NII構想はあらゆる情報資源を,全ての国民が人々が,どのような型体でも,いつ でも,自由に利用可能にしようとする壮大な試みである.ここで対象としている情 報資源とは,図書館に所蔵されている資料はもとより,データベース,画像,テキ スト,データベース,音声,そして美術館,博物館のコレクションをも含むという という幅広いものである。これら各種の情報資源を有効的に利用可能にするために は色々な情報機器,装置が必要である。これらには,これまでなかったような機器 ,Dr.Toni Bearman 1)によればYNI(You name it:あなたが名前をつけた)装置が 次々と現われてくる。そして,これらの機器を有機的に結びつけていくために,デ ータの標準化,コード化がますます必要とされてくる。
このような計画の実現のためにNII大統領諮問委員会が,産業界,労働界,学界, 図書館界,マスコミ,地方自治体,教育界などの幅広い国民階層からのメンバーを 集めて形成されている。
現在,HPCCはNIIを実現するための技術的基盤として位置付けられている。そして, 国家規模で挑戦する応用分野(National Challenge Application Areas)として,国民 生活の 社会基盤,ディジタル図書館,生涯教育,エネルギー管理,環境,ヘルスケア,製造 プロセス,国家安全保障,官庁情報への一般からのアクセスなどが示されている。2)
NLMはHPCC計画における医療分野の情報伝達と情報処理の研究開発計画を開始し ている。1994年度に助成されたプロジェクトの一例を次に示す。
1964年から始められた医学文献分析検索システムMEDLARS計画での医学文献デー タベースMEDLINEを軸に40種以上のデータベースを作成し,オンライン・ネットワ ークには75,000の機関・個人が接続されている。NLMオンライン・サービスの利用は ,データベースの種類の豊富さ,利用登録者の増加,そしてGrateful Medのような ユーザー・フレンドリーな検索ソフトの出現などによって,年々増え続け,1992 年度は,オンライン検索は年間529万回,オフライン出力が27万回と驚異的な数字 を示している。
このような活発な医学情報活動を支えるために,NLMは1983年に医科大学内におけ る情報資源マネージメントの考え方による学術情報システムの構築の提案を行った 。この計画は当初,Integrated Academic Information Management System, 略称IAIMS (統合型学術情報マネージメント・システム)と呼ばれたが,現在はIntegrated Advanced Information Management Systemと発展している。3)
IAIMSは,医科大学における4つの機能,すなわち教育,研究,診療,そして組織 の管理・運営の各場面で生産されている,各種の情報,データベース,ファイルを それぞれの場で有効に利用,活用するための学内ネットワークを構築することを目 的としている。そして,このIAIMS計画の中心に図書館を位置付けたことが特長と なっている。これによって,利用者は内外のデータベース,ファイル,各種の機能 に容易にアクセス可能となるのである。4)
1983年以来,NLMは17の機関にIAIMS構築のための助成を行ってきた。そして, HPCC計画の出現にともなって,情報資源マネージメントが複雑さを増したにもかか わらず,IAIMSの目標とする学内の情報流通の可能性が強化されている。
NLMはNIIの実現の一歩として,IAIMS助成とは別にNational Science Foundation(NSF) と共同で,医療機関でのInternet導入促進のための助成を始めている。これにより1993 年度には16の大学及び病院が助成金を得て,1994年度には8,500万ドルの予算が予定 されている。
World Wide Wide(WWW)サーバを通じては,NLMのサービス概要を提供し (http://www.nlm.nih.gov/),またNLM内にある国立バイオテクノロジー情報センタ ーで編集される世界最大の遺伝子情報データバンクであるGenBankにもアクセス できる(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/).既存のオンライン・データベース, MEDLINE(医学文献全般),TOXLINE(毒性情報),そして文献複写依頼サービスDOCLINE についてはGopherサーバによりアクセス可能となっている。これらのサービス は有料であるが,AIDS関連のデータベースについては,その公共性から,今年か ら無料で開放することとなった。国の情報機関のこのような方針は情報関係者か らは拍手をもって迎えられている。6)
FTPサーバによれば,NLMの配布している各種の出版物,ソフトウェアが入手でき る(nlmpubs.nlm.nih.gov)。出版物としては,NLMファクトシート,主題書誌,AIDS情 報などがある。インターネットによるこのような情報提供は印刷物をより減少させ ていこうとする政府機関の意図であろう。
NLMのLocatorは,メニュー方式でNLMの所蔵資料の情報を提供している。アクセスで きるファイルは,医学分野のオンライン目録であるCATLINE,視聴覚資料目録 AVLINE,そして雑誌情報ファイルSERLINEである(telnetでlocator.nlm.nih.govで 接続し,locatorとログイン)。
このような各種の方法でNLMのファイル,データベースにアクセスができるように なり,これらのサービスを支援するためのヘルプデスクも設けられ,電子メールで 問い合わせが可能となっている(例えば,レファレンス・デスクはref@nlm,nlm.gov)。 この方式の採用によって,これまでの郵便による2倍以上の数のレファレンス質問が 電子メールで寄せられている.
また,この横には「マルチメディア教材センター」も設けられた。医学教育におて は画像,音声を取り入れた教育資材が非常に重要視され,その媒体としてこれまでビ デオテープが使われてきたが,近年,マルチメディア教材の開発が進み,数多くの 新しい媒体の商品が市場に現れ,これらが教室において活発に使われるようになっ た。これに対応して医学図書館のLearning Resource Centerにおいてもこれらを収 集し,利用可能にする必要にせまられている。このような新しい教育ソフトウェア はその評価がなかなか難しいが,このように教材を一同に集め,図書館員がそれを 実際に使ってみることによって,評価を下すことが可能となる。
医学教育におけるマルチメディアの利用についてのワークショップが本年6月にユ タ州Salt Lake Cityのユタ大学で開かれている。ユタ大学では従来,”Slice of Life” と呼ばれる人間の解剖画像ビデオディスクを作成している。これを材料とし て作られたマルチメディア教材をネットワーク環境下で利用する試みや,Internet での電子会議などがこの研究会で発表された。このワークショップの開催はユタ大 学の医学図書館と,教育資源開発センター,医学教育センターの協力で実現したこ とは注目に値する。
NLMは米国内の医学図書館におけるInternetの導入状況調査を1993年秋に実施して いる.7)NLMのネットワーク(National Network of Libraries of Medicine:NN/LM) の全参加館4,037館にアンケートを送り,3,331館(83%)から有効回答を得た (表1)。 これによると,大学医学図書館は全回答館の16%ではあるが,実に72%が Internetを既に導入している。館数の64%を占める病院図書館ではInternetの利用は 24%にしかすぎない。全体として34%の図書館がInternetにアクセスしている。一 方,親機関のInternetの導状 況は,大学で66%,病院で16%になっており,図書館の方がいずれも高率である。ま た,将来については,10%前後の機関が導入を計画している。いずれにしても,近 年,Internetへのアクセスの可能な機関は急速に増大している。
また,この調査ではどのようなサービスにInternetを利用しているかを尋ねている。 多くの図書館では,まだ手探りの段階で,最も多い利用形態は電子メールでの回答 (1,105館)の81%であった。そして,次にTelnetによって,外部のデータベースに アクセスする(63%)であり,FTP,Gopherを利用する図書館は半分以下であった。WWW, Mosaicとなると200館以下である。
MLA大会においても,”Internetの図書館サービスへのインパクト”と題する分科 会が設けられ,6つの演題が発表された.ピッツバーグ大学からはレファレンスラ イブラリアンのInternetの利用状況の小規模調査(1994年1月実施)が報告された .これによると,98%の図書館員が電子メールにInternetを利用しているが,FTP, WAIS, Mosaicなどとなると利用は半数以下で,まだ使いにくいと述べている .Gopherが誕生したミネソタ大学では,Internetを利用した図書館へのレファレン ス質問,複写依頼,相互貸借の申込,検索についてにの質問,貸出図書の期間延長 などのサービスができるソフトウエアを用意して学内で利用している.ミシガン大 学では,教職員,学生に対してInternet教室を開催して,その利用者教育の評価を 行っている.
いずれの発表者からも,大学内におけるネットワークが非常に複雑に入り組んでい ること,Internetへのアクセス方法が機種により,ソフトウエアにより,そして 対象となるファイルによって千差万別であることなどから,図書館での利用者への Internet教育,あるいは図書館員のnavigator(水先案内人)としての役割が強調 された.
そして,図書館としては利用者がネットワークを容易に利用できるようにするため の具体策として,次のことが考えられる.
今後,重要となるのは各種の情報資源に対する質的評価 quality filteringであろ う8). Internet 上には誰でもが自由に自分でつっくたデータベースを搭載することが可能 である.これによって種々雑多なファイルが存在することになる.従って,図書 館,特にレファレンスサービスではこれらの質の異なるファイルに対して質的評価 をすることが必要となってくる.
この小論をまとめるにあたっては,Pittsburgh大学図書館情報学部Ellen G. Detlefsen教授から各種の最新情報が電子メールで提供され,図書館情報大学の田畑孝 一教授,杉本重雄助教授とはディジタル図書館についての有用な議論がされ,愛知 淑徳大学水野陽子君には原稿のまとめをお願いした.これらの作業は全てInternet 上で行うことができた.これはまさに,見えない共同研究室 invisible collaboratory 実現の一歩であろう.
2) U.S. Office of Science and Technology Policy, High performance computing and communications: toward a national information infrastructure 1994. 176p. 1994
3) Matheson, N.W. & Cooper, J.A.D.: Academic information in the academic health sciences center: roles of the library in the information manegement. J. Med. Educ. 57(10 pt.2): 1-93,1982. (津田良成他訳 医科大学における学術情報マネージメント.慶應義塾大学 医学情報センター,1987)
4) 野添篤毅:医学図書館と統合型学術情報システムIAIMS. 医学図書館 34(3): 190-200, 1987.
5) NLM resources available via the Internet. NLM News. 49(3): 1-2, 1994.
6) Berry, J.N.: A lesson in leadership from NLM (editorial). Libr. J. 119(3): 90, 1994.
7) Lacrox, E., et al.: Service providers and users discover the Internet. Bull. Med. Libr. Assoc. 82(4): 412-418, 1994.
8) Detlefsen, E., 野添篤毅,酒井由紀子:医学図書館員と医療情報学.あいみっ く 14(10):15-23, 1993.