高性能RFIDリーダ付き書架の性能評価と
新たな図書館サービスの提案
池田 大輔
九州大学 附属図書館
〒812-8581 福岡市東区箱崎6-10-1
Tel: 092-642-4422, Fax: 092-642-2330, E-Mail: daisuke@lib.kyushu-u.ac.jp

概要

本稿ではRFIDリーダを組み込んだインテリジェント書架の性能評価の結果を報告する。 書架内の複数の本に貼付されたタグを高い精度で読み取ることが可能であり、 何冊かの本を斜めや横置きにしても読み取ることが可能であることが分かった。 読み取り範囲は書架内に限られているため、本を書架から抜いたことも検知できる。 また、6mm程度の厚さの雑誌の同じ位置にタグを貼った場合は極端に読み取り精度が落ちるが、 4cm程度位置をずらせば充分読み取り可能であった。 効率化や省力化を目的として導入されてきたRFIDシステムだが、 このような高精度なインテリジェント書架を前提にした場合に可能になる 新しいサービスについても議論する。

キーワード

電子図書館、RFID、ICタグ、無線タグ、インテリジェント書架


Performance Evaluation Study of the RFID Intelligent Bookshelf and Its Applications to New Library Services
Daisuke IKEDA
Kyushu University Library
6-10-1, Hakozaki, Higashi, Fukuoka, 812-8581, JAPAN
Phone: +81-92-642-4422, Fax: +81-92-642-2330, E-Mail: daisuke@lib.kyushu-u.ac.jp

Abstract

This paper presents performance evaluation results for an intelligent bookshelf equipped with RFID readers. The result shows that the bookshelf reads IDs from all tags attached to books within the bookshelf, even if some books are inclined or laid horizontally. The reader obtain information from only tags within the bookshelf, so we can see when a book is taken from it. When we attach tags to thin periodicals with around 6mm thick, the accuracy is quite low. However, the accuracy is increasing drastically, when we attach tags on two different positions of the periodicals alternately. Currently the RFID system is introduced into many libraries for the sake of laborsaving. The author believe, however, that such intelligent bookshelves enable library to provide new library services.

Keywords

Digital Library, RFID, IC tag, RF tag, Intelligent bookshelf


はじめに

電子図書館を実現する手段として、資料の電子化を中心として ネットワークによるサービスの提供や検索技術の充実などが行われてきた。 一方で、図書館が保有する資料の大半は物理的なモノであり、その管理に大き な労力を割かねばならない。 物理的なモノの管理の部分は効率化、省力化が可能であり、 予算的・人員的な面からもこのような動きが望まれる。

図書館運用の効率化や省力化を実現する技術としてRFIDが注目されている。 RFID (Radio Frequency Identification)とは近接無線通信を利用した認証技術 であり、バーコードを置き換えるものとして特に流通・小売業界から期待され ている。 図書館においても、従来バーコードが本のID管理に用いられてきたため、 バーコードをRFIDタグに置きかえようという動きが出てくるのは自然なことである。 RFIDシステムは数年前からアメリカ、シンガポール、韓国などで数多く導入されており、 日本でも公共図書館を中心に導入され始めている[3]。

筆者の所属する九州大学附属図書館も、その分館の一つである筑紫分館に 2003年2月よりチェックポイントシステムジャパン及び三菱マテリアルとの共同研究として RFIDシステムを導入している。 筑紫分館における貸出処理の9割以上はRFIDリーダを組み込んだ自動貸出機であり、 蔵書点検もバーコードの場合と比較してスピードアップが可能である[5]。 他館でのRFIDシステムの報告[2,4]からも RFIDシステムは図書館運営の省力化・効率化に大きく寄与していることが分かる。

RFIDシステムは図書館の省力化・効率化に寄与するとは言え、 技術的な問題点もある。 まず、タグとリーダ間の情報のやりとりは電磁波であるために、 リーダとタグとの距離や遮蔽物などによってはタグの情報を読み落とすことがある。 1冊づつしか処理しない場合は読み落としを人が直ちに認識できる。 しかし、RFIDの長所は複数のタグを一度に処理できる点にあり、 この場合どのタグを読んでどのタグを読んでいないかはすぐには分からず、 最悪の場合は1冊づつ再点検する必要がでてくる。 特に、ハンディリーダによる蔵書点検と不正帯出防止ゲートで、この問題は 顕在化しやすい。 蔵書点検では、本に貼ったタグとリーダの電磁波が水平になるため、読み取り精度が落ちやすい。 金属製の書架やブックエンドも読み取り精度を落とす要因となる。 ゲートは車いすでも余裕を持って通れる幅を持つ必要があるため、 リーダと本との距離が40〜50cm程度になってしまい、読み取り精度が落ちやすい。 さらに、利用者が本を持って通るため、電磁波とタグとが必ず垂直になるとは限らない。

これらの問題点のうち、本稿では蔵書点検の問題点を取り上げ、 RFIDリーダを書架に組み込むこんだインテリジェント書架による 解決方法について考察する。 インテリジェント書架のアイデアとしては以前からあるが[8]、 実現には後述するRFIDの原理に深く根差した困難が存在する。 筆者らの研究グループでは、セントラルエンジニアリング社が持つ 高精度な複数タグの一括読み取り技術に着目し、 これを書架に組み込んだインテリジェント書架のプロトタイプ[7]を実現した。

本稿では、まずインテリジェント書架に必要な要件について考察する。 次に構築したインテリジェント書架の仕組みを紹介する。 その後、その読み取り精度の性能評価を行い、複数一括読み取りの精度と読み取り範囲を明確にする。 実験から、複数の本に貼付されたタグを高い精度で読み取ることが可能であることが分かった。 本のうち何冊かは斜めや横置きにしても問題なく、この点は実際の利用を考えた場合に重要である。 読み取り範囲は書架内に限られているため、本を書架から抜いたことも検知できる。

タグ同士が重なるくらいに近い位置にある場合は、原理的に読み取り精度が落ちることが知られている。 つまり、薄い本の同じ位置にタグを貼ると読み取り精度が落ちやすい。 インテリジェント書架においても、 6mm程度の厚さの雑誌を用いて読み取り実験を行った場合、読み取り精度が極端に落ちる ことが分かった。 しかし、タグの位置をある程度ずらせば読み取り可能であった。 また、左右の読み取り範囲が書架の外まで広がってしまっている、 タグが書架の金属部分に近い場合は読み取り精度が落ちる場合がある、などの問題点も明らかになった。

最後に、このような高精度なインテリジェント書架を前提にした場合に可能になる 新しいサービスについても議論する。 これらのサービスは、効率化や省力化と比較して、利用者に直接利便性を向上を感じてもらえるものである。 例えば、上述したリアルタイム蔵書点検は利用者に直接サービスするわけではないが、 この機能を利用して館内閲覧された本が戻ってきた時にポケベルや メールアドレスを登録した携帯電話に知らせるサービスが可能になる。

RFIDの仕組み

本節では、RFIDの仕組みを説明した後、 現在図書館に導入されている一般的なRFIDシステムの概略を紹介する。

RFIDシステムは、バーコードに相当するタグ(RFIDタグ、ICタグ、RFタグなどとも呼ばれる)と、 バーコードスキャナに相当するリーダからなる。 卓上のリーダはタグに情報を書き込むライタの機能も持つものも多い。 タグは小型のICチップとアンテナからなり、チップ内にユニークなID番号を持つ。 アンテナはリーダ/ライタから電磁誘導などによりエネルギーを受けるためと通信のために用いられる。 タグが充分なエネルギーを受けると動作を開始し、ID番号をリーダに送る。

図書館における典型的なRFIDシステムの利用方法は次のようになる。 利用シーンに応じてリーダが様々な形に変形して用いられる。

バーコードの場合は、印字面をスキャナにあてる必要があるが、 RFIDはリーダの近くにタグがあればよく、タグは見えている必要はない。 さらに、複数のタグを一括して読み取り可能なため、 複数の本を同時に処理できる。 一方で、金属でタグが覆われると情報を全く読むことができない、といった原理的な 欠点がある。 また、全く読めないわけではないが、 リーダとタグの距離が離れたり、 電磁波の方向に対しタグ(より正確にはアンテナ)の方向が水平になったり、 複数のタグが重なるくらいに近い位置になると極端に読み取り精度が落ちてしまう。 最初の二つは、不正帯出防止ゲートにおいて実際に頻発する。 最後の一つは、論文誌など非常に薄い資料の同じ位置にタグを貼ると発生する。

インテリジェント書架

本節では、最初にインテリジェント書架に必要な要件について考察する。 その後、セントラルエンジニアリング社の高精度のタグ一括読み取り技術を用いた インテリジェント書架[7]を紹介する。

インテリジェント書架への要求要件

インテリジェント書架に求められる最も基本的な要件は、 書架内にある本に貼付されたタグの情報を過不足なく読むことである。 書架内の本を読み落とすことは当然問題だが、 横や裏の書架に配架されている本のタグを読み取ることもしてはならない。

一つの書架は通常数段の棚から構成される。 より詳細な情報が提供できるようにするためには、 書架1本を単位とするのではなく、棚ごとに独立にタグの情報が取得できることが 望ましい。 標準的な書架の横幅は90cm程度であるので、この空間内に配架されている 本を全て読む必要があり、 数十個のタグを同時に読み取る能力が必要である。 また、書架単位の場合と同様に、一段上や下の棚の本や 利用者が手に持っている本のタグを読みとってはならない。

さらに現実的な配架の状況を考えると、以下のような要件も満す必要がある。 まず、図書館の書架にはブックエンドとの間にできた空間内で斜めになった本も多くあるし、 さらに広く空間が空いている場合は完全に横になった本もある。 本の大きさによっては意図的に横にして置いてあるものもある。 つまり、タグの方向はバラバラになっているが、これらを方向に関係なく 同時に読める必要がある。

また、図書は通常ある程度の厚さがあるため、図書に貼付したタグ同士 の距離は充分にあると考えてよい。 しかし、図書館には薄い本もたくさんあるし、製本する前の雑誌は非常に薄いものが多い。 これらの資料にタグを貼付する場合、もし同じ位置にタグを貼り続けると、 配架した時にタグ同士の距離が非常に近くなる。 このように近接した複数のタグも読める必要がある。

これらが実現できれば、本が書架から抜かれたことをリアルタイムで検知できるし、 誤配架があっても棚の単位であれば検出できる。 さらに、現在の技術ではまだ不可能であると考えらられるが、 タグ同士のより詳細な位置の把握が可能になれば、 本の順番まで含めての配置をリアルタイムに把握できるようになる。

RFID書棚型アンテナを用いたインテリジェント書架

前節で述べたように、インテリジェント書架には同時に数十個もの方向の違うタグを読み取る 精度が要求される。 これを満すものとして、筆者らの研究グループでは セントラルエンジニアリング社のRFID全方位一括リーダー MR04A [1]に注目した。 これはトンネル型のリーダで、ベルトコンベア等で運ばれてくる品物のタグを 一度に読み取るものである。 トンネル内には複数のリーダーが組み込まれており、これらから得られる情報を コントロールユニットが処理してタグの読み取りを行う。 タグには特に細工はなく13.56MHzの一般的なタグを扱える。

MR04Aはバラバラの方向を向いている数十個のタグを同時に読み取ることが 可能であり、書架への応用も可能であると考えられた。 書架の場合はトンネル型にすることは困難であるが、 同社によると、コントロールユニットによる信号処理が重要であり、 リーダを組み込む形状はトンネル型である必要はない。

図 1: RFIDリーダ付き書架。サイズは900(W)×312(H)×290(D)である。 固定された4つのブックエンドがRFIDリーダである
Image bookshelf.jpg

1がセントラルエンジニアリング社のRFIDリーダ付き書架である。 サイズは横90cm、縦31.2cm、奥行29cmである。 固定された4つのブックエンドがRFIDリーダであり、幅はそれぞれ2cmである。 この書架に、コントロールユニットを接続して用いる。

MR04Aはベルトコンベアと同時に用いることから、 流通業界における利用を想定しているものと考えられる。 しかし、この業界においてはアイテム単位でのタギングは一般的ではないことと、 流通の途中においてアイテムは整頓された状態で扱われるため これだけの高性能な一括読み取り精度は要求されない。 逆に、図書館においては上述のように様々な方向を向いたタグを読む必要があり、 この技術を用いる場所としては、図書館業界のほうがより適当であるとも言える。

性能評価実験

実験方法

読み取り精度を調べるために用いたタグは、フィリップス製のチップを持ち 13.56MHz (ISO 15693 準拠)で動作する。 ラミネート部分も含んだ幅は5.8cmだが、アンテナ部のみの幅は4.6cmである。

計測するソフトウェアはセントラルエンジニアリング社製で、 読み取ったタグの数が画面中央付近の``蔵書数''の欄に、 各タグのIDが画面右側の``UID''の欄に表示される(図2参照)。

図 2: タグ読み取りプログラムの画面表示例
Image software.jpg
蔵書数の数字があらかじめ設定した設定数と等しければ 一番上の``OK''が表示され、多かったり少なかったりすると ``LESS''や``OVER''が表示される。

タグの読み取り方に``自動読取''と``試験読取''の二つの読み取りモードがある。 自動読取モードでは、10秒ごとに自動的にタグを読み、 読み取ったIDのリストをテキストファイルとして書き出す。 ファイル名は読み取った時の日付と時間から自動的に生成され、 例えば2005年11月2日の11時22分33秒の場合は、``20051102112233.txt''となる。 試験読取モードは連続的に同様の操作を行う。 今回は自動読取モードで作業を行った。

実験結果:複数一括読み取り

まず、通常の書架のように複数の本を配架した状態でのタグの読み取り精度について調べる。 用いる本は30冊である。 タグを貼る位置は、本の背を左にして置き、表紙または裏表紙をめくった右側のページで、 背の部分に沿うように中央に配置した(図3参照)。 この位置は筑紫分館に置けるタグの位置と基本的に同じである。

図 3: タグを貼付した場所。本を立てたときに右側にくるように貼付した
Image tag.jpg

4が実験に使用した配架状況である。 あまり窮屈にならないよう配架し、通常通り直立した状態で配架している。 ただし、多少の空白があるため、自然に傾いたものもあるが、そのままの状態で計測した。

図 4: 複数タグの一括読み取り実験。多少傾いた本もあるが、基本的に自然に直立した状態で配架している
Image multi1.jpg
計測は10秒毎に計100回行い、30個全てのタグを100回とも問題なく読み取った。

次に、2冊の本を取りだし、これらを他の本の上に横にした状態で配架し、 隙間のできた中央部分の2冊を極端に倒した状態で配架した(図5参照)。

図 5: 複数タグの一括読み取り実験。2冊を横にした状態で配架、中央の2冊を極端に倒した状態で配架、さらに1冊を手前に置いてている
Image multi2.jpg
さらに1冊を書架の手前に置いている。 この状態で、10秒毎に計100回計測し、手前に置いた一つを除いた29個 を100回とも問題なく読み取った。

これら2つの実験から、通常の配架で問題なく一括読み取りが可能であること、また、 書架から出された本のタグを読み取らないことが確認できた。

実験結果:読み取り範囲と薄い雑誌

本節では、まずインテリジェント書架の読み取り範囲について調べる。 書架の床と奥の部分、左右の仕切りは金属で出来ており、 これが書架範囲外のタグを読ませないシールドの役目を果たしている。 しかし、金属であるため、その近くにあるタグは読めなくなる。 そこで、どこまで近づけると読めなくなるのかを調べる。

本稿では、奥側と床側の金属に近づけたタグを貼り、様々な条件で実験を行った。 つまり、タグの位置は一番奥の下に固定した。 予備実験から、タグが金属に近い場合でも、リーダにも近い場合には よい精度でタグを読み取れることが分かった。 実際、両方をリーダに囲まれた範囲では、リーダからの距離を遠くしても100% (10秒ごとに100回) タグの情報を読み取ることができた。 一方、両端にはリーダがないため、タグの位置がリーダから離れるに従い、 読み取り精度も落ちていった。

精度とリーダとの距離の関係を表1に示す。

表 1: 薄い雑誌を用いた近接タグ同士の読み取り実験結果(10秒ごとに100回計測)
距離(mm) 読取個数(個)
0 100
6 99
12 100
18 77
24 35
30 7
36 10

リーダから離れるに従い極端に読み取り精度が低下することが分かる。 しかし、タグの位置を奥の金属から2cm離す、つまり、本の中央方向に2cm移動すると、 78mm程度リーダから離れていても98%の精度で読める。 同様に、タグの位置が奥の金属から離れるに従いリーダから離れても問題なく読めることも分かった。

次に、薄い雑誌を用いた実験を行う。 この場合、貼付したタグ同士が非常に近接してしまい、 読み取りにくいことが知られている。 そこで、どの程度の厚さがあれば読むのかを明らかにすることが目的である。

実験に使った雑誌は「シティ情報ふくおか」という情報誌で、 平均の厚さは6mmである。 実験に用いた11冊のほとんどはほぼ6mmであり、時折5mmや7mm程度のものがあった。 これらのうち6冊のみに以下のようにタグを貼る。 (1)同じ位置にタグを貼った雑誌の間にタグを貼らない5冊を挟んで並べた場合、 (2)同じ位置にタグを貼った6冊を並べた場合、 (3)交互に2cmづつ位置をずらしてタグを貼った6冊を並べた場合、 (4)交互に4cmづつ位置をずらしてタグを貼った6冊を並べた場合、 の4つの場合について読み取り精度を調べた。 どの場合においてもタグの個数は6個であり、これを10秒ごとに100回計測した。

結果を表2に示す。

表 2: 薄い雑誌を用いた近接タグ同士の読み取り実験結果(10秒ごとに100回計測)
実験名 タグ間距離 タグ位置 読取個数 精度
実験(1) 12mm 同じ位置 600個 100%
実験(2) 6mm 同じ位置 100個 16.7%
実験(3) 6mm 2cm違い 437個 72.8%
実験(4) 6mm 4cm違い 599個 99.8%

まず、タグの間隔が約12mmの場合は完全にタグを読んでいることが分かる。 一方、6mm間隔にした場合、1回の計測で平均1個のタグしか読まずに、実用的とは言えない。 同じ6mm間隔であっても2cm程度位置をずらせば、読み取り精度は格段に向上する。 しかし、読み落としが1/4以上あるため、やはり実用的とは言えない。 4cm程度ずらせば問題なく読めると言ってよいであろう。 そのため、現状における厚さに対せる精度では、薄い雑誌の場合は貼る位置を かなりずらす必要がある。

新たなサービス

インテリジェント書架を構築した当初の目的はリアルタイムの蔵書点検であったが、 これだけの精度が保証できれば様々なユーザサービスに利用することが考えられる。 本節ではこのようなサービスについて考察する。

リアルタイムに蔵書をチェックできることから、OPACなどの検索サービスに より粒度の細い位置情報を提供することが考えられる。 例えば、「○○番の棚の上から2番目にある」という具合である。 さらに、筆者らの研究グループで行っている仮想書架のインターフェイス[6]と 共に用いれば、 利用者は配架されたイメージを持って求める資料を探すことができるので、 容易に求める資料を探すことができる。

位置情報の提供だけでなく、配架情報を継続的に取れば時間的な情報も有用となる。 例えば、ある本を検索した時に、「その本は貸し出されていないが、5分前まで書架にあり、 現在はない」などという情報が提供できれば、求める資料が館内閲覧されているであろう と推測できる。 さらに、このように館内閲覧されている資料が書架に戻ってきたら利用者の携帯電話に知らせる サービスも考えられる。

また、位置情報や時間情報はユーザにとって便利なだけでなく、 図書館側にとっても有用である。 書架内の棚の単位で誤配架が検出できるし、 館内閲覧されたまま書架に戻ってこない資料は、盗まれたか貼付したタグの故障であろう と推測することができる。 特に、タグはバーコードより壊れやすいため、タグの故障を統計的に検出できる利点は大きい。

全部の書架に用いることはコストがかかるだろうが、 少数のインテリジェント書架を用いるだけでも充分に有用である。 具体的には、館内の特別な場所に特定のテーマや関連性で図書を展示する時の 棚に使えば、特定の分類に従った並べ方をしなくても、 どの棚の上から何番目にあるかが分かる。 他にも、新刊本のコーナーや返却された本を載せておくラックとして使うことが考えられる。 返却用のラックは、返却処理もこの棚ですることが可能であり、一層の省力化にも寄与する。

まとめ

本稿では、インテリジェント書架に必要な要件について考察した後、 インテリジェント書架のプロトタイプを紹介し、その性能評価を行った。 プロトタイプということで、リーダの厚さや色など実際の書架としてはまだ改良の余地がある。 また、両端における読み取り精度の低さや薄い雑誌に貼付したタグの読み取り精度の低さ なども改善すべき点である。 さらに、現在ベースにしている技術では、 インテリジェント書架内のリーダの位置は固定であり、実用上大きな欠点である。 しかし、そのタグの方向に依らない読み取り精度は、 実用化が間近かであることを期待させるものである。

本稿では、1段分の書架でしか性能評価を行っていない。 今後は、数段を1架として、複数の書架による評価を行い、 隣接する書架のタグ情報を読まないことを確認する必要がある。

RFID関連の業界は、現在非常に活況であり、 新たな技術も次々に開発されている。 例えば、今年の自動認識総合展では、タグ同士が位置が近い問題に対して、 タグ間の距離が4mm程度であっても読めるRFIDリーダや、 重ねても読める積層タグなどが出展されていた。 このように技術の進展は目覚ましいものがあるので、 今後図書館側は実現したいサービスを明確に示していく必要があるだろう。

謝辞

インテリジェント書架に関する様々な情報提供をしてくださったセントラルエンジニアリング社の 高野様に深く感謝します。 なお、本研究の一部は科研費(基盤研究(B)(2)16300078)と 九州大学教育研究プログラム・研究拠点形成プロジェクト (Dタイプ「ユビキタス社会における電子図書館のソフト面高度化に関する研究」)の 補助を受けて実施されました。

参考文献

1
セントラルエンジニアリング株式会社.
RFID全方位一括リーダー MR04A.
http://www.central-eng.co.jp/products/rfid.htm.

2
白根.
町立図書館をつくった!
青弓社, 2005.

3
図書館流通センター.
図書館ICシステム ご導入館一覧.
http://www.trc.co.jp/ic/list_ic.html.

4
高橋.
非接触型無線ICタグ(RFID)の導入効果とこれからの課題について.
現代の図書館, 41(1):39-44, 2004.

5
池田, 宮岡, 南.
図書館におけるRFIDシステム〜九州大学附属図書館の取り組み〜, 第2編第6章.
電子ジャーナル, 2005.
(印刷中).

6
宮川, 山口, 大森, 池田.
Web上における仮想書架の試作と評価.
デジタル図書館, No. 27&28, pp. 27-39, 8 2005.

7
日経BP.
書棚内の蔵書をリアルタイムに調べられる新型リーダー発売、九大図書館が試験導入.
日経RFIDテクノロジExpress, 2005.
http://itpro.nikkeibp.co.jp/rfid_express/members/RFIDNEWS/20050523/161324/(全文閲覧には要会員登録).

8
山崎.
RFIDタグのIT図書館への応用.
情報の科学と技術, 52(12):609-614, 2002.