三宅 滋, 新 善文, 木谷 誠
株式会社日立製作所
E-mail: yake@sdl.hitachi.co.jp, atarashi@ebina.hitachi.co.jp,
kitanim@crl.hitachi.co.jp
下條 敏男
奈良先端科学技術大学院大学 情報科学研究科
E-mail: toshio-s@dl.aist-nara.ac.jp
Shigeru Miyake, Yoshifumi Atarashi, Makoto Kitani
Hitachi, Ltd.
E-mail: yake@sdl.hitachi.co.jp, atarashi@ebina.hitachi.co.jp,
kitanim@crl.hitachi.co.jp
Toshio Shimojo
Nara Institute of Science and Technology
E-mail: toshio-s@dl.aist-nara.ac.jp
本来,これらのインターネット技術は,初期のインターネット技術に対するア プリケーションからの不満が動機となって開発が始まったものである.ところ が,インターネットは初期技術のまま発展し,それに合わせたアーキテクチャ がすでに構成されている.これらのネットワークに新しい技術を適用していく ためには,アプリケーションも含めた新しいアーキテクチャが必要である.さ らに,QoS/CoSを実現するためには,インターネットのポリシー制御が必要で あるが,現在そのような仕組みは実現されていない.
一方,インターネットアプリケーションは,メールやファイル転送の時代から World Wide Web の登場によって飛躍的に発展し,現在ではディジタルコンテ ンツに注目が集まっている.インターネットの新技術開発に取り組んだ時点で は予期されなかったサービスやコンテンツが出現しており,インターネット技 術に対する要求も多様化している.ところが,現在では,サービス単位程度の 大まかな単位でしか制御する方法がない.その理由のひとつは,アプリケーショ ンやコンテンツは無秩序で,情報の内容を人間が判断しなければならず,機械 化が難しいと考えられていたことにある.
それを解決し,コンテンツの世界に構造を持ち込んだのがメタデータである. メタデータは,情報の内容を記述することで情報発見を容易にすることを目的 とする技術である.同時に,情報の構造化を実現し,コンテンツを機械で効率 的に扱うことを可能にする.メタデータには内容に関連する情報として,デー タの形式,エンコード方法や性質,作成者などの情報が記述されており,これ らは,ネットワークのきめ細かい制御を行うにあたって必要な情報となる.例 えば,途切れずに送りたい音声データをWebで配信する場合,従来のサービス 単位のインターネット制御であれば,Webを利用する限り,テキストデータと 区別する方法がないが,メタデータには音声データであることが記述されてい る.このメタデータ情報をネットワーク制御に伝達できれば,音声とテキスト データの区別が行われるため,音声は優先させ,テキスト情報は多少遅れても 確実に転送する,などの制御が可能となる.
このように,ネットワークの制御にはアプリケーションやコンテンツからの情 報が不可欠であるが,現在はこの情報を伝達するしくみが存在しない.本稿で は,この情報としてメタデータを利用し,メタデータを利用したインターネッ トアーキテクチャを提案し,その応用を考察する.
メタデータをインターネット制御に応用する利点は次の通りである.まず,ユー ザやアプリケーションがもつ転送への要求を,インターネットに伝えることが 可能となることで,ユーザが要求するきめ細かな制御を行うことができる.次 に,同一サービスによる通信においても,コンテンツやデータによって優先度 を変えることができる.つまり,同じWebサービスを利用して,テキストと音 声とで優先度を変えることも可能となる.さらに,これまでネットワーク制御 はネットワーク機能の中で行っていたため,管理者の違うネットワーク間で協 調して同じような品質を保証する転送を行うのは困難で,このためには高性能 のネットワーク機器とスキルの高い管理者が必要であった.メタデータを扱う コンテンツ,アプリケーションの世界では,ネットワークの層はシームレスな 概念となって見えず,アプリケーションでの要求は一致することが容易である. そこで,通信するアプリケーションからの要求を,互いのネットワークに対し て伝達すれば,違うネットワーク間で同様の品質保証を実現することが可能と なる.
本稿では,まず次世代インターネット技術としてIPv6による新しい可能性と, 品質保証による新しいインターネットの概念をまとめる.次にメタデータによ るネットワーク制御のアーキテクチャを提案し,
アドレス空間が増えたことで,まずは接続できる可能性のあるネットワーク機 器が爆発的に増加した.最近では,モバイル機器や家電などにインターネット を接続する実験が行われている.また,アドレス不足のためローカルアドレス を使用していた機器がすべてグローバルアドレスを持つと,P2P (Point-to-Point)と呼ばれる直接通信をしようしたアプリケーションの増加も 予想される.IPv6の実用化で,インターネットのアーキテクチャが変わりつつ ある.
各クラスごとに,バッファや帯域の割り当てなどがあらかじめ決められており, 個々のアプリケーションの流れを集約したクラスに対して,QoSを制御する. これらのクラスは,IPパケットのヘッダに書き込まれ,ルータなどのネットワー ク機器は,これに沿って転送を制御,区別する.
Diffservの簡単な仕組みは以上であるが,ここで問題となるのはクラスをどう 決めるかである.IETF (Internet Engineering Task Force) [4] では,これ まではこの点については議論されていなかったが,先日,ガイドラインの提案 がなされた[5].まだ議論中であるが,サービス単位でのガイドラインは規定 される方向に動いている.しかし,これはあくまでもサービス単位であって, 先に述べたような,アプリーケーションからの細かい制御の要求ができるわけ ではない.そこで,メタデータによるネットワーク制御のアーキテクチャを提 案する.
ネットワーク利用者としては,必要な情報が必要な時に入手できる,つまり, 情報の検索機能と十分な帯域と制御されたネットワークが必要となる.これに はまず,検索が効率よく行えるようにコンテンツ,リソースのメタデータが記 述されていることが必要である.また,このような要求は同時に,ネットワー ク制御にも伝えられる必要がある.なぜなら,どのように転送するかという細 かい要求は,利用者でなければ指定できなからである.しかし,利用するたび に意識して要求することは不可能なため,データ形式や優先度に関する情報を 自動的に選択する機能が必要であり,また,これらをネットワークに伝えるた めのアプリケーションインタフェースも検討しなければならない.
ネットワーク管理者からは,数多くのネットワーク機器を一括で管理したいと いう要求がある.また,接続されているネットワークの状況を確認したり,管 理することも必要である.現在,ネットワーク接続図からネットワーク設定を 行うには熟練した技術が必要であり,接続図には互換性もない.再利用と互換 性に対する要求は強く,近年,このような接続図をXMLに変換するツールが開 発される動きもある.またネットワーク機器が出力する管理用のデータを収集 し接続図や状態を表すネットワーク管理ツールは多く開発されているが,これ らは独自フォーマットであり,今後XMLなどで管理することを考えた場合には 変換していく必要がある.これらのネットワーク管理機能の簡易化,明確化を 実現するために必要となるのは,データ管理のためのデータベースであり,表 現形式としては,XMLが上がっている.すると,データモデルとしてメタデー タとRDFの概念が必要となり,アーキテクチャとして取り入れていく必要があ る.
さらに,ユーザからもネットワーク管理者からも必要な機能として,運用と転 送のポリシーの管理がある.特に,品質保証や優先制御を行う場合,ポリシー を決定しそれをネットワーク制御に応用する仕組みは重要である.ネットワー ク層におけるポリシーの定義に関しては,DTMF [6] 等で議論されているが, コンテンツまで意識したモデルではないため,十分でない.
我々が提案するメタデータによるネットワーク制御のアーキテクチャを図1 に 示す.リソースはメタデータをもち,Dublin Core におけるFormatなどにあた る,データ形式などをネットワーク制御機能に伝える.ネットワーク管理機構 は,音声データなど他のデータと区別して転送する場合には,その情報を得て, 必要であれば機器の設定変更を行うかを決定する.その際は,ポリシーの情報, つまり設定変更が可能かどうか,との連携が重要である.これらの情報をもと に,XMLを使用して,ネットワーク機器を設定する.ネットワーク機器は,現 状ではバックボーンを支える大型のルータを想定しているが,いずれSOHOルー タやモバイル機器なども対象になると考えている.ルータなどが出力するネッ トワーク管理情報は,SNMP (Simple Network Management Protocol)などを用 いて収集される.これらもXMLで管理できれば、ポリシー情報へのフィードバッ クも可能になる.
図1. メタデータによるネットワーク制御のアーキテクチャ
まず,これまでは転送のポリシーはネットワーク層で判断されてきたが,メタ ユーザやアプリケーションがもつ転送への要求を,メタデータを使って,イン ターネットに伝えることによって,ユーザが要求するきめ細かな制御を行うこ とができる.
次に,同一サービスによる通信においても,コンテンツやデータによって優先 度を変えることができる.つまり,同じWebサービスを利用して,テキストと 音声とで優先度を変えることも可能となる.これに関しては,シミュレーショ ンと実験を行った.用意された帯域(10Mbps)以上のデータ(100Mbps)を流した 場合,メタデータを持たない1Mbpsの通信は輻輳し,(図2),メタデータで優先 度を指定した1Mbps通信は問題なく転送される(図3)ことが確認された.
図2. メタデータによる優先制御を行わない通信
図3. メタデータによる優先制御を行った通信
さらに,これまでネットワーク制御はネットワーク機能の中で行っていたため, 管理者の違うネットワーク間で協調して同じような品質を保証する転送を行う のは困難で,このためには高性能のネットワーク機器とスキルの高い管理者が 必要であった.メタデータを扱うコンテンツ,アプリケーションの世界では, ネットワークの層はシームレスな概念となって見えず,アプリケーションでの 要求は一致することが容易である.そこで,通信するアプリケーションからの 要求を,互いのネットワークに対して伝達すれば,違うネットワーク間で同様 の品質保証を実現することが可能となる.
[2] 小島 稔, 三宅 滋, 平島陽子: "ポリシーベースによるQoS制御", オーム社, Sep., 2001.
[3] S. Blake, D. Black, M. Carlson, E. Davies, Z. Wang, W. Weiss: "An Architecture for Differentiated Services", RFC2475, IETF, Dec., 1998.
[4] Internet Engineering Task Force, (http://www.ietf.org/)
[5] Fred Baker: "Recommended Packet Marking Policy", Internet- Draft, IETF, July, 2002.
[6] DMTF: Distributed Management Task Force, (http://www.dmtf.org/)