山口 恭平
九州大学工学部電気情報工学科(現(株)TV大阪)
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大森 洋一
九州大学大学院システム情報科学研究院
〒812-8581 福岡県福岡市東区箱崎6-10-1
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池田 大輔
九州大学附属図書館
〒812-8581 福岡県福岡市東区箱崎6-10-1
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Kyohei Yamaguchi
Department of Electrical Engineering and Computer Science, Kyushu University
6-10-1 Hakozaki, Higashi-ku, Fukuoka, 812-8581 JAPAN
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Yoichi OMORI
Graduate School of Information Science and Electrical Engineering, Kyushu University
6-10-1 Hakozaki, Higashi-ku, Fukuoka, 812-8581 JAPAN
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Daisuke IKEDA
Kyushu University Library
6-10-1 Hakozaki, Higashi-ku, Fukuoka, 812-8581 JAPAN
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なかでも、ディジタル図書館化の第一歩として図書カードを電子化した On-line Public Access Catalogue (OPAC) は多くの図書館でオンライン公開され、収蔵文書の流通に大きな役割を果たしている。 さらに強力な検索機能もディジタル図書館ならでは特徴として期待されており[2]、OPAC 以外にも収蔵図書データベースのオンライン化、World Wide Web (WWW) インターフェースなど使いやすさの改良、検索精度の向上などが、先行して進められている。 しかし、従来のオンライン検索は、図書カードと同様に書誌情報がテキストで表示されるものが主流であり、開架式に配架された図書を検索する場合と比較して、書誌の対象読者層といった専門性、シリーズ発行の関連性などが掴みにくい。 特定の本を探すのではなく書棚を歩き回り、本を手にとりながら借りる本を選ぶという利用の仕方をする人も多いが、そのような、図書館を巡回して楽しむという利用法ができないのである。
本研究で提案する WWW による仮想書架は、書棚のように図書の背表紙画像を一列に並べ、 Web ブラウザを通して表示するものである。 仮想書架の利用により、検索結果の見栄えを改善するだけでなく、情報空間の対話的な探索を可能とし、利便性の向上が期待できる。
先行研究としては、 Virtual Reality (VR) 技術とディジタルコンテンツ表示機能により、いながらにして現実の図書館をメタファとする文書利用環境を実現しようとするものがある。 佐藤による研究[3]では、 Computer Graphics (CG) による動画像を利用した仮想図書館を構築している。 建築の幾何学的な配置や利用者の移動する奇跡などは予め生成されたデータを利用し、表紙画像データを貼り付けることで書棚を表現している。 神谷らによる研究[4]は、電子図書館のためのインタフェースとして、 3 次元 CG を用いた仮想空間内のウォークスルーと利用者のガイドの役割を果たす CG 生成による司書を用いたシステムである。
しかし、現在の一般的な計算機においては、 CG による仮想空間処理は負荷が過重であり、特に高精細ディスプレイなど文字情報を含む高品質な表示を行なう実行環境の普及は遅れている。 紙媒体には解像度や階調性といった表現能力に優れ、人手により持ち運べて流し読みや返り読みが容易というとりまわしの良さがあり、現状では文書のディジタル形式での利用は限定されている。 また、既存の収蔵品や検索システムを無視するわけにはいかず、互換性も課題である。
こうした検討を踏まえて、本研究では本棚表示に特化したシステムを提案する。 具体的には、 WWW を通じて実行した OPAC の検索結果や実際の配架状況に沿って、背表紙画像を並べた Web ページをサーバ上で動的に生成し、表示する。
同様に WWW を利用したシステムである新書マップ[5]は、検索したキーワードから分類して表示される書籍の組み合わせは固定されており、 Web ページは静的に生成されている。 また、実装が Web ブラウザに依存しているため、標準的な WWW 技術を用いながら、利用できる環境が限定されている。 本研究は、こうした検索者の個人的な環境に依存せず、利用状況に対してより適応的な検索表示を可能にすることを目標とする。
図1. 自動書庫システム
したがって、基本的に閉架式のシステムであり、利用者は書誌情報の検索などにより当該図書を指定し、借り出し手続きを行なう。 仮想書架は、九州大学のように地理的に分散した組織では特に、事前にこれまでの検索では得られない図書の装丁を確認可能とし、効率的な図書利用に有用である。
九州大学附属図書館筑紫分館における自動書架では、さらに Radio Frequency IDentification (RFID) タグを用いて書誌の管理や貸出しなどの処理を行なっている。 RFID タグとは、書き換えできない ID 情報を電子的に保持し、電磁誘導により読み出し可能とした比較的小型の無線 IC であり、非接触読み取りが可能なことからバーコードの代替技術として期待されている[6]。 この RFID タグのついた図書は、書棚型のアンテナ[7]の利用により、開架式であってもどこの本棚にあるかを把握することが可能となり、自動書庫のコンテナに相当する精度での管理が可能となると期待されており、検証実験を行なっている。 図書が格納された書棚位置が把握できれば、その情報を基に WWW で背表紙画像を並べて表示すれば、現在の配架状況を本棚単位で自動的に生成できる。 この本棚単位の位置情報と背表紙画像により、従来よりも効率的に開架式の本棚から図書を探すことができる。
配架・貸出・返却という一連の処理を機械化することには、図書館業務の効率化や低コスト化、書誌の違法な持ち出しを防ぐなど様々な利点が存在するので、自動書庫の導入は、これからますます増加していくと思われる。 仮想書架の実現においてこうした工夫が重要なのは、画像表示のために検索を目的とした情報入力の手間が増えるのでは本末転倒であり、サービスを低下させかねないからである。
図2は、本研究で構築した仮想書架表示を行なうサーバ群の全体構成である。
図2. 全体構成
今回の試作では、 WWW サーバ、書誌情報 DB サーバ、背表紙画像サーバは物理的にも分離している。 WWW サーバは、ごく一般的な Apache2.0.51 を利用し、 PHP 言語を使用して WWW サーバ上で動作するプログラムを記述した。 書誌情報 DB サーバは、データベースサーバに MySQL3.23.58 を利用し、 WWW サーバからの問い合わせにネットワーク経由で応答する。 背表紙画像サーバは、データベースサーバに MySQL4.0.20d を利用し、 WWW サーバからの問い合わせにネットワーク経由で応答する。
書誌情報 DB サーバは九州大学附属中央図書館のデータから 400 冊分を抽出し、背表紙画像はそのうち、図書がみつからなかったもの、背表紙の傷みが激しいものを除いた 380 冊分を使用した。
図3. 関連書誌表示システム
既存の検索システムが利用者をある1冊の書誌へと導くものであるのに対して、このシステムは1冊の書誌から関連する書誌へと利用者が興味の範囲を広げることの手助けをするものである。 上記の5項目について、著者と請求番号は比較的分野が近い書誌を表示することが期待でき、出版社と出版年は異なる分野の書誌を紹介することで、利用者に新たな分野の書誌との出会いを提供することが期待できる。 また、シリーズは全集等を視覚的に表示することで、そのスケールを実感できる。
こうした図書の間の関連度を定義し、視覚的に表示する方法はさまざまな研究がなされている[8]。 本研究は、こうした視覚化技術の最終段階として、書棚のメタファを利用して関連の強い図書をひとつの書棚に集めることにより、図書間の関連度の強さを表現するためにも利用可能である。
表1. テキストと画像ではどちらが見やすかったか
テキストと答えた人の意見
画像と答えた人の意見
表2. 完成した関連書誌表示システムを利用したいか
テキストで利用したいと答えた人の意見
画像で利用したいと答えた人の意見
テキスト、画像の両方で利用したいと答えた人の意見
表3. 蔵書検索においても、利用したいか
利用したいと答えた人の意見
利用したくないと答えた人の意見
どちらでもいいと答えた人の意見
表4. 100冊分のデータを読む際の所要時間
表5. 100冊分のデータを読む際の所要時間ごとの分布
表6. 100冊分のデータを読む際、テキストと画像ではどちらが見やすかったか
テキストと答えた人の意見
画像と答えた人の意見
どちらでも変わらないと答えた人の意見
表7. 画像ページを読み込むのにかかる時間は気になったか
90% 以上が気にならないと答えていることから、画像を 100 枚表示させてもそれほどストレスは感じなかったようである。 これは、画像 1 つあたりのサイズが約 7KB と小さいこと、スクリプトを簡潔にしたことが理由と考えられるが、全体の書誌データが多くなった場合の評価も必要である。
表 4 と表 5 より、視認性において画像はテキストよりも優れていると考えられる。 ただし、「見にくい画像があった」という意見も多かったことから、撮影時のフラッシュによる白飛びなど画像の品質については検討する必要がある。
表 2 では、利用者全員が関連書誌表示システムを何らかの形で利用したいという回答を出しており、システムの需要は高いと思われる。 表示形式については、画像とテキストの両方で利用したいという意見が 78% に上っている。 この結果は、テキストと画像のそれぞれの長所を組み合わせて利用したいという意見が多いことを示していると考えられる。
一方、表 3 より、蔵書検索システムにおいて画像表示を利用したいという回答は 62.5% で関連書誌表示システムの場合より低くなった。 アンケートの意見から推察すると、蔵書検索においては探す書誌が特定されている場合が多く、検索結果はテキスト表示で十分であると考えているようである。
非技術的な側面としては、背表紙画像の著作権が不透明という問題がある。 ディジタル図書間の実現にあたっては、こうした法律的な課題の解決も重要である[9]。
今後の課題としては、図書館で使われている実際の書誌情報データベースを用いた拡張性の評価がある。 九州大学を例にとると、約 20 万冊の蔵書があり、このように大規模なデータを扱うためには、データベースや検索アルゴリズムの工夫とともに、背表紙画像の取り込み方法など、現実世界との接続も大きな課題となるだろう。
[2] 長尾 真, 武田 浩一, 安達 淳, "インタラクティブ・エッセイ: 電子図書館の正しい概念を持とう", 情報処理学会誌, Vol. 40, No. 3, Mar. 1999.
[3] 佐藤 衛, "CG 映像による電子図書館「孫悟空」",情報処理学会情報学基礎研究会報告, Vol. 1991, No. 2, pp. 9-16, Nov. 1991.
[4] 神谷 俊之, 呂 山, 原 雅樹, 宮井 均, "3次元ウォークスルーとCG司書を用いた電子図書館インタフェースの開発", 情報処理学会情報メディア研究会報告, Vol. 1995, No. 1, pp. 25-32, Nov. 1995.
[5] 新書マップ, "書棚で見るテーマ一覧",http://bookshelf.shinshomap.info/
[6] 秋山 功, 井口 伸奏, 末永 俊一郎, 松村 義昭, 真野 悟, 峯岸 康史, 日本ユニシス IC タグ研究会(監修), "IC タグの仕組みとそのインパクト", ソフト・リサーチ・センター, Jan. 2004.
[7] セントラルエンジニアリング, "RFID 書棚型アンテナ",http://www.central-eng.co.jp/products/rfidsyoseki.htm
[8] Linn Marks, Jeremy A.T. Hussell, Tamara M. McMahon, and Richard E. Luce, "ActiveGraph: A digital library visualization tool", International Journal on Digital Libraries, Vol. 5, No. 1, pp. 57-69, Mar. 2005.
[9] 田畑 孝一, "ディジタル図書館とは", 情報処理学会誌, Vol. 37, No. 9, pp. 814-819, Sep. 1996.