中国におけるディジタル図書館の現状

鮑延明
上海図書館
〒200031　中国上海市淮海中路1555号　
Tel: 021-64455109, Fax: 021-6445-5006, E-Mail: ymbao@mail.goo.ne.jp

概要

　本論文は発展途上国である中国のディジタル図書館における研究開発について三つの角度から、中国のディジタル図書館の現状を論述することにした。即ち、1、中国における三大系統図書館（公共図書館、大学図書館、科学研究図書館）の代表的な図書館のディジタル化。２、全国規模のディジタル図書館プロジェクト。３、中国における図書館ディジタル化が存在する問題。論文はできるだけ全面的且つ系統的に中国のディジタル図書館の全貌を把握できるように論述している。

The Present Situation of China Digital Libraries

Yanming Bao
Shanghai Library
1555, Huai Hai Zhong Lu, Shanghai, 200031, CHINA
Tel: 021-64455109, Fax: 021-6445-5006, E-Mail: ymbao@mail.goo.ne.jp

Abstract

This paper will discuss the situation of China digital libraries from three angles relevant to studying and developing digital libraries in China that is a developing country. First, the libraries digitized stand for three library systems (the public, the university, the academy of sciences). Second, the national projects of digital libraries. Third, the problems of libraries digitized which exist at present in China. This paper will discuss the digital libraries in China completely and systematically.

1．はじめに

　２０世紀９０年代のインターネットの出現及び迅速な発展は情報化社会において一つ革命的な重大な出来事である。今日では、知的情報が経済の発展に非常に有益且つ重要であることがすでにだれにも認識されている。インターネットから、いろんな情報が取れて、実にビジネスや生活などに便利をもたらし、さらに情報技術や通信技術の開発によって、情報を提供する機関であるディジタル図書館の開発及び研究に拍車をかけた。

　目下、世界のどの国でも大型ディジタル図書館ができている先例がない。情報通信技術が一番発達しているアメリカでさえ、ディジタル図書館が研究や実験の段階にあり、その開発及び発展は技術、資源、知的財産権、資金などを含む多くの制約を受けざるをえない。従って、ディジタル図書館の開発、発展は世界各国がそれぞれ独自の方法で推し進められている。その中で中国のディジタル図書館ももちろんユニークな開発の道を歩んでいる。

　ディジタル図書館に対し、今のところ、はっきりした概念はまだできていないが、その説明もいろいろある。まずここで、その概念について、中国の図書館情報界でよく認められている四つの特徴を紹介する。

（１）ネットワークシステム、ディジタル化された情報資源システム、情報技術システムなどはディジタル図書館の基本要素である。

（２）ディジタル図書館は図書館自動化、ネットワーク化の高度的な発展であり、当代図書館機能の継承及び発展である。その理想的なモデルは、対象に向け分散型アクセスを支えるデータベースがあり、内容による検索ができ、ヒューマンインターフェースを持つこと。

（３）ディジタル図書館は実体であり、抽象的な概念ではない。

（４）ディジタル図書館は現代のハイテク技術を駆使するディジタル化された情報資源を支えるシステムであり、次世代のインターネット上の情報資源を管理する形式である。

　上記の認識に基づいて、全体からいえば、情報化程度が高くなく、ディジタル資源が貧乏である中国にとって、行政の指導のもとで、有限な財力を集中して、国家級のプロジェクトを推し進める方法を取るのはディジタル図書館を開発・発展するよい方法であり、基調である。

　90年代中期に世界的にインターネットが普及し始めた頃中国政府はハイテク領域で先進国に負けないために、情報高速ハイウェイ計画を立て、早々と実施した。相次いで、 CHINANET中国公衆サービス網又は電信網、 CERNET中国教育科学研究網、 CANET 中国科学技術網、 CHINAGBNET中国公用経済網の４大インターネットを開通した。これはディジタル図書館の発展の基盤を整えてくれた。とりわけCERNETはディジタル図書館、特に大学ディジタル図書館に多大な貢献をした。各々の大学LANを WANになって、ディジタル図書館の研究開発が大きな一歩を踏み出した。中国のディジタル図書館の研究開発もその頃から猛発進をした。

　本論文は中国の各系統の代表的なディジタル図書館及びディジタル図書館に欠くことができない情報資源共有化システム、代表的なディジタル図書館プロジェクトと、図書館ディジタル化に存在する問題の三つの角度から論述することにする。

2．中国の各系統の代表的なディジタル図書館

　中国の図書館情報機構は大まかに分ければ三大系統になり、それが公共図書館系統、大学図書館系統、科学院の科学技術図書館系統である。中国も日本も縦社会であり、各系統の図書館は普通互いに関係がない。もちろん経費の出所や図書館サービスの方針などの問題もあるから、ディジタル化の道も違ってくる。ここで、各系統の典型的な図書館のディジタル化について述べることにする。

2.1　中国国家級図書館ディジタル化のパターン――国家図書館

2.1.1　文献資料のディジタル化

　国家図書館のディジタル化は８０年代の図書館自動化と書誌データベースの作成に遡る。国家図書館は「国家書誌データベース」をはじめ、今まで、すでに20余りのデータベースを製作した。入力されたデータの量は130万条に達した。1998年から、中文図書コレクションを計画的にディジタル化作業に入り、同年７月にホームページで「文献検索」と「ネットで読書」の二つの欄目を開設し、インターネット上の情報資料サービスを展開した。 1999年に「文献ディジタル化センター」を正式に設立し、図書のディジタル化作業のパターンや管理に対し、実験を行い、図書のディジタル化作業を押し進めた。目下１日に１６万ページの図書をディジタル化する能力を持っている。1999年６月に、ホームページで検索できる書誌データは500万条に達し、中文図書は500万ページが閲覧できるようになった。1999年年末になると閲覧できる図書の量が3,000万ページ、１５万冊に達する見込みである。1999年の第一四半期に国家図書館ディジタル図書館実演実験システムの開発に入った。実演システムは五つのデータベース（千家詩、中国古代建築、北京故宮、海洋世界、宇宙の構造）を含み、さらに、国家書誌データベース及び大百科全書出版社の術語データベースにつながり、分散型で、各データベースを自動的に検索できるシステムである。たとえば、千家詩から「大明宮」という言葉が出て、興味があれば、クリックすると、大百科全書の術語説明も読めるし、中国古代建築データベースの画像や音声も読み聞きできる。

2.1.2　インターネットサービスの開発

　国家図書館のインターネットの開通は1995年からである。そのときマイクロ波を使って、清華大学のネットワークに接続した。1997年北京電信局の支持を得て、Chinanetと１.544 メガビットの広帯域光ケーブルで接続することを実現した。館内に２２台の端末を配置して、インターネットで、国内外のマルチメディア資料の鑑賞ができる。1998年北京電信局からIPアドレス（202.96.31.0.127）をもらって、URL（http://www.nle.goy.cn）をつくって、国家図書館は相次いで、CHINANET、CERNET 、などのインターネット回線に接続した。その年の年末に館内LANを実現し、1,673の情報点を配置し、光ファイバーで館内の20の局部ネットワークをつなぎ、全館のネットワーク化を実現した。1999年に入るとますます、インターネットに接続する通信施設の発展に力を入れ、２月に1,000メガビットの館内ネットワ－クを開通。３月に広電総局[1] ネットワークセンターが1,000メガビットの光ケーブルを国家図書館に引いた。４月に国家図書館は北京CATVネットワークセンタが引いた100M/1,000M光ファイバーを清華大学北京大学及び中国科学院のネットワークとリンクに専用する。これら大容量のネットワーク用光ケーブル回線の敷設したことによって、国家図書館のディジタル図書館事業の発展によい基盤が築かれていた。

2.1.3　国家級のディジタルプロジェクトに携わる

　国家図書館は国家級図書館の役割を果たすために、いろんなディジタル図書館プロジェクトを組織し、主役を担当した。1996年文化部を介して、上海図書館、南京図書館、中山図書館、深セン図書館、遼寧省図書館など、国内で先進的大図書館と一緒に、「中国実験型ディジタル図書館プロジェクト」（詳細は本論文のプロジェクト項目にて述べる）をやる申請を国務院に出し、翌年国家計画委員会に許可され、国家の重点プロジェクトとして、展開された。

　90年代中期、科学技術部国家「８６３」[2] プロジェクトグループは世界の先進的なディジタル図書館の開発に追跡研究をして、その戦略性と実行性を研究課題にし、『中国ディジタル図書館工事プロジェクト』を重要プロジェクトとして研究を重ね、かなり理論的な成果をあげていた。すると、1998年国家図書館は、今までいくつかのディジタル図書館プロジェクト（たとえば、上記の「中国の実験型ディジタル図書館プロジェクト」）に携わった実際の経験を生かすため、『中国ディジタル図書館工事プロジェクト』（詳細は本論文のプロジェクト項目にて述べる）の実施を申請した。実行性を見出すため、98年の年末多くの金を使い、人材を集めて、三ヶ月で、ディジタル図書館の実演のシステムを開発し、マルチメディアの運用、メタデータの検索、ネットワークの伝送などディジタル図書館で必要な演習をし、よい成果をあげた。2000年に文化部に認可され、文化部により、その工事を進める連合会議を計画し、初歩的な実験型ディジタル図書館を建てるというプロジェクトの目標を決めた。2000年4月5日、文化部の組織で、21の部、科学院、北京大学、清華大学などの機構が参加した『中国ディジタル図書館工事プロジェクト』会議は始めて国家図書館で開き、『中国ディジタル図書館工事プロジェクト』の実施を正式にスタートさせた。4 月18日国務院の許可を得て、「中国ディジタル図書館有限責任公司」（「中国ディジタル図書館公司」と略称する）を設立して、『中国ディジタル図書館工事プロジェクト』の実際経営に担当させた。公司は経済の実体であり、株式運営のハイテク企業である。その企業は国家図書館により管理されるが、運営上では独立して￡驪謔o営する。中国のディジタル図書館の建設は研究から、実質的な運営に向けて一歩を前進した。　

2.2　地域図書館ディジタル化パターン――上海図書館
http://www.libnet.sh.cn（図書館情報大学のホームページとリンクしている）

2.2.1　上海図書館の中国図書館界での位置付け、

　中国の国土は広く、一つの国家級図書館が全国の図書館活動をカバーできないため、上海図書館は20世紀の50年代から60年代前半にかけて、中国の第二国家図書館に位置付けされたことがある。90年代に入って、上海の経済が急テンポで発展し、経済や情報、通信技術の発展に適応するため、95年に上海図書館と上海情報技術研究所（日本の情報センターのようなところ）と、中国だけでなく、全世界でも稀な合併が行われた。さらに96年8 万3千平米の新館の部分開館、97年7月の全館開館によって、上海図書館は一躍世界の先進的な図書館の仲間に入った。（もし、上海図書館に興味があれば、ぜひ、筆者が、日本図書館研究会発行の『図書館界』Vol.51 No.6 March 2000に発表した文章「上海図書館のユニークな構造とサービス」をご覧ください）

2.2.2　上海図書館を中心とする地域の情報資源共有化活動

　上海地域の4大系統[3] ――公共図書館系統、科学院図書館系統、大学図書館系統、情報センター系統の協力体制は70年代から始まっていた。当初は洋書の分担収集、集中目録、最新洋書書誌などの作業を行った。90年代になると，インターネットの出現や、ネットワーク技術，通信技術の発達によって，資源共有化問題がますます重要になってくる。　1994年上海市政府を介して，上海図書館で，4大系統１９の図書館/情報所の館長/所長が会議を開き，会議中『上海地域文献情報資源協力ネットワーク条例』について検討し，意見が一致し、協力協議書に署名した。1998年には30の図書館/情報機構に増えた。1999年 5月に再び上海市政府を介して，「上海市文献情報資源共有化会議」を開き，『上海市文献資源共有化計画』を議定した。『上海市文献資源共有化計画』は次のようなことを提出した。

（１）三年間で，上海地域の４大系統図書館情報系統のネットワーク化を実現させる。

（２）同時に、「情報の共同システム」、「資料の分担収集」、「情報サービス及び人材の育成の実施」など三つの実施案を確定した。

　この情報共有化ネットワークの建設が、今年の6月に正式に試運転に入り、加入館数が 60館/所に増えた。情報共有化ネットワークはホームページを作り、ニュース、新書案内、メンバー館の紹介、OPAC検索、相互貸し出しなどの項目を設けている。利用者はどこかの加入された図書館/情報機構のカードを持てば、加入館の資料が借りられる。

2.2.3　上海ディジタル図書館

　上海図書館のディジタル図書館の開発は実体の上海図書館を基礎にし、上海地域のネットワークのサービス基盤に基づいて分散型サービスを展開し、上海市の国際地位及び上海図書館運営方針にふさわしいグローバル化という方針を取っている。

　上海図書館のネットワーク構造はATMを主幹ネットとし、IBMの設備を使って、Ether ネットとToken Ringの局部ネットを7～8個リンクするLANである。ATM主幹ネットは 155メガビットに達する。高速且つ大容量広帯域のLANが文字だけでなく、音声画像などの情報伝送も十分にニーズに答えられる。

　上海図書館ディジタルプロジェクトは先進的なディジタル化技術及びネットワーク化技術を導入し、統一したインターフェースを採用し、統一的な管理をし、当面の需要を十分に考え、情報資源の共有化に適応し、持続発展ができるようなことを目標にし、遠隔操作、迅速的、全面的、秩序的、知的、特色的の六つのサービスを実現させた。上海図書館ディジタル図書館プロジェクトは上海図書館の豊富なコレクション、特に特色があるコレクションをベースにディジタル化をし、また、利用者の角度から、文献の特徴も考え、九大項目にした。それは、上海図典、上海文典、貴重古書、音楽リクエストステーション、科学技術会議資料、中国の逐次刊行物、洋書逐次刊行物目次、民国の図書、スーパー図書館である。

　上海図書館のこれからのディジタル化発展計画としては九大項目をベースに、引き続き完全にさせると同時に、「知識のナビゲーション」サービスを目標とする。広帯域ネット、館内ネット、専用線、単独端末の四つのサービスをサービスパターンとし、館内で、印刷物閲覧室と電子閲覧室との障壁を打ち破り、「知識ナビゲーション」の情報サービス及び個性化情報サービスを強め、知的財産権及び相関の法律問題の研究を増強する。上海図書館のディジタル化の運営は原則や規則に基づき、創意を持たせ、国際協力に力を入れ、国外の資料を使い、図書館サービスを向上させることを念頭におく。また、本地域の情報共有化を完全にするため、標準の操作システムを導入し、アメリカのz39.50の情報交換基準を基にし、二次文献情報共有化網の開発に全力をあげる。そして、上海地域の中核とセンターの役割を果たせ、さらに、地域内のディジタル図書館とともに発展するよう、情報共有化ネットをディジタル図書館網に発展させるよう努力している。

2.3　大学図書館パターン――北京の清華大学図書館ディジタル化

2.3.1　ネットワークの建設

　清華大学図書館のネットワーク化事業は1991年図書館新館が落成する時点から始まった。 1994年の館内ネットワークが清華大学LANに接続したのは国内で初めてのことである。清華大学LANは教育部CERNETの全国センターである。1996年にネットワーク技術の発展により、設備の更新を行い、主幹ネットの専用線は光ファイバーにし、100メガビットの高速EtherNet交換機を採用し、400近くある端末を配置した。初めて、開放式ネットワークの情報基礎を整備した。1999年に通信技術やパソコン技術の進展及び世の中の需要に応えるために清華大学が超高速ネットを企画した。計画として、図書館を大学の三大インターネットに接続する核心の一つとし、清華大学のネットワークの主幹は8～16ギガビットの光ケーブルを使い、図書館の館内LANは1,000メガビットのEtherNet技術を採用し、 100メガビット交換機と専用線を各端末につながる。館内ネットの端末は1,200個増え、全部で1,600個になる。

2.3.2　データベースなどのディジタル情報資源サービス

　1994年に図書館は早くも中国データ―ベースと外国のデータベースを購入し又は取り入れ、LANでアクセスサービスを展開した。1998年図書館はアメリカのエンジニアリング情報社（Engineering Information Inc）と協力して、ミラーサイトを配置し、その会社の核心データベースCompendex Webを図書館に入れ、中国のEiを使う客に検索サービスを提供する。図書館はまた、CALIS（プロジェクト項目で詳説）全国文献センターとして、毎年、OCLCから１４の(Base Package)データベースへのアクセス契約を結び、国家２１１プロジェクト[4] の61の大学に検索サービスを提供する。

　清華大学図書館はインターネット上の同大学で制作するディジタル逐次刊行物サービス（ディジタル図書館保障システム項目で説明）及び海外のミラーサイトサービスを展開するほか、図書館が契約または購入したデータベースや自館で制作したいろいろなデータベースへのアクセスサービスを提供する。制作したデータベースの中で有名なのは『科学技術新刊案内（STARS）』と『中国大学学位論文（DIRS）』である。　1999年にCALISプロジェクトの一部として、データベースネットワークのアクセスシステムを更新している。新しいシステムがJava技術を使い、中国語データベースと利用者用端末の使用を支持し、全文検索や、全文にリンクすることを支持する。このシステムがこれから、全文だけでなく、マルチメディアの情報も利用できるようになる。利用者は読むためのソフトをダウンロードしなくてもオンラインで読める。

　清華大学図書館は利用者のインターネットでの文献情報の有効獲得を手伝えるため、インターネット上の情報資料を収集・整理し、ナビゲーションし、電子雑誌、参考書、会議録、特許などの項目でサービスを展開する。

2.4　中国科学院文献情報センターディジタル化パターン

2.4.1　中国科学院文献情報センター概況

　中国科学院文献情報センターは1950年に設置され、中国科学院に直属する文献情報機構であり、中国科学院図書館とも呼ばれる。中国科学院文献情報センターは北京市のハイテク・学園地域の中関村にあり、延べ床面積は17,000平方メートルである。中国科学院の図書館系統は国家級の文献情報センターと地方級の上海、成都、武漢、蘭州などの文献情報センター及び123の研究所の図書情報室からなる。中国科学院は中国の自然科学の研究センターである。長期の科学研究の実践中で、大量の重要な価値を有するコレクションを持っていた。

2.4.2　中国科学院文献情報センターディジタル化戦略

　中国科学院文献情報センターのディジタル化は中国科学院の全中国の優れた自然科学の人材をバックにし、すでにできている中央と地方の科学院図書館系統のネットワークを基礎にし、さらに、北京大学と清華大学のネットワークとリンクし、優位を保ったが、ディジタル図書館の開発にはいろいろな制約、特に資金面の制約を受けている。従って、中国科学院文献情報センターのディジタル化は順次的且つ階段的に開発していく方針をとっていた。目標は、中国科学院と中関村ハイテク・学園区域へのサービスを基幹とし、全国に向けて自然科学とハイテクを特色にする多機能、ネットワーク化、ディジタル化、総体化、開放式の科学技術ディジタル図書館とするのである。その方針に基づいて、中国科学院文献情報センターは長期間蓄積した膨大でありながら、きちんとした自然科学のデータベースを引き続き、開発して行くと同時に、情報資源共有化プロジェクトに着手することにした。即ち、ディジタル化は主に、国家図書館や清華、北京大学と協力して、ネットワーク化と資源の開発を中心とする展開である。

　文献情報共有化システムの開発をめぐって、中国科学院文献情報センターは自館の特色あるコレクション及び大勢の科学研究人材を持っている優勢を発揮し、引き続き、OPAC、西洋逐次刊行物の目次データベース、中国科学文献の引用文データベース、中国科学文献ダイジェストデータベースなどの科学文献データベースの充実を計る。また国内外の情報機構や企業と協力して、ミラーサイトを設置してディジタル資料を収集して、共有化サービスを向上させる。

3．中国のデータベース及びディジタル図書館保障システム

　ディジタル化図書館サービスは、そのディジタル化された情報資源がインターネットを通って、伝送や受信及び端末でアクセスできることが基本である。従って、中国のディジタル図書館を論述するとき、その基盤である情報資源データベースの開発、インターネットの情報資源の開発などを触れなければならない。

3.1　データベースについて、

文献データベースを作るのは図書館ネットワーク化と情報資源共有化の根本である。ディジタル情報資源は図書館の源である。図書館がもっているコレクションのディジタル化はディジタル図書館開発の基本又は基礎である。汎用で、基準化されたデータベースができてから、ディジタル図書館のサービスが実現できる。中国のデータベースを制作する道は最初の各図書館や制作会社の独自でやる体制から、次第に、規格化、標準化、協力化と発展していく道になる。

　中国では早くも80年代末からデータベースの製作が始まっていた。1991年に市場では 806個のデータベースが出回っており、1994年に1038個に増えた。その中で有名なのは国家図書館の『中国国家書誌データベース(1988年以後)』、国家図書館、上海図書館、広東省中山図書館、深セン図書館が共同で作った『中国国家遡及書誌データベース(1987~1994)』、上海図書館の『中文社会科学新聞雑誌篇名データベース』、中国科学院の『中文・洋文雑誌連合目録データベース』と『中国自然科学文献データベース(化学編、光学編、物理編、天文学編など)』、重慶維普資訊公司の『中文科学技術雑誌ダイジェストデータベース』などである。中国科学院のデータベースはネットにてサービスを展開している。

3.2　ディジタル逐次刊行物ネットワークシステムの開発

　1996年清華大学が作成した『中国学術雑誌データベース（ＣD―ＲOM）』（略語はCAJ －CD）はわが国のはじめての全文検索出来るデータベースであり、入れた学術雑誌が3,000 種類にも達した。1997年清華大学は教育部の許可を得て、正式に中国学術雑誌（CD-ROM 版）電子雑誌社を設立した。1998年9月清華大学のCAJ－CDの題録と雑誌ダイジェストデータはCENETを介して、インターネットで実験を行い、中国の逐次刊行物ネットのサービスに基礎を築いた。1999年6月に「中国ディジタル逐次刊行物ネット」サービスが開通された。「中国ディジタル逐次刊行物ネット」からCAJ－CDの情報をネットワークで伝送するだけでなく、情報資源がさらに6,600種類に拡大され、およそ、300万篇の全文検索、題録が1,000万条でアクセスサービスを展開する。そして毎年、それぞれ、全文文章が50 万篇、ダイジェストが100万項目、題録が200万条、増える。ネットワーク上の逐次刊行物データベースは126の学科に分けられ、そして、検索点及び300のミラーサイトを全国各地に配置してサービスネットワークを形成した。

3.3　ネットワーク上の文献保障システムについて

　中国国内の全国規模の情報共有化はいまもまだないが、地域や各系統内の文献資源の共有化は絶え間なく実施されて、ある程度の成果も収めた。たとえば、80年代の「全軍医学文献共有網」は20年近くの発展を経て、小型衛星通信専用線を主幹とし、地上線路を補助とするネットワークになった。1994年の「上海地域の資源共有化網」は各系統の図書館が協力して、ネットワーク検索、相互貸し出しや、分担収集などを展開した。また、1996年の「中関村地域書誌データ共有化システム」、1998年の中国科学院の「科学技術文献情報共有化システム」、中国教育部の「中国高等教育文献保障システム」などがある。その中、特に「中国高等教育文献保障システム」が非常に優れたものである。

　「中国高等教育文献保障システム」の英語名はChina Academic Library & Information System（CALISと略称）で、現在進行中のプロジェクトであり、各系統の横のつながりを持つ全国規模の情報共有化保障システムであり、中国の大学教育を促進する『211プロジェクト』の公共サービス体系の一つである。その目的はCERNETの発展にふさわしい情報資源の開発である。CALISは教育部により主管され、北京大学により責任を持って実施し、北京大学で管理センターを設立し、全国センター――地域センター――大学図書館という三つのランクの保障網で運営するわが国資源保障システムの初めての実験プロジェクトである。CALISの中身は、ネットワ－ク内の共同目録、特に大学図書館の書誌目録作業、　データベースの制作、　利用者にOPAC検索の提供、　相互貸し出し、返却するシステムである。　CALISの目標は　①　情報資源として、国内の資料が95％以上、海外出版の資料が80％、提供できる。　②　インターネットで100種類のデータベースを伝送し、100人が24時間同時アクセスできる。　③　システムが有機体になる。

4．　中国の重要なディジタル図書館プロジェクト

　中国ディジタル図書館は一館だけのディジタルプロジェクトもあるが、主に行政の指導で、できるだけ少ない金で、全国規模のディジタル化を実現することを念頭において、研究開発の課題として進んでいる。

4.1　中国の実験型ディジタル図書館プロジェクト

　中国の実験型ディジタル図書館プロジェクトは1997年国家計画委員会により許可され、国家の科学技術重点プロジェクトとして、実施された。実施期間は1997年7月～1999年 12月である。項目は２大部分から構成する。まず、ディジタル図書館の雛型を実現する技術及び世界に通用できるだけでなく、中国の国情に合い、中国全体で普及出来る技術を開発すること。続いて、次第に基準化である分散型のディジタルデータベース群を構築すること。最終の目標は多館の協力で、相互補足型の中国の実験型ディジタル図書館を作ることである。また、このプロジェクトは利用者が端末で超大容量のディジタルデータベースから迅速に検索でき、中国語、英語の表示もできるようにする。プロジェクトは文化部科学技術司の指導のもとで、国家図書館、上海図書館、深セン図書館、中山図書館、遼寧図書館、南京図書館により、協力で行う。しかし、このプロジェクトはいろんな原因で期間中完成することができないため、1999年10月にプロジェクトに参加するメンバー館が会議を開き、技術的な問題や進展の状況を検討し直し、期間を延ばすことやこれからの進展などを議定した。改定されたプロジェクトの進行計画は次のようである。

　1999年年末に資源データベースの分担制作部分を決め、2000年から、専門人材の育成をスタートさせ、参加館の間のネットワーク化を実現させ、7月から試運転に入り、11月プロジェクトを終わらせ、12月に評定に入る。

4.2　中関村ハイテク学園区ディジタル図書館研究プロジェクト

　このプロジェクトの英語名はDigital Library Consortium for Zhong Guan Cunであり、 DLCと略称される。プロジェクトは北京市の信息（情報）化弁公室により管理され、国家図書館、中国科学院文献情報センター、中国高等教育文献保障体系（CALIS）、北京大学図書館、清華大学コンピューター学部、清華大学ディジタル化中国逐次刊行物ネット、首都図書館、北京市技術監督局などにより、北京を中心にこのプロジェクトを進められる。

　全体の目標はインターネットで、超規模のハイクォリティーの情報資源データベース群を形成し、高速広帯域ネットワークを介して、本地域、全国乃至全世界にサービスを提供すること。さらに、中関村ハイテク学園区内の各ディジタル図書館システムが全国ディジタル図書館らの模範になること。

　サービス対象は中関村ハイテク・学園区内のハイテク企業、科学研究機構及び大学を主にし、普通の利用者にも及ぶ。

　プロジェクトの実施は二段階に分ける。第一段階は1999～2001年で、慎重な調査研究をしてから、DLCの総体的開発計画及び実施案を作り出す。ネットワークのもとで、参加する各図書館や機構が、持っているディジタル資源を十分に生かし、DLCで試運転用データベースを制作し、新しい情報サービスを展開する。サービスシステムはメタデータが集中的に蓄積し、各データベースは今まで通りに各自に保管し、利用者はアクセスすれば、各図書館や情報機構に分散された情報が迅速且つ自動的にリンクして、呼び出し、利用者の端末に提供する。

　第二段階は2002～2010年である。国家ディジタル図書館工事プロジェクトの実施に従って、先進的なディジタル図書館用製品を開発し、地元の需要に答えられるデータベースを作り出し、地元の企業の利用に提供し、地元のディジタル図書館グループ総体の枠組みを整備させ、持続発展ができるようにさせること。

4.3　中国ディジタル図書館工事プロジェクト

　中国ディジタル図書館工事プロジェクトは地域、部門、業界を跨る大きなシステム工事であり、今までのハイテクを駆使するプロジェクトである。このダイナミックなプロジェクトを推し進めるために、文化部は中央の各部や委員会、関係する機構と協議して、「中国ディジタル図書館プロジェクト建設連合会議」を設立して、工事を管理する。「連合会議」は中央21の部と委員会からなり、文化部が「連合会議」の召集者とする。「連合会議」の事務室は国家図書館内に設置し、「中国ディジタル工事建設管理センター」と名づけた。またプロジェクトをスムーズに推し進めるため、専門家からなる顧問委員会も成立させ、プロジェクトの建設を補助し、指導する。

　「連合会議」の主な任務はマクロ的なコントロールをし、工事の情報資源の建設及び標準化を協調する。知的財産権問題を解決し、協調する。

　全体の目標はネットワーク上で、超大規模のハイクォリティーな中国語情報資源データベースシステムを形成させ、国家の公衆回線を使って、全国ないし全世界にサービスを提供すること。プロジェクトの指導思想は統一した企画、創意があるハイテク、持続的な発展ができること。

　工事建設の原則は公衆サービスを主にし、情報資源のディジタル化を中核にし、重複を避け、基準を統一にすること。

　プロジェクトの企画としては2005年に20TBの中国語情報資源のデータベースを10個以上制作する。国内が必要な外国の専門分野のデータベースを導入する。全国大部分の地域の図書館がオンラインで文献資源を収集・目録し、相互貸し出しをする。中国特色があるディジタル図書館用の応用システムを開発する。高水準の専門人材を養成することである。

5.　中国ディジタル図書館が存在する問題

　中国では各図書館が上記のようないろいろなディジタル図書館の研究開発やプロジェクトをやってみたが、縦社会であるため各系統の自らの事情もあり、国家規模のプロジェクトはほとんど地域規模になってしまい、最終的に各地域の系統ごとに各自の展開になることは従来の問題である。

5.1　国の総合国力問題

　中国のディジタル図書館がスタートする時点で、工業経済の基礎が先進国諸国と比べると、弱い立場に立っており、中国の図書館ディジタル化に問題をもたらしている。

　たとえば、ディジタル図書館の発展は情報ハイウェイの開発に依存するのである。情報ハイウェイの発展は通信施設や情報技術の発達により、達成するものである。しかし、わが国の情報技術の総合力が弱い。さらに情報サービスが展開できるのは豊富なデータベースとオンラインシステムに頼っている。中国政府は情報産業に力を入れているけれども、経済の基盤が弱いので、思うようには進まない。

　そして、国外の経験によると、国民一人当たりのＧＤＰが1,000ドル超えてから、国家の情報産業が発展する時期になるとされている。中国では、今のところ、北京、上海、深セン等極一部分沿海の進んでいる都市だけがその基準に達している。それも中国の情報産業を発展する基礎条件が限られていることを物語っている。それによって、情報資源及び情報施設、技術の発展がものすごく不平衡がもたらされた。即ち、情報資源は極一部分の沿海大都市及び首都に集中している。

5.2　知的財産権やデータベースの基準化問題

　中国において情報産業が発展するには政策と法律環境がまだ不充分であり、全国的な基準がない問題や知的財産権問題などが有る。知的財産権は著者の著作権と図書館側が編集・制作したものの著作権と両方を含む。

　データベースの開発は計画経済時代のやり方を因襲しており，各自に自己開発の道を歩んでいる。その結果として、観念が遅れ、局部だけ強調し、全体性が無視され、全国規模の統一した基準がなく、内容から，形式まで，規範性，兼用性はない。Webページ上の資源の建設が重複し、情報資源の開発度と利用度が低く、情報の更新が遅い等である。また、データベースは二次文献情報の方がほとんどであり、全文、画像、データやマルチメディアのデータベースが少ない。それらの問題は上記の国家級の三つのプロジェクトにもそれらの問題に注意して規準の制定に躍起になっている。

6．終わりに、

　上記のように中国のディジタル図書館の開発発展にいろいろな問題があるが、国家級や地方の各図書館ディジタル化のプロジェクトはそれらの問題を解決するための模索であり、全世界の図書館界と一緒に図書館界の生存や大衆に向けるサービスを向上させる努力である。ディジタル図書館は２１世紀の図書館発展の趣であり、図書館界が情報化社会に対応していく道でもあり、方向でもある。上記の問題はディジタル化を模索するときに伴うものであり、これから探索する課題でもある。

　ディジタル図書館は新しく出現したもので既成の道がなく、中国だけでなく世界各国図書館界で模索している。世界の図書館情報界の同業者は互いに成功する成果を学びあい、ぶつかった困難を乗り越え、図書館情報界をもっと良くするために頑張らなければならない。

参考文献：

呉慰慈・許桂菊　　「図書館自動化とネットワーク化の現状及び展望」《中国図書館学報》　国家図書館学会編集　1999/1
葉峰・劉小兵「ディジタル図書館技術:研究現状と建設」《現代図書館情報技術》　　1999年第3期中国科学院文献情報センター
董春暁　「国内外データベース業の発展方向についての比較研究」　　《現代情報》１９９９年８月　　吉林省科学技術情報学会
莫小強　　「わが国ディジタル図書館の建設についての若干の理論と実践の問題」　　《図書館事業の回顧と展望》　中国図書館学会編集　　１９９９年７月
安寧　　「中国国家図書館のディジタルか及びネットワーク化の歩み」　　　《第十三回コンピュータ情報管理学術シンポジウム（1999年9月6日～8日）論文集》　　中国科学技術情報学会　
沈朝暉・王梅　　「我が国のディジタル図書館の建設」　　《図書館論叢》　2000年第１期　　武漢市図書館学会
田豊　　　「わが国のデータベース産業を論じる」　　《図書館学研究》　　2000年第2期　　　　吉林省図書館学会
周和平　　「全面企画・調整し、ともに中国ディジタル図書館工事を開発する」　　《国家図書館学刊》　国家図書館編集　2000年第3期
孫承鑑・劉剛　　「中国ディジタル図書館建設の起動と発展」　　《国家図書館学刊》　国家図書館編集　2000年第3期
「ディジタル図書館の研究報告」　　　上海図書館のWebページ
「上海図書館のディジタル図書項目」　　　上海図書館Webページ全国ディジタル図書館会議の資料から

[1] 広電総局は１９９９年後半、文化部に併合された。

[2] 863プロジェクトグループは1986年３月当時著名な科学者たちが共産党の中央に『世界の戦略性を持つハイテク発展に追跡についての提案』を提出し、共産党の中央が国務院を通って、全国の知名な科学専門者と学者を集め、連続的にいろんな会議を開き、これから中国の発展に影響がある学科の規格を制定することで、中国で、『８６３計画』に略称される。

[3] その４大系統が上海図書館と上海科学技術情報研究所の合併によって中央と同じように３大系統になった。

[4] 国家211プロジェクトは20世紀90年代末に中国政府の国務院が決定した項目であり、即ち、21世紀に向け、全国で１００個の重点大学及び重点学科を集中的に更新すること。

中国におけるディジタル図書館の現状

概要

The Present Situation of China Digital Libraries

Abstract

1．はじめに

2．中国の各系統の代表的なディジタル図書館

2.1 中国国家級図書館ディジタル化のパターン――国家図書館

2.1.1 文献資料のディジタル化

2.1.2 インターネットサービスの開発

2.1.3 国家級のディジタルプロジェクトに携わる

2.2 地域図書館ディジタル化パターン――上海図書館 http://www.libnet.sh.cn（図書館情報大学のホームページとリンクしている）

2.2.1 上海図書館の中国図書館界での位置付け、

2.2.2 上海図書館を中心とする地域の情報資源共有化活動

2.2.3 上海ディジタル図書館

2.3 大学図書館パターン――北京の清華大学図書館ディジタル化

2.3.1 ネットワークの建設

2.3.2 データベースなどのディジタル情報資源サービス

2.4 中国科学院文献情報センターディジタル化パターン

2.4.1 中国科学院文献情報センター概況

2.4.2 中国科学院文献情報センターディジタル化戦略