのため、返戻されるXMLデータの解釈さえできれば、リンクリゾルバ以外への応用も可能である。Googleや他の検索エンジン、連想検索エンジンなどと連携することで、より高度にIR登録のコンテンツを検索するシステムの構築なども考えられる。AIRwayサーバからのメタデータの収穫(AIRwayサーバがデータプロバイダになること)も構想されており、学術雑誌掲載論文に特化したメタデータデータベースとしての利用も期待できる。

5. おわりに

 AIRwayプロジェクトは、IRに登録されたコンテンツ(現在のところ学術雑誌掲載論文に限られるが)の可視性向上と、IRへの誘導について、重要な役割を果たすものである。IRはオープンアクセスによる学術情報コミュニケーションの変革を担う重要なファクターであるが、その機能・役割をより増進させる取り組みがAIRwayプロジェクトである。IRの重要性が増すことで、研究者のIR登録への動機が強くなり、結果としてIRが発展し…というポジティブスパイラルへ発展することが望ましい。

 そのためにも、AIRwayサーバを一人でも多くの人に使ってもらうとともに、使ってもらえるように、より使いやすい、実用性の高いシステムへと進化していく必要がある。CSI事業として、筑波大学含め担当する各大学が知恵と技術を出し合い努力する一方で、利用者の声も拾い上げていく必要がある。本稿を読んだ方々にも、ぜひAIRwayプロジェクトへのご意見、ご要望、ご感想をお寄せ頂き、今後の実装や方向性に生かしたい。

参考資料

[1] 国立情報学研究所. "国立情報学研究所:次世代学術コンテンツ基盤共同構築事業". 国立情報学研究所. http://www.nii.ac.jp/irp/, (参照 2007-02-08).

[2] 北海道大学附属図書館. "AIRwayプロジェクト - はじめに". AIRwayプロジェクト. http://airway.lib.hokudai.ac.jp/index_ja.html, (参照 2007-02-08).

[3] CrossRef. "crossref.org : : the reference linking backbone". crossref.org. http://www.crossref.org/, (参照 2007-02-08).

[4] National Information Standard Organization. "ANSI/NISO Z39.88 -2004, The OpenURL Framework for Context-Sensitive Services". NISO Standard. http://www.niso.org/standards/standard_detail.cfm?std_id=783, (参照 2007-02-08).

[5] Hokkaido University Library. "OpenURL resulting records XSD" AIRwayプロジェクト. http://eprints.lib.hokudai.ac.jp/ir.xsd, (参照 2007-02-08).

[6] Dublin Core Metadata Initiative. "Dublin Core Metadata Element Set, Version 1.1". Dublin Core Metadata Element Set, Version 1.1. http://dublincore.org/documents/dces/, (参照 2007-02-08).

[7] Open Archives Initiative. "Open Archives Initiative - Protocol for Metadata Harvesting - v.2.0". Open Archives Initiative. 2004-10-12. http://www.openarchives.org/OAI/openarchivesprotocol.html, (参照 2007-02-08).

[8] 国立情報学研究所. "メタデータフォーマット(JuNii2) 各データ項目の入力内容一覧". 国立情報学研究所:次世代学術コンテンツ基盤共同構築事業. http://www.nii.ac.jp/irp/info/junii2_elements_guide.pdf, (参照 2007-02-08).

[9] 片岡真. リンクリゾルバが変える学術ポータル : 九州大学附属図書館「きゅうとLinQ」の取り組み. 情報の科学と技術. 2006. Vol.56, No.1, p.32-37.

[10] 増田豊. 学術リンキング, S・F・XとOpenURL. 情報管理. 2002. Vol.45, No.9, p.613-620.

[11] Crow, Raym. "The Case for Institutional Repositories: A SPARC Position Paper". SPARC | Scholarly Publishing and Academic Resources Coalition. 2002-08-27. http://www.arl.org/sparc/IR/ir.html, (参照 2007-02-08).

[12] Andy Powell. "OpenResolver: a Simple OpenURL Resolver". Ariadne. 2001-06-22. No.28. http://www.ariadne.ac.uk/issue28/resolver/intro.html, (参照 2007-02-08).