キーワード: XML 地理情報 配信システム XSLT
Keywords: XML Geographic Information delivery system XSLT
地図の情報は、公共性の高さから見てインフラに相応しい基盤情報であり、このような課 題に適していると考えている。我々は、このような観点から、情報流通の促進を支援する Webサーバー・クライアント・システムを検討し、開発するものである。
図1.XMLによるオンデマンド地図
図1は、画像データと地理的な情報を蓄積したテキストの専門データベースがそれぞれ分 散しており、利用者が扱うデータを合わせて再構築し、新たな地図コンテンツとして配信す ることを可能にするオンデマンド地図の概念図である。 このようなニーズについては、例えば次のような需要があると考える。 現状のWWW上で地図を配信するサービスの中に、地図コンテンツ提供し、利用者の個人情 報を登録し、配信できるようにするものがある。しかし、顧客情報などの機密情報を、ある 特定の人だけが閲覧でき、地図管理者側に、その情報を登録したくない場合、利用者と地図 管理者とで別々に情報を管理する必要が生じる。また、必要な地図の情報量も利用者にとっ て様々であろう。そこで、地図情報の提供者とその利用者間で、分散した地図情報から、利 用に適した必要な情報モデルを容易に組み合わせ、XMLベースの情報モデルの交換を行い、 先のオンデマンド地図を作成して利用する。この場合、提供者側で示す情報モデルが利用者 側で利用可能かが判ればよいことになるので、利用者の機密にしたいデータを提供者に登録 する必要は無くなる。 本研究では、このようなXMLを用い地理情報の蓄積と多様な利用者要求に応える効率的な 地理情報配信システムを構築するのが目的である。
(1) 標準化された情報モデルの流通による相互利用の促進を支援する
(2) 地理情報モデルに対する多様な可視化要求に対応する
(3) 情報モデルの柔軟な変換に対応する
(1) では、情報流通において地理空間データが複数存在する前提の上で、流通を促進すると いう観点より、サーバが管理する情報資源から配信可能なXML規格の地理情報モデルの構造 定義を管理する機能を設計する。このため、構造を定義するDTDをスキーマに登録する。
(2) では、利用者の可視化の要求には、2次元の他、3次元で見たいというものもありえる。 このような要求に対して、管理しているXMLの地理情報モデルから、HTML形式の他、VRML (Virtual Reality Modeling Language)等の利用者要求に対応した書式に変換して配信す る機能を設計する。
(3) では、標準化された情報モデルを利用し、別の標準化モデルへと変換する作業、様々な 標準モデルを横断的に利用する場合に必要となる。このような情報モデルの柔軟な加工に、 XSLT(XSL Transformations)を用いる。システムが管理する情報資源において、変換規 則の拡張を行える機能を設計する。
図2.構築したシステムのデータベースの構造
図2は、先の目標に照らして設計した地理情報配信システムの概念図である。クライアン トに配信されるデータ表現は、本システムが管理するXMLデータとXML-DTDとStyleSheet で決定される。 このデータベースの構造は、データ資源として標高や画像とそのメタデータを登録した地 図情報スキーマと、構造とスタイルを管理するスキーマとして定義したリポジトリ資源から なる。リポジトリ資源が管理する情報は、XML情報モデルの構造を規定するDTDを管理する DTD管理スキーマと、多様な可視化要求に応えるためのXSLTの所在情報を管理するXSLT管 理スキーマからなる。これにより、DTD管理スキーマに登録されたDTDにより、情報モデル を認識するための妥当性を検証する手段を持ち、XSLT管理スキーマに登録されたXSTLファ イルから、利用者の要求に応じた変換規則を適用する手段を提供することが可能となる。 また、この管理機構は、データベース側に向く矢印が示すように、クライアントが提供す る構造定義と構造変換規則を登録することで、配信可能な情報モデルの数を容易に増大させ ることが可能となる。
図3に示すように、本システムの地図情報スキーマは、地形図情報と公共施設情報からな る。
図3.RDBMS上で管理する地図情報スキーマ
地形図データは、標高値から生成した地図画像と標高情報である。地図画像は、2次メッ シュコード単位に、標高データと海岸線データをもとに地形図画像生成プログラムを作成し、 出力したものである。地図画像は、標高データを元に高さ別に色分けしたものである。海岸 線データは、標高データのみでは復元できない海岸線と主要な湖沼線を補正している。デー タベースには、総数1764図葉分を登録してある。標高データには、数値地図情報の50mメ ッシュ(計188,680,000点)だけでなく、それを元に生成した100mメッシュ(計47,170,000 点)を登録した。この中から、図郭ごとに50mメッシュなら4万点、100mメッシュなら1 万点のデータを利用者の要求に応じて配信する。
図4.システム構成
OSにLinuxを採用したサーバマシンには、Apache 1.3.12をWebサーバとして稼動させて いる。これにサーバサイドスクリプトのPHP(Hypertext Preprocessor)4.0.3を DSO(Dynamic Shared Object)モジュールとしてインストールした。DSOは、必要なモジュ ールを実行時にリンクするので、メモリ消費や、CGIに比べプロセスの起動・終了に関する 負荷がかからない等の利点がある。また、PHPには、変換規則を適用するためのXSLTプロ セッサとしてSablotron0.44を組み込んでいる。
また、RDBMSには、PostgreSQL7.0.2をインストールして使用している。Webサーバ 内で登録されているPHPスクリプト言語で記述されたSQL操作命令により、データベー スの各スキーマからデータを取得する。取得したデータは、PHPのスクリプトにより、本 システムで定義したXMLの構造を持つ。
配信例として、図5に示すような、データ交換、コンテンツの配信(2次元、3次元)に ついて検討し作成したコンテンツを示す。
図5.システムの出力例
受信側のシステムで再利用したい場合等には、データ交換を目的とするXML形式のデータ を配信する。この場合、その交換データとしてG-XML形式の出力を想定した。G-XMLの仕様 は、G-XML実用化連絡会で第1版(2000年5月)が公開されている。 また、一般の利用者を想定した場合、HTML形式で配信され、ブラウザで直ぐに閲覧でき た方が実用的である。このように利用者が2次元の地図を要求した場合、地図情報スキーマ からの地形図画像と、スタイル管理スキーマからXSLTとスタイルを定義するCSSとHTML が記述された情報を使用し、サーバ側でHTML形式に変換した2次元地図を配信する。地形 モデルを3次元で閲覧したい場合には、VRML形式の配信要求を指定することで、この形式 で配信される。 このようなさまざまな可視化を行うためのコンテンツ例として、2次元と3次元の同様の 機能を持った公共施設検索地図を作成した。図5では、この公共施設の位置を示した記号部 分に、その施設名をキーワードとする検索サイトへのリンクが張られているので、それをク リックし、さらにその情報について調べることができるコンテンツとなっている。 配信を制御するPHP側では、単純にXMLとXSLTのファイルを指定するのみの処理である ので、変換規則を適用させる個所の処理構造は単純である。このように、本システムでは、 すべての変換規則は、XMLに対して適用している。
情報モデルをどのように捉えるかにより、標準とされる情報モデルは複数存在する。この ためどの分野へも、それに合わせた適切な情報を配信する機能が必要となる。本システムは、 標準モデル間の横断的な利用が可能である。 本研究で行った、地理情報モデルの標準化動向を踏まえ、XMLをベースとする地理情報モ デルを検討し、DTDとXSLTをリポジトリ資源とするこの方式は、配信システムに有効な機 能を提供するであろう。
[2] 空間情報工学 村井俊治 社団法人 日本測量協会 1999.4
[3] G-XMLの概要 財団法人 データベース振興センター 2000.5
[4] http://www.gingerall.com/charlie-bin/get/webGA/act/sablot_man.act
[5] http://www.w3.org/XML/
[6] http://www.w3.org/TR/xslt
国土地理院 数値地図25000(地名・公共施設) 2000 国土地理院 数値地図50mメッシュ(標高) 日本−I 1999 国土地理院 数値地図50mメッシュ(標高) 日本−II 1997 国土地理院 数値地図50mメッシュ(標高) 日本−III 1997 国土地理院 数値地図25000(行政界・海岸線) 1997