学術情報センターの電子図書館システムの試行実験報告

安達 淳
学術情報センター研究開発部
〒112 東京都文京区大塚3-29-1
Tel:(03)3942-6959, Fax:(03)5395-7064(G3/G4), E-mail:adachi@rd.nacsis.ac.jp

概要

このほど開始した電子図書館システムの試行について紹介し、今後の計画を述 べる。

キーワード

電子図書館、情報検索、データベース、ドキュメントデリバリー

On the Trial Service of NACSIS Electronic Library System

Jun ADACHI
NACSIS (National Center for Science Information Systems)
Research and Development Department
3-29-1 Otsuka, Bunkyo-ku, Tokyo 112, Japan
Phone:+81(3)3942-6959, Fax:+81(3)5395-7064, E-mail: adachi@rd.nacsis.ac.jp

Abstract

This paper introduces the outline of NACSIS-ELS (NACSIS Electronic Library System) trial service, which just started. The plan for further enhancement of the service is also described.

Key Words

Electronic Library, Digital Library, Information Retrieval, Database, Document Delivery

1. はじめに

本稿では、2月からソフトウェアの配布を開始した学術情報センターの電子図 書館プロジェクトの試行実験について紹介する。「第一回ディジタル図書館ワー クショップ」で紹介したように、学術情報センターでは主に学会誌を対象にし たdocument delivery systemとして、NACSISーELSの開発を行ってきた。

1994年に情報処理学会、電子情報通信学会、電気学会の三学会からの協力によ り、これらの学会が発行する雑誌を実験目的に限ってデータベース化する許可 を得ることができた。これにそって、雑誌のページの画像データ入力と二次情 報データベースとして必要になる書誌情報の作成を開始した。

11月末の第二回のワークショップでは、このシステムの試行実験に参加し、評 価とシステムの改善に協力していただくための利用モニターを募集した。クラ イアントソフトウェアの準備が整ったので、2月20日から利用者への配布を開 始し、発生する種々の問題点を報告いただいている。

2. システムの概要

2.1 システムの目的

学術情報センターの電子図書館システムNACSIS-ELSのサーバは、

の二つの機能を統合したものである。第一の機能はいわゆるオンライン情報検 索システムの持つ機能であり、現状では学術論文等の表題、著者、要約、書誌 的事項を収録した文献データベースを提供している。

第二の機能が、今回のシステムでアピールしたい特徴で、雑誌の表紙、本文す べてをディジタイズして、画像として蓄積するものである。論文のページを直 接モニタ上に表示することや、プリンタに高品質の印刷を行うことが可能にな る。

以上をまとめると、このシステムはオンラインでdocument delivery を行おう とするシステムで、あくまで伝統的な出版物を対象としたデータベースサービ スを実現するものであるといえる。

2.2 システムの特徴

NACSIS-ELSの開発では、学会活動に関連した情報形成・提供支援に寄与するこ とを強く意識して設計している。出版物等の一般的な情報を対象とせずに、学 会関係の情報に焦点を絞っているのは、利用の対象者である研究者がネットワー クを通した情報入手に一番馴染みがあること、また従来からの商業出版におけ る著作権に関わる課題に関して、対処し易い性格を持った情報流通形態をとる セクターであることなどの理由のためである。逆にいえば、現行のシステムで は一般的な本の蓄積までをシステム設計のスコープの中に含めてはいない。

また、開発したソフトウェアを広く配布することも念頭に置いている。これは、 ネットワーク上での情報提供のためのホストが多様化するのは必然的な流れで あるという認識があり、そのため、我々の開発成果を積極的に配布していきた いと考えているわけである。

3. 試行実験

3.1 試行の内容

電気、電子、情報系の三学会の協力を得て、実験的にデータベースを作成し、 ネットワークを介して提供する。なお、著作権を尊重して扱うべき情報を使う ので、利用者はあらかじめ申請する必要がある。学術情報センターを通して、 学会の了解を得て、利用をすることになっている。

利用に必要なソフトウェアの配布は、2月半ばから行っている。試行期間は当 面1996年3月末までを予定している。

3.2 試行における評価事項

などを評価する予定である。

なお、このプロジェクトは高速ネットワークに関する研究プロジェクトの一環 でもあり、156Mb/sのATM網を利用する応用として位置付けられ、このプロジェ クトからも評価を受ける予定である。

3.2 対象資料

1994年度は、三学会の会誌、論文誌、研究会資料、大会、シンポジウムの予稿 集のデータベース化を行う。会誌、論文誌等を優先してデータベース化してい る。まず、1994年1月から最新までのデータベース化をまず実施している。

3.3 モニターの応募状況

2月17日現在で、90名の申し込みが来ており、

という内訳である。これらのモニターの利用については、学会から了解をとっ ており、実際にシステムを利用して評価を随時行っていただいている。また、 評価のためのメーリングリストも用意されている。

3.3 現在の問題

ソフトウェア配布直後からいくつかの問題が指摘されている。

まず第一は、画像表示の方法とその応答である。ページ画像の表示に際しては、 ネットワーク上を大量のデータが流れるのみならず、圧縮されたデータの伸長 にもかなりの計算処理を要する。このため、応答が遅く、特に狭い帯域でサー バとつながるサイトでは、問題になっている。また、これを回避するための方 式等が懸案とされている。

また、ページ画像の印刷に当たっては、大きな中間ファイルが作られるため、 ワークステーションによっては環境設定を改める必要も発生している。

一方、運用上の課題としては、最近企業でよく使われるようになっている firewallに対応したクライアントソフトウェアの配布も要望が強い。

これら以外にもバグが報告されており、さまざまな課題に対し早急に対処方針 を作り、モニターに広報することにしている。

4. 試行実験に参加するには

モニターの申し込みは今後も随時受け付けており、必要な情報は、
http://www.nacsis.ac.jp
に掲載されている。また、各種問い合わせの窓口は、
els@nacsis.ac.jp
である。

利用者に必要な環境は以下の通りである。ここに含まれている電子図書館シス テムへのアクセス用のクライアントソフトウェアEl browserは、インターネッ ト上で動作し、

SUNワークステーション(SPARC)
SUNOS 4.1.x 上のX11R5およびX11R6 (twm、fvwmなど)
Solaris 2.x 上のX11R5およびX11R6 (twm、fvwmなど)
Solaris 2.x 上のOpenWindows

で動作する。X11では、R5 (release 5)以上で日本語を取り扱えるような国際 化が行われたものが必要で、SUNOS 4.1.x 上でSUN提供のOpen Windowsの場合 は、この電子図書館システムクライアントには使えない。これは、Open Windowsが X11R4 をベースにしているためである。

5. 今後の方針

3月末に、2月配布の第一版ソフトウェアのバグを直し、また比較的簡単に修正 可能な問題点を改めたバージョンをリリースする予定である。また、これに合 わせてサーバを大型のマシンに移行し、検索性能等を強化するとともに、本格 的にデータのローディングを行う。

サーバおよびクライアントのソフトウェアの第二版のリリースを9月に予定し ている。サーバの検索系の大幅な変更を行い、これに合わせてクライアントを 修正する。

以上に合わせて、モニターからの意見を集め、学会と相談して、試行から事業 へと展開していくための手順や手続きについて協議していく方針である。