大森 洋一
九州大学大学院システム情報科学研究院
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池田 大輔
九州大学附属図書館
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Yoichi OMORI
Graduate School of Information Science and Electrical Engineering, Kyushu University
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Daisuke IKEDA
Kyushu University Library
6-10-1 Hakozaki, Higashi-ku, Fukuoka, 812-8581 JAPAN
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しかしこれらのサービスは,電子化やシステム化を通して既存のサービスの利便性を向上させ,図書館が持つ資料へのアクセスを容易にするものが多く[1],電子化ならではの特徴を生かした新しいサービスというものは少ない.
一方,九州大学附属図書館は中央図書館でも年間のべ41万人を超える人が利用している[2].これだけ多くの利用者がいるにもかかわらず,図書館の利用者間での情報を共有する場はなく,書誌の選定においても図書館のレファレンスサービスを利用すると,書誌の探し方については知ることはできるが,書誌の内容に関しては利用者自身がよいと思ったものを図書館にて選定するしかないのが現状である.
そこで本研究では電子化のメリットを生かした新しいサービスとして,図書館の利用者間での情報共有の場を提供する,図書に対するコメントの収集と閲覧の仕組みを実現する読書録サービスの設計と実装を行う.
通常の読書録としての使い方に加え、一部のコメントについては読書録サービスの利用者全員がWebブラウザを用いて閲覧できる仕組みも提供する.ユーザはこのコメントの数や内容からその本がよく読まれているかどうかや評判がよいかどうかを判断できる.そのため,自分ひとりの判断で書誌を選定するより,ユーザが目的とする書誌にたどり着きやすくなる.また、他のユーザがどのような書誌を読んでいるかといった興味関心を知ることもできる.
読書録サービスは,書誌の選定を楽にすることで書誌を借りる機会を増やすことや,他人の興味関心を知る仕組みを提供することで新たな需要を創出することを目的とする。
読書録サービスのシステムはWebアプリケーションサーバ・アプリケーション/データベースサーバの2つのサーバからなる.Webサーバにはapache2.0,アプリケーションサーバにはtomcat5.5,データベースサーバにはMySQL3.23を使用した.アプリケーションはJavaを用いてロジックの部分を実装し,Webページの表示内容とページ遷移はJavaServer Pagesを用いて実装する.
データベースサーバには書誌情報とコメントの情報,ユーザ情報,貸し出し中の書誌に関する情報を保存し,コメントの登録と配信に関してはアプリケーション/データベースサーバ上に配置したWebサービスを通して行うようにした.コメントの閲覧や,コメントの編集などはWebアプリケーションサーバ上のWebアプリケーション上で行う.
本研究ではコメントの登録や配信の機能についてはWebサービスで実装を行う.Webサービスとはコンピュータ間の対話をサポートする分散技術であり,Webサービスで実現したシステムはネットワーク上に公開されたソフトウェア部品と考えることができる.そのためWebサービスを用いることでコメントの登録や配信の機能を,後から開発するシステムに組み込むことができ,機能を再利用できる.そのため,この機能を再利用することでデータの収集や,コメントデータの活用を促進することができると考えられる.
(1) コメントの登録
ユーザが行うコメント登録の手順は以下のようなものである.
1.読書録サービスを提供するWebページにアクセスする.
2.ユーザは借りている書誌の一覧か,蔵書検索を用いてコメントを残したい書誌を選ぶ.
3.書誌に対するコメントを書く.
4.公開/非公開を選択してコメントを登録する.
公開されたコメントは他の読書録サービスを利用するユーザも閲覧できる共有コメントとして保存される.非公開のコメントはコメントを書いた本人だけが検索・閲覧することができる.登録したコメントは登録した本人であれば後から修正や削除を行うことができる.
読書録サービスで取り扱うコメントは以下の情報を含む.
また,共有コメントには上記の情報に加え
の情報も付加する.共有コメントには個人を特定する情報は保存しない.
(2) 自分の登録したコメントの閲覧
ユーザの登録したコメントはユーザごとの読書録に保存され,コメントのリストとしてユーザに提示される.ユーザはリスト中のコメントを閲覧し,自分が過去に読んだ書誌の内容やコメントを残した日を確認できる.また,コメントの一覧からキーワード検索によりコメントの絞込検索を行うことが出来る.
(1) 書誌に対するコメントを閲覧 蔵書検索などを用いて書誌を選び,書誌に対して残された共有コメントの一覧を閲覧できる.共有コメントの数や内容を確認することで,その書誌の人気や評判の良さなどを知ることができる.
(2) コメントのキーワード検索 コメントの見出しや本文をキーワード検索し,条件に適合した共有コメントの一覧を閲覧する.この機能を用いることで,連想するキーワードから書誌を探索することができる.
(3) 最新コメントを閲覧 登録された日が新しいものから,例えば10件ほどの共有コメントの一覧を閲覧する.この機能により,最近どのような書誌が読まれているかといった他のユーザの興味関心を知ることができる.
この機能と似たものを実現しているものとしてamazon.co.jpが提供している,商品に対してレビューを書くというサービスがある.このサービスとの違いは,読書録サービスにはコメントを残したユーザの所属や役職が付加されており,所属を確認することで読者の傾向を知ることができるといった点や,役職を見ることでコメントの内容がどの程度信頼できるものかをある程度見極めることができるといった点が異なる. 読書録サービスでは共有コメントの内容を検索することができるため,書誌の内容と直接関係しない連想キーワードを使って書誌を探索するという,書誌への新しいアクセス手段を提供する.
丸い円で示されるものが機能を表し,矢印はデータの流れ,二つの直線で表されるのがデータの保存場所(今回の場合はデータベース)を表している.
読書録サービスを将来MyLibraryにて提供することを考え,図2に示すように,システムはユーザ認証の機能を備えており,ログインできたユーザに対して読書録サービスを提供するものとした.そしてこの認証の情報を用いて図3の読書録コメントテーブルに示すユーザとコメントの関連付けを行う.コメントと書誌の関連付けはユーザに貸し出し書誌表示機能や書誌検索の機能を用いて書誌を選択してもらい,システム側で自動的にコメント情報テーブルに書誌IDの情報を付加するようにした.
今回Webサービスで実装したのは図2中3のコメント保存機能と5のコメント取得機能である.このWebサービスが行うことはリクエストを受けるとリクエストメッセージに応じてデータベースを操作し,コメントの保存や取得を行い,結果をXMLメッセージで返すというものである.結果がXMLにて返ってくるためデータの加工がしやすく,このデータを用いてアプリケーションを開発しやすくなると考えた.
また,本システムの機能の一つである書誌検索では,検索結果として書誌ごとに以下の項目を表示する.また各項目でソートが行える.
従来の書誌検索にはなかった書誌の平均レートや書誌に対する共有コメントの数を表示することで一目で書誌の人気や評判をある程度推測できるようになっている.
現在,読書録サービスの設計を終え,実装を行っている段階である.
今後の課題としては,実装を終わらせた後に試験運用し,実際に使ってもらい読書録サービスの有用性を評価する必要がある.また,読書録サービスを機能させるためのコメント情報の収集も行う必要があると考えている.
[2]九州大学附属図書館.図書館情報 Vol.41 No.1,2005.