池田 大輔
九州大学
〒812-8581 福岡市東区箱崎6-10-1
Tel: 092-642-4422, Fax: 092-642-2330, E-Mail: daisuke@lib.kyushu-u.ac.jp
喜田 拓也
北海道大学
〒060-0814 札幌市北区北14条西9丁目
Tel: 011-706-7679, Fax: 011-706-7890, E-Mail: kida@ist.hokudai.ac.jp
Daisuke IKEDA
Kyushu University
6-10-1, Hakozaki, Higashi, Fukuoka, 812-8581, JAPAN
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Takuya KIDA
Hokkaido University
Kita14-Nishi9, Kita, Sapporo, 060-0814, JAPAN
Phone: +81-11-706-7679, Fax: +81-11-706-7890, E-Mail: kida@ist.hokudai.ac.jp
1. Books are for use.
2. Every reader his or her book.
3. Every book its reader.
4. Save the time of the reader.
5. The library is a growing organism.
すなわち,図書館にとって最も重要なことは,利用者に必要な図書を整備し,要求に対して直ちに提供すべきであること,また,そのために図書館は成長し続けなければならないという理念である. 実際,図書館はその後発展した新技術を取り入れ今日に至っている. 図書館所蔵の図書の所在を検索するために,従来は紙製の目録カードを用いてきた. 現在では,OPAC (Online Public Access Catalog)システムにより,コンピュータ検索が普及し,キーワードなどを指定することにより容易に目的の図書にアクセスできるようになった. また,ここ10年の急速な普及の結果,インターネットは今や社会にとって情報ライフラインとも呼ぶに値する位置を占めるようになった. それに呼応して,図書館においても,様々な情報サービスをインターネットを通じて提供するようになってきた.例えば[5],
などである.
図書館がこのような成長を実現するためには,組織として学び続ける体制を整備しなければならない. 中でも特に重要なのは,新しい時代の環境に対する技術やセンスを持ったスタッフの強化である. そのためには新規スタッフを雇ったり,これまでのスタッフを再教育したりすることが必要である. しかし,多くの図書館においては,新規サービスのための予算やスタッフ数の増加を図ることは困難である. それどころか,予算削減を求められることもまれではない. このような環境の中,現在の予算規模や体制下で新しい時代の要請に応えていくための知恵が求められている.
本稿では,従来の体制の下で利用者サービスの向上を実現させることの可能なディジタル図書館のモデルを提案し,そのための課題と解決案に関して考察する. 本モデルのポイントは,今後最も期待できる自動認識技術としてここ数年来注目を集めているRFID (Radio Frequency Identification)技術[2-4, 8, 12]を適用することにより,図書館の自動化とディジタル化を同時に実現するところにある. 具体的には,RFID技術を用いたラベル状のICタグを図書に貼付することにより,従来用いられてきたバーコードによる図書識別を代替する. (なお,本方式は図書に限らず図書館所蔵の資料全般に適用可能であるが,本稿では,図書で代表させる.) ICタグは電磁波による通信を行うため,図書の内部に貼付されたICタグのメモリに格納された図書識別子 (ID)などのデータを外部から,しかも複数個同時に読み取りができる. この特長を活かすことにより,バーコードによる処理と比較して,貸出・返却や蔵書点検などの処理が高速にしかも容易に行えるため,大幅な効率化・省力化が実現される. 更にRW (Read Write)型のICタグを用いると,データの新規書き込みや更新も可能であり,それを利用した新しい機能の実現を図ることができる.
我々は図書館への自動化技術の導入とディジタル技術による利用者サービスの向上を同時に実現しようという考え方を図書館自動化&電子化 (Library Automation & Digitization)と表現している[9-11]. 両者を同時に視野に入れることによって電子化部分の実現可能性が高まるものと考えている. この考え方は,次のような2つの側面を持っている.
図書館電子化・ディジタル化による利用者サービス充実のために自動化を推進する
図書館自動化の成果を活かし,利用者への (ディジタル)サービスを推進する
これら両方の側面をうまく活かすことにより,真の図書館自動化&電子化が実現できる.
以下,本稿は次のように構成される. 第2節では,RFID技術およびその図書館への適用に関してより詳細に解説する. それを踏まえ第3節では,九州大学附属図書館筑紫分館への適用事例を通して,その具体的適用方法ならびに実運用するに当たっての問題点やその解決策などを議論する. 第4節では,導入したRFID機器を有効活用することにより,従来得られなかったデータを自動収集する方法についていくつかの案を検討する. 特に,従来取得が困難であった館内での図書利用状況に関するデータの収集は,RFID技術ならではの特長をうまく活かした例として注目に値する. 最後に第5節において,本稿の議論をまとめ,今後の展望を述べる.
図2−1.ICタグシステム動作の仕組み
ICタグ(図右)は,大きくICチップとアンテナからなる. ICタグのアンテナは,リーダ/ライタ(図左)側のアンテナから電磁誘導などによりエネルギーを受けるのに用いられる. 供給された電力エネルギーが十分な量に達すると,ICチップは動作を開始する. ICタグのアンテナとリーダ/ライタのアンテナはエネルギーの授受のみならず,通信のためのアンテナとしても用いられる. ICチップはその中のメモリ部分にチップの識別子データなどを蓄積することができる. これらのデータはリーダ/ライタによって読み取ることができる. 書き換え可能なメモリを持つICチップでは,更にデータの更新も可能である. 高機能のICチップを用いるならば,暗号化通信を行ったり,外部に接続された発光ダイオードを点灯させたり,温度センサーなどのデータを取り込んだりと,更に高度な機能を実現できるものの現状ではかなりのコスト高になる.
一方リーダ/ライタ側はアンテナとそれを制御するコントローラから構成され,それらはアプリケーションのフロントエンドとなってICタグとのデータ通信を行う. 図ではアンテナとコントローラは1つずつであるが,1つのコントローラを用いて複数のアンテナを制御する構成をとることもある.
以上がICタグシステム動作の基本的な仕組みである. このような原理による通信を行うことにより,ICタグシステムは以下のような特徴を持つ.
図2−1は電池を備えないICタグ(受動型)の動作を説明している. ICタグは電池を備えた能動型としても構成できる. 能動型は,受動型と比べてより強い電磁波を放出することができるため,通信距離を確保できる. 一方,電池を備えることにより,(1)コスト高になり,(2)厚みが増し,(3)耐用年数が短くなる,などの欠点がある. これらの理由により,現在のところ図書館用途には受動型のICタグが採用されている.
ICタグとリーダ/ライタ間の通信は電磁波を用いるため,両者を接触させずに通信が可能である. また,光を用いた通信のように見通しのきく位置関係に配置する必要もない. たとえば,図書の外部に設置されたリーダによって内部に貼付されたICタグのデータを読み取ることができる. ただし,電磁波には指向性があるため,両者の向き関係によって感度の差が生じる. 従って実際のシステムを設計する際には,ICタグの向きにある程度の制約を設けたり,複数のアンテナを配置するなどの手段をとる必要がある.
アンチコリジョンと呼ばれる技術を用いることにより,リーダ/ライタの近くに位置する複数のICタグを全て読み取ることができる. ただし,ICタグ同士の位置関係によっては感度が著しく低下することが発生するため,それを避けるためのシステム運用上の工夫などが必要である.
ICチップ内のメモリへの書き込みの可否に応じてICタグはRO (Read Only),WORM (Write Once Read Many),RW (Read Write)の3つのタイプに分かれる. 日本の図書館用途では,基本的にRWタイプのICタグが利用されている. 一方米国では,WORMタイプのICタグが多く用いられている. WORMタイプの書き込み方式には,接点を用いるものと,読み出しと同様に接触なしで行うものがある. たとえば米国のConnecticut大学図書館[16]では前者を用いている.
電波は公共財であり,どの周波数帯をどの目的で用いるかは国により異なる. ICタグシステムで用いられる周波数は,いわゆるISM (Industry, Science, Medical)呼ばれるいくつかの周波数帯に属している. これは工業,科学,医学用として自由に使用してよいという周波数帯である. 図書館用途を含め,現在ICタグにおいて最も広く用いられている周波数帯は13.56MHzである. そのほか,2.45GHzや900MHz帯が最近注目されている. 一般に周波数が高いほど,アンテナサイズを小さくできる. 図書への貼付用途には,サイズに関しては2.45GHzタグが有利であるが,水分の影響を受けやすいなどの特性があるため,総合的評価として最も優れているとはいえない. そのような事情などもあり,現在近距離の識別用途に最も用いられているのは13.56MHzタグである. 以下,図書館用途のICタグとして13.56MHzのものを仮定して議論を進める.
図書に貼付するためのICタグの形態としては,ラベル型ないしは磁気タグと同様なテープ型が考えられる. セキュリティ用途として用いることを考えるとテープ型が望ましいが,アンテナの開口面積が小さくなってしまうため,十分な感度が得られない. 通常,名刺サイズや名刺の短辺の長さの正方形くらいのハーフサイズのタグが用いられる. 図書以外の貼付対象としてビデオテープ (VHS)やCD・DVDがある. ビデオテープに貼付するためにテープの幅・高さと同じ程度のサイズのICタグが開発されている. CD・DVDに貼付するために,ハブ穴に相当する中央部分を開けた円形状のICタグが開発されている. しかし,このタイプのICタグは,2枚を重ねて収納するCD・DVDケースの場合,それぞれに貼付されたICタグ同士が干渉しあい,感度が低下する現象が起こる. そのため,豪州シドニー郊外にあるBaulkham Hills図書館[13]のように通常のICタグをケースの内側に貼付する図書館もある.
ICタグを用いることにより,迅速な貸出・返却処理が可能となる. 通常用いられているバーコードと比較して,ICタグの読み取り作業は数倍程度高速化される. その1つの理由は位置決めの容易さにある. バーコードを読み取るためには,リーダをバーコードの向きに合わせて構え,読み取りの合図音を待つという動作が必要である. 九州大学附属図書館の場合のように,バーコードを表紙裏などの図書内部に貼付している図書館では,表紙を開けるという作業が更に加わる. ICタグのリーダによる読み取りは,図書をリーダ近くにかざすだけで読み取りが行われる.
更に,ICタグの場合は,上述したようにアンチコリジョン機能を利用した複数冊の同時処理が可能である. そのため,4〜5冊の処理が1秒以内で完了できる. バーコードの場合は1冊ずつの順次処理にならざるを得ない.
図書館にとってコスト削減効果が大きいのは,自動貸出機 (Self Checkout Machine)の導入である. 従来のバーコードに対しても自動貸出機は存在する. しかし,ICタグによる自動貸出機は,位置決めが容易であること,そして複数冊の同時処理が可能であることにより,自動貸出機の使い勝手が大幅に向上できる. そのため,公共図書館のように機械の操作に不慣れな利用者が多く存在する図書館においては特に,ICタグ導入のメリットが大きい. 米国の図書館の例によると,自動貸出機の導入により,貸出の約30〜40%程度が自動貸出機によって処理されるようになり,その結果貸出カウンターの担当スタッフの数を半分にできたそうである. 削減できた貸出業務の負担分をレファレンスや教育・指導などの利用者対応業務の充実に充てることができる.
原理的には自動貸出機を自動返却機としても用いることが可能である. しかし,多くの図書館において,貸出専用として用いている. その理由としては,返却作業は図書館員の手で行いたいということが大きいものと考えられる. 返却時にその図書の状態をチェックし,間違いなく配架するためには,スタッフの手元に確実に返却できることが望ましい. 万が一きちんと返却処理されていない図書が利用者の手によって開架書庫に返却されてしまうならば,予約本の処理が適切に行えないなど,誤配架が多く発生してしまうなどの問題が生じるであろう.
このように見てくるとICタグはバーコードに対して絶対的な優位にあるように見える. しかし,バーコードが優れている点もいくつか存在する. 最大の利点はバーコード作成にかかるコストが極めて低いことである. 現在ICタグが1枚あたり約100円程度するのに対してバーコードは数円程度で作成可能である. 貼付コストまで考慮するならば,数十倍の差とはならないとはいえ,このコスト差は図書館にとって無視できない. また,現在のところ,ICタグの標準化は完全には固まっておらず,ある図書館のICタグ貼付図書が他の図書館のICタグシステムで処理できないことが起こる. それと比較して,歴史が長く,標準化の進んだバーコードの場合,相互貸借などへの対応が容易であるとの大きな利点がある.
蔵書点検はICタグ導入によって大きな効率化を図ることができる業務である. バーコード貼付の場合は,1冊ずつ書架から引き出し,それにリーダを当てて処理することになる. ICタグの場合は,配架された状態のまま,本の背にリーダを当てて読み取ることができる. 読み取りのために必要な作業手間を見積もると,おそらく数十倍の差が生じる. 実際には,単に読み取るだけではなく,図書の状況をチェックしつつ点検を行う図書館もあるため,そのような状況を考慮すると,数十倍ということはないにしても,おそらく10倍近くの差は生じるものと考えられる. これだけの差があると,例えば,蔵書点検に1週間から2週間かかっていた図書館では,1日程度で終了することになり,閉館日を少なくできる点からもICタグ導入は極めて有効である.
退館の際,ゲート状のリーダがICタグのデータを読み取り,持ち出されつつある図書が貸出処理が終了しているものかどうかをチェックすることにより,セキュリティ機能を実現することができる. ここでの問題は,未処理の図書を確実に検出できるかということにある. 1つの問題は検出距離の問題がある,貸出・返却などの処理はリーダ/ライタの近距離まで図書を近づけて処理すれば良い. しかし,ゲートの場合は,たとえば車椅子が楽に通行できるゲート間距離の確保が必要となる. 感度を十分確保するためにはゲート幅が狭い方が有利であるため,図書館としてはセキュリティと利用者の利便性との双方を十分考慮した上で,妥当なゲート幅を決めなければならない.
以上,従来のバーコードによる蔵書管理とICタグによる蔵書管理の違いについて議論してきた. いずれは,ICタグに関しても標準が確立し,相互運用が完全に可能になり,現在のバーコードの役割を完全に代替できるようになるであろうが,当面は,ICタグの利用と並行してバーコードによる処理も可能であるようにしておく必要がある.
近年流通の効率化や食の安全のためのトレーサビリティ確保のためにICタグの利用は大きな注目を集めている. それらの用途の中で,図書館への適用には,タグに対する要求にいくつかの違いがある. たとえば,
タグが不良化した場合,その上に新規のタグを重ねて貼付することはできない. 重ねて貼付することにより,古いタグが新規タグの性能に何らかの悪影響を及ぼす恐れが大きい. バーコードの場合は古いラベルを光学的にさえぎるだけでよく,重ねることによる悪影響は起こらない.
不良化したタグに対しては,それをはがし,改めて新規タグを貼付するか,別の場所に新規のタグを貼付するかのいずれかとなる. 前者の場合は,よほどうまくはがさない限り,はがし痕が残る. その上に新規のタグを貼付することにより,外見上は元のように回復することができる. しかし,この方法を何度も繰り返すならば用紙に穴が開くなどの損傷が起こることが予想される. 後者の場合は,はがす手間が省け,またタグ性能上の問題も少ない. しかし,複数ものタグラベルが並立することになり,見栄えが悪くなる.
このような理由により,理想的には,通常は図書にしっかりと貼付されているが,張り替え作業時には,特殊な方法を用いることによって,はがし痕がなく,しかも容易にはがせるような特殊なのりの開発が望まれる.
図3−1.筑紫分館のタグ
図3−2は図書に貼られたタグの様子を示したものである. 通常の貸出・返却のためには,中央に貼付するのが見栄えの上から望ましい. しかし,筑紫分館の場合,蔵書点検の際,本の背にハンディリーダを当ててデータを読み取ることを考慮し,その場合にも十分な性能が出せるよう,縦長で背寄りに貼付している. 近い将来,リーダの性能が上がり,このような配慮をしなくても十分な読み取りができるようになるものと期待したい.
図3−2.図書への貼付
図3−3.防犯ゲート
従来日本の多くの図書館では,磁気タグによる防犯システムが採用されてきた. RFIDタグの場合は電波を利用するため磁気と比べてシールドが容易であるという原理的な問題点がある. しかし,実際の運用状況において,防犯機能として性能上どういう違いがあるのかについてはもっと綿密な検討が必要である.
磁気タグと比較したRFIDタグの優位点としては,次のようなものがある.
前者の結果,「ある本を持ち出そうとした」という指摘の代わりに「この本を持ち出そうとした」という指摘が可能となる.これは意図的に盗難を試みる者に対する大きな心理的抑制力となる. また,「こうもり傘で鳴る」と言われるように磁気タグの場合には誤検出の問題がある.頻繁に誤検出が起こると,そのたびに利用者を呼びとめ,持ち物検査を行う必要がある.その煩雑さのため,ゲートの感度を落として対処することになりかねない.そうすると本来検出すべきタグを見落としてしまう可能性が高くなってしまう. これらの事柄を考慮すると,防犯ゲートとしての性能の総合判断のためには,実際どの程度の未検出が起こっているのか,また,誤検出が起こっているのかのデータが必要である.このようなデータをいかに入手するかが1つの大きな課題である. ちなみに,筑紫分館の場合は,これまでのところ不正持ち出しの検出例が報告されていない. 考えられる理由の1つは,筑紫分館の利用者は基本的に理工系大学院の学生もしくは教員であることである. 彼らにとって必要な資料のほとんどが研究室にそろっていることもあり,無断持ち出しを試みたくなるような状況が少ないであろうことが予想される.
セキュリティは図書館にとっても重要な課題である. コストをかければかけるほどセキュリティレベルは上がっていくが,完全はありえない. そのような性格のものであることを認識すると,つまるところ図書館のポリシィとしてセキュリティにどの程度のコストをかけるかという問題になる. そのポリシィに応じて,ICタグと防犯ゲートでよいのか,磁気タグによる検出も併用するのか,防犯カメラの設置や,退館時にも利用者認証を行うのか,それでも不足ならば特別のセキュリティスタッフが退館時に持ち物検査をするのかなど,どのレベルを採用するかを図書館が決定することが重要である. 筑紫分館の場合は,そのような検討を十分に行っていなかったが,結果的にICタグによる防犯ゲートで十分であったということになる.
図3−4.カウンター用リーダ/ライタ
利用者は,まず,右手に見えるバーコードリーダ前に利用者カードを提示し,利用者IDを読み取らせる. これは附属図書館全体で,バーコードタイプの利用者カードが用いられているためである. 将来的には,利用者カードも同じ仕様のICカードにすることにより,図書の読み取りと利用者の読み取りを同時に行うよう発展することが望まれる.
利用者が認証されると,貸出図書を台の上に乗せる. 通常は4〜5冊ほど同時に処理できるが,タグとタグの位置関係などに関して偶然悪条件が重なると読み取れないことになる. そのような場合に備えて,利用者はディスプレイに表示される書名とその冊数を確認するのが望ましい. 場合によっては1冊もしくは数冊ずつで処理することで,冊数の確認が容易となる.
最後の図書を処理したら,タッチパネルの終了ボタンを押す. 貸出票が右手のプリンタから出力されると貸出処理終了となる.
図3−5.自動貸出機
従来のバーコードや磁気タグに対応した自動貸出機は実現可能である. 実際,多くの図書館に導入されている. 図書の識別をバーコードで行い,その処理と同時に磁気タグを貸出モードに変更する. そのためには,図書を自動貸出機の指定された場所に正確に位置決めしないと処理できない. したがって,自動貸出を可能とするためには,バーコードは図書の表紙面の決められた位置に貼る必要がある. また,1冊ずつの処理となる. 九州大学のように,汚損を避けるためにバーコードを図書の内部に貼付する場合,外部からバーコードを読みとることができないため自動貸出機は導入できない.
それと比較すると,RFIDを用いた自動貸出機の操作は非常に簡単である. 指定のエリア内に図書を乗せるだけで,その識別情報を読み取ることができる. とはいえ,筑紫分館の場合も当初は利用者の間にとまどいがあり,スタッフによる指導が必要であったが,2004年度半期を過ぎた時点で9割の利用者が問題なく自動貸出機を利用できるに至っている. このことが,自動貸出機の利用率が9割を超えていることに呼応しているものと考えられる.
この作業をRFIDシステムによって行う場合は,次の1つの作業のみとなる.
このように見るだけでも,作業にかかる時間の差が想像できるであろう.
図3−6.蔵書点検
しかし,RFID方式には大きな弱点がある. それは対象となる全ての図書をリーダが検出したかどうかを確認できないことである 100%確実な蔵書点検を行うためには,たとえば,バーコードの場合と同様に1冊ずつ書架から取り出し,手元のハンディリーダでデータを読み込ませるならば,1冊ずつ読み取ったことを確認できる. この場合は,バーコード面を表に出す手間が不要であることと,バーコードと比較してRFIDタグの方が高速に読み取ることができることの2つの利点により,おそらくバーコードの数倍の効率化が実現できるものと考えられる.
以上のことを考慮すると,たとえば,RFIDタグによる蔵書点検は2段構えで行うことも1つの選択肢であろう. すなわち,年に1度程度は,1冊ずつ点検する完全点検を行い,それとは別に年数回程度,背をなぞる方式による簡易点検を行う. 簡易点検の大きな目的は,蔵書の有無を確認することよりも,誤配架された図書を早期に発見することにより,実際には館内に所蔵されているにも関わらず,必要なときに見つけることのできない図書をできる限り少なくすることにある. このような組み合わせを行うことにより,比較的少ない手間で,これまで以上,品質の高いサービスを利用者に提供することができる.
その他,様々な運用上の工夫が考えられる,例えば,米国Nevada大学LasVegas校の図書館[17]では,ハンディリーダは図書の配架順序データを持つ. それを用いることにより,単に書架内に配架されているかだけではなく,並びが正しいかどうかのチェックも行う. RFID技術を利用したリーダは,電磁波の物理的性質やICタグの製造上の性能のばらつきなどの原因により,アンテナをかざしたところにある図書のデータを先に読むとは限らない. 従って,厳密な順序のチェックは不可能である. Nevada大学では,前後5冊程度の検出順序の違いは無視し,それ以上の違いを発見した場合にのみ誤配架として検出するという運用上の工夫を行っている. 実際目的の図書があるべき位置から数冊程度外れていても,利用者はほとんど問題なく見つけることができるため,1冊単位で検出できないことは運用上大きな問題ではない. これは極端な厳密さを避け,運用上の工夫によって現実的な対応を行っている優れた例である.
そのほか,金属製書架の場合は,書棚の左端の図書に貼付されたICタグが金属製の棚板に近接するため,ハンディリーダによる読み落しが起こりやすいという現象もある. Nevada大学では,この問題に関しても,左端の1冊だけは書架から半分抜き出した状態でハンディリーダをあててデータを読み取り,それを書架に戻した後,残りの分を普通にスキャンし,処理するという工夫を行っている. このような運用上の様々な工夫を更に開発することにより,かなりの問題を解決できるのでないかと考えられる.
福岡市健康づくりセンターあいれふ内のあいれふ図書室[1]において,2004年6月中旬から8月にかけて,福岡市とNTT西日本が共同でRFID技術の図書館適用の実験を実施した. 本図書室は,健康や女性・消費生活をテーマとし,それに関する図書を揃えた図書室である. 実験は,蔵書の一部,D分類の図書4500冊にICタグを貼付し,募集に応じた100名のモニターを対象として行われた. モニターは,貸出・返却の全てを自動貸出返却機を用いて行い,カウンターにおける貸出・返却処理は行わない. 返却時には,返却処理の済んだ図書を自動貸出返却機の脇に置かれたブックトラックに返却する.
この実験においては,2つの新しい試みが行われた. それらは,インターネット検索とリーダ付閲覧テーブルである. インターネット検索というのは,検索パソコンの置かれた机にリーダを設置し,その上に図書を乗せると,その書名をWebcat Plusの入力欄に自動入力することにより,その図書に関連した検索を行うというものである. この機能をベースに,OPACシステムとの連携を行うことにより,検索された図書の中にその図書館で所蔵されているものがあれば,その請求番号が表示されるシステムを構築することができる. その他にも様々な展開の可能性がある.
リーダ付閲覧テーブルは,閲覧室のテーブルの1つの下にリーダを2台設置し,閲覧のためにテーブル上に置かれた図書を識別しようというものである. あいれふ図書室では,実験を行っている旨の案内と,読み取られた図書の題名などをディスプレイに表示することによりテーブルの利用者に周知を図っている. 利用者側は,それほど意識することなく,テーブルを利用していた. 本用途は,これまで得ることの困難であった館内における図書の利用状況データを収集できる点で非常に重要であり,今後のディジタル図書館の1つの機能を示唆するものである.
同様の方法をレファレンスカウンターに適用するならば,受け付けた質問へ回答する過程で用いられたレファレンスツールに関する識別情報を自動収集できることになる. 従来,その重要性に鑑み,レファレンスに関する事例データベースを構築する試みは,九州地区大学図書館協議会によるもの,国立国会図書館によるレファレンス協同データベース実験事業などいろいろと行われてきた. しかし,そのためにはかなりの人手をかけなければならないこともあり,データを大規模に収集することには大きな困難がある. ここにRFIDなどの自動認識技術を適用することにより,自動収集できるデータは自動収集し,人手により入力されたデータと合わせて,レファレンス支援ツールを実現することは,かなり有望なアプローチではないかと考えられる.
リーダを書架に設置することにより,図書の書架への配置や取り出し状況を自動収集できる (Intelligent書架[9]). 書架ごとにコントローラを1台設置し,書棚にアンテナ部を組み込むことにより,書棚単位で,そこに配架された図書を識別できる. 将来的には,もっと詳細な位置決めが可能となろう. このようなIntelligent書架を用いると,配架状況がリアルタイムで得られる. 配架すべき書棚とは異なる書棚に図書を配架してしまうと,直ち(数十秒から1分程度)にそれを検出できる. 現在のところ,かなり高価なものであるため,図書館内の全ての書架に導入することは現実的ではない. 特に図書の利用が頻繁であり,また,利用状況の把握が有益である用途に導入し,価格の低下に伴い,設置書架を順次拡大していくのが現実的であろう. たとえば,大学図書館の場合は,教員指定図書コーナーや,もしあれば,新着図書のコーナーに設置された書架への設置が有効であると考えられる. 前者の場合は,教員が指定した図書が本当のところどの程度利用されているかが分かるため,たとえば追加購入を決定するための基礎データとして用いることができる. 逆に,ほとんど利用されない指定図書があれば,その情報を教員にフィードバックすることにより,授業の中で,その本をより多く参照するなり,利用を促すなりの対処が可能となる. 後者の場合,新着図書は通常の図書と比較して,利用される可能性が高いこと,また,図書館の利用者がどのような傾向の図書に興味をいだき,利用するかに関するデータが得られることになり,その後の選書の参考になる.
更に進めて,書架と閲覧室の間,部屋と部屋の間などにゲートを設置することによっても図書がどのように利用されているかのデータが得られる. もし,利用者カードも図書貼付ICタグと同一仕様にすることにより,利用者の識別も同時に可能となり,より一層詳細な利用動向データが得られることになる. もちろん,利用者のプライバシー保全などには十分な注意が必要である. 例えば解析に用いられる生データから直接利用者が特定できないような変換を施すなどの工夫が求められる.
一方,図書館自動化のために,自動認識技術を導入することにより,これまで得られなかったデータを自動収集することができるようになる. これが第2の効用である. たとえば,閲覧室やレファレンスカウンターのテーブルにリーダを設置することにより,その上で利用した図書を自動的にタイムスタンプ付きで記録できる. 我々は,これをLibrary Digitization by Automationと表現した.
これら両者を合わせた概念を,図書館の自動化と電子化 (Library Automation & Digitization)と表現した. この概念はディジタル図書館(ディジタル時代の図書館)を実現するための現実的なアプローチを意識したものである.
ICタグは外部から動作電力の供給を受け,電磁波により通信を行うため,スチール書架などの金属による影響を受ける. そのほか,さまざまな課題が残されている. それらの課題はある程度は,技術の進歩によって解決されるであろうが,物理的性質に由来する制約は残る. これらの課題に対しては,Nevada大学の例に見られるような運用上の工夫によって現実的解決を図らなければならない.
現在ICタグを図書館に導入するに当たっての最大の課題はコストである. コストを重視せざるを得ない結果,現在用いられているICタグはメモリを主としたものである. 将来的には低コストで,十分高い機能をもったICタグが供給されるであろう. そういうことも考慮しつつ,システム全体として順次機能向上を図るような導入計画が望まれる. たとえば,福岡県春日市民図書館においては,他の図書館とは異なり,貸出・返却のためではなく,雑誌や辞書などの禁帯出資料の館外持ち出しの検出を目的としてICタグを導入した. これは,当面のコストを抑えつつ,将来は他の用途に利用を拡大することを視野に入れた導入方式の例である.
セキュリティは図書館においても重要なテーマである. しかし,セキュリティに関して完全はありえない. どの程度の経費でどの程度のセキュリティを確保するのかを,図書館のポリシィとして決めることが重要である.
[2] 浅野正一郎(監修):非接触IC カード, RFID ガイドブック2003,シーメディア,2002.
[3] 伊賀武:ユビキタス社会実現で注目されるRFID 技術の役割, 電子技術8月号,Vol.44,No.10,日刊工業新聞社,2002.
[4] Klaus Finkenzeller著ソフト工学研究所訳:RFID ハンドブック 非接触IC カードの原理と応用 第2版, 日刊工業新聞社,2004.
[5] 九州大学附属図書館:http://www.lib.kyushu-u.ac.jp/
[6] 九州大学附属図書館筑紫分館:http://www.lib.kyushu-u.ac.jp/dep/eng/
[7] 今まど子編著:図書館学基礎資料(第5版),樹村房,2003.
[8] 社団法人日本自動認識システム協会編:これでわかったRFID,オーム社,2003.
[9] 南俊朗:ネットワーク情報社会における図書館像に関する一考察, 九州情報大学研究論集第4巻第1号,2002.
[10] 南俊朗,喜田拓也:RFID タグを利用した自動化図書館への課題と夢, 季刊文教施設09,pp.41-45, 2003.
[11] 南 俊朗:ICタグによるライブラリ・オートメーションへのアプローチ, 九州情報大学研究論集 第5巻第1号,pp.115-135, 2003.
[12] 山崎榮三郎:RFID タグのIT 図書館への応用, 情報の科学と技術 52 巻12 号,pp.609-614, 2002.
[13] Baulkham Hills Shire Council Library Services: http://www.baulkhamhills.nsw.gov.au/library/
[14] Ranganathan, S.R.:The Five Laws of Library Science, Bombay Asia Publishing House, 1963.
[15] TheFreeDictionary.com:http://encyclopedia.thefreedictionary.com/S.%20R.%20Ranganathan
[16] University of Connecticut Libraries: http://www.lib.uconn.edu/
[17] University of Nevada Las Vegas Libraries: http://www.library.unlv.edu/