メタデータを用いた考古遺跡写真ライブラリの構築

田中美晃*,今井正和*,新麗**
*鳥取環境大学
**IIJ技術研究所
*E-mail:{t013059t, imai}@kankyo-u.ac.jp
**e-mail:ray@iijlab.net

概要

 我々は、実際の発掘現場等で撮影される考古学写真を保存、再利用するため考古学写真フィルム をディジタル化し、考古遺跡写真ライブラリを構築している。考古遺跡写真ライブラリを構築する ために、電子化した写真に関する情報、すなわち、メタデータを付与し、考古学写真データの検索、 閲覧、保存することを目的とする。我々は、メタデータの国際標準であるDublin Core Metadata に従い、考古学写真データに様々な情報(遺跡の名称、遺跡の年代等)をメタデータとして付与し、 考古遺跡写真ライブラリのプロトタイプの実装を行った。

キーワード

考古遺跡写真、メタデータ、Dublin Core Metadata

1.はじめに

 遺跡発掘調査の際、学術的、開発に伴う発掘調査に関わらず、発掘調査の過程等を記録するため、 数百枚から、時には、数千枚の写真が撮影される。これらの写真は、研究資料としてもとても貴重 なものであるが、整理、保存するために、非常に多くの時間と労力を要するため、なかなか整理が できない。

 そのため、考古遺跡写真フィルムを考古遺跡写真データとして電子化し、計算機上に考古遺跡写 真データを保存することにし、その際、単に、写真データを保存しただけでは、必要な写真データ を必要なときに利用することが難しくなる。そこで、写真データに、遺跡の名称等の写真に関する 情報、すなわち、メタデータを付与することで、写真データの再利用、有効活用が可能となる。我 々は、メタデータの国際標準である、 Dublin Core Metadataに従い、写真データのメタデータの設 計を行い、考古遺跡写真ライブラリとして、プロトタイプの実装を行った。

2.考古遺跡写真のメタデータ

 本節では、考古遺跡写真のためのメタデータをリストアップする。

2.1 考古遺跡写真のメタデータ

 考古遺跡写真のメタデータについては、下記の項目が必要と考えられる。

2.2 考古遺跡写真のメタデータの分類

 考古遺跡写真に関するメタデータは、撮影対象に依存して遺跡、遺構、遺物に関するメタデータ が存在することが分かっている。そのため、上に挙げたメタデータは、下記のとおりのグループに 分けることができる。

[写真に関するメタデータ]

[遺跡に関するメタデータ]

[遺構に関するメタデータ]

[遺物に関するメタデータ]

 括弧で括ってある項目については、メタデータ入力の際、特別な理由がない限り、省略しても問 題はないと思われる項目である。

3. 考古遺跡写真ライブラリの実装

3.1 システム構成

 プロトタイプシステムは、デスクトップ型のPC/AT互換機にインストールされたFreeBSD上に構 築した。データベースとしてはMySQLを使用し、入出力にはWWWを用いた。WWWサーバとして apache 2.0を使用し、PHPによりMySQLと連携をさせた。Webブラウザを利用して、データ入力を 行えるようにした。

3.2 考古遺跡写真データ

 今回のシステム構築の際に使用した考古遺跡写真データは堅田直帝塚山大学名誉教授が撮影した遺 跡発掘時の写真フィルムを電子化したものである。写真が撮影されてから電子化されるまでの間に2 0年以上経過した写真も数多くあり、カラーフィルムの退色が観察された。電子化作業は外部に委託 し、電子化された画像での色補正も行った。データとしては、色補正前、色補正後のデータがある。

3.3 入力、表示、検索

 考古遺跡写真データのシステムへの入力、表示には、Webブラウザを利用する。図1では、遺跡毎 に写真を格納できるようにするためディレクトリ作成画面へのリンク、ディレクトリが作成されたこ とを確認するための画面へのリンク、メタデータを入力するための画面へのリンク、そして、画像を 検索するための画面へのリンクを作成した。


図1

 図2は、遺跡毎のディレクトリを作成するためのインターフェースである。

 図3は、図2で作成したディレクトリが作成されているか、確認用のインターフェースである。

 図4は、ディレクトリ毎に、考古遺跡写真データを格納するためのインターフェースであり、併せ て同一ディレクトリ内に存在する画像のサムネイル表示もみることができる。オリジナルの画像はTIFF 形式であるが、表示されている画像は、インターネットでもストレスなく見ることができるようにす るためJPEG形式に変換した後、システムへアップロードすることで写真の蓄積を行う。 また、サムネイル表示の左側にある削除ボタンを押すと、写真データを削除することができ、写真デ ータの右側にある編集ボタンをクリックすると、メタデータ入力フォームへと移動し、写真データを みながらメタデータを入力できる。また、拡大ボタンを押すと、画像の拡大表示(図5)をみること ができる。

 最後に、図6は検索をクリックすると、考古遺跡写真を検索するための画面が表示される。ここで は、データベースのフィールドと1対1に対応させ、これまで入力されたメタデータをプルダウンメ ニューから選択し、検索できるようにしてあるとともに、自由記述での検索にも対応させるようにし た。

3.4 システムの改良

 今回、作成したプロトタイプはまだ完全なものではない。最初から、完全なものを目指すことは非 常に難しい。これは、メタデータとの兼ね合いもあるが、メタデータの項目に変更があることは十分 に考えられることであり、このような事態がおこった際、迅速にシステム変更ができるようなシステ ム設計をすることも念頭に置く必要がある。

 さらに、入力作業を行う際、同じ物を指し示す場合でも、異なる単語を使用する場合があることが分 かっている。また、同じ単語を複数の写真に対して入力する必要が多々ある。これは、同一の対象物に 対して複数の角度から写真を撮影するため、さけることができない。そのため、メタデータ入力の際、 発生しがちな、入力のケアレスミスがおこることが、容易に想像できる。このことを回避するには、こ れまで入力したメタデータをプルダウンメニュー等により、選択式にすると、入力の簡便化を図ること ができ、さらに、それまで入力したメタデータにミスがあった場合などにも、入力ミスの検出ができる。 プルダウンメニューだけの、入力インターフェースでは、新規メタデータを入力することができないの で、テキストボックス等を併用し、入力を行うことが望ましいと考える。


図2

4. 考察及びまとめ

 2.2において、考古遺跡写真のメタデータの分類を行ったわけであるが、今回のシステムにおいては、 メタデータの分類に従わず、各々の考古遺跡写真データがすべてのデータを保持する方法で構築した。 この方法では、写真データにすべての情報を持つことになるので、資料の整理等がやりやすくなる。欠 点としては、各々の考古遺跡写真が遺跡、遺構、遺物のメタデータも保持することになり、変更があっ た際に、修正に手間がかかることになる。

 そのため、現実的には、考古遺跡写真のメタデータの分類のとおり、考古遺跡写真データ、遺跡、遺 構、遺物に関する情報を分割し、それらの関係を明確にし、記述していく方法の方が、効率的な情報管 理ができると考えられる。ほぼ同じ写真が何枚も存在することは、よくあることであり、そのため、遺 跡等のメタデータは、写真に関わらず、そのまま利用することはかなりの確率であり得ることである。 上記に挙げた問題を今後どのように解決していくかが、これからの最大の課題となる。

5. 今後の予定

 これまでは、堅田直帝塚山大学名誉教授の撮影された、遺跡発掘写真を使用し、メタデータの設計、 プロトタイプの実装を行ってきた。これらの写真は、数十年前に撮影された写真が多く、同様のアング ルから同一の被写体を撮影した写真は、あまり多くなく、写真も整理されていた。そのため、今後は、 実験的に、兵庫県香住町教育委員会に協力していただき、同町教育委員会が保有する、未整理の考古遺 跡写真についても、メタデータを入力し、問題点があれば、メタデータの再設計、システムの改良を行 っていく。


図3

謝辞

 遺跡発掘写真を提供していただいた堅田直帝塚山大学名誉教授に深謝します。

参考文献

[1] 新麗、今井正和、千原國宏、堅田直:「考古遺跡写真ライブラリの構築」, 日本情報考古学会第9回大会、pp.23-27, 2001

[2] 田中美晃、今井正和、新麗:「考古学写真ライブラリ」、日本情報考古学会第13回大会予稿集

[3] Dublin Core Metadata Initiative http://www.dublincore.org/


図4


図5


図6