Dublin Coreは一昨年の11月にワシントンの議会図書館で開催されたワークショップ後,サ ブエレメントなどを含まないSimple Dublin Coreが標準として合意され,アメリカやヨーロッ パでの標準化が進められている[1]1 。 その後,サブエレメントなどを定義するためのQualifier の議論が進んだほか,実際の応用分野での議論を進めようという動きもある。第7回Dublin Coreワークショップではそうした話題が議論されたほか,今後のDublin Coreの維持管理に関 しても議論された。QualifierについてはDublin Coreのコミュニティとして推奨することを認 めた最初のセットを合意すべく作業が進められている。なお,本稿の執筆時点ではqualifierは まだ確定していない。そのため,qualifierに関する具体的な説明は別の機会としたい。
第7回ワークショップは1999年10月25日から27日までの3日間,フランクフルトのドイ ツ国立図書館で開催された。また,それに先立ちAdvisory Committee meetingも開催され筆者 はそれにも参加した。
ワークショップ本体への参加者は120名余りであったが,これまでとの大きな違いははじめ ての参加者が半数以上であったことであろう。また,参加者の国籍も30カ国と大きな広がりを 見せていた。日本からは筆者を含めて5名であった。はじめての参加者が多かったこと,ある いは広がりが大きくなったことが原因かどうかは分からないが,筆者が参加した前3回(DC-4, 5,6)とは少し異なった雰囲気であった。(以前のワークショップでは全体の会合でも非常に活発 な議論があったのに比べると,落ち着いた感じであった。)
筆者の視点からのAdvisory Committee meetingから通して大きな話題は,
議論の中心であったQualifierとは各基本エレメントの記述内容をより詳細化するためのサブ エレメントを表す語4 ,記述の語彙を正確に表すための語5 , 構造を持つ値を表すを表現するため に用いられるその値の要素を指定する語6 の総称である。たとえば,Creatorとして個人か会社 かを区別するためにCreator.PersonalNameやCreator.CooperateNameというサブエレメントを 書くことがあるが,これらはqualifierの一種である。Qualifierはこれまで各エレメントに関し て作られたワーキンググループを中心にどのようなものが必要であるかが議論されてきた。また, データモデルに関するワーキンググループでも形式的には(あるいはデータモデルとしては) qualifierをどのようにとらえれば良いかが議論されてきた。こうした議論を基礎にまもなく最 初のqualifierのセットがアナウンスされることになる。
Qualifierは,その性質上,コミュニティごとに必要なqualifier(のセット)が異なることが 容易に想像できる。このことは今後新たなqualifierの必要性が出てくることをも意味する。一 方,場合によっては時間が経った後に不要になるものが現れることも考えられる。したがって, 今後新たに提案されるqualifierや不要になったqualifierをどのように登録し,承認するかを決 める手続きが問題になる。現在提案されている手続きは次のとおりである。
以上のような手続きを経てqualifierが利用されるようになると,qualifierの参照記述(基準 となる定義記述)を登録するレジストリが必要になる。DCMIではレジストリに関するワーキ ンググループを設け,今後議論を進めていくことになっている。現在,DC1.0/1.1に基づく多言 語レジストリが本学で稼動している[2]。
次回のワークショップの予定は本年10月にカナダ国立図書館で開催の予定である。これまで のワークショップが基本的に招待者(自薦,他薦を含む)によるものであったのに対し,次回から は研究やケーススタディの発表をも含むより開かれた会議にしてはどうかというアイデアが出 されている。また,qualifierがアナウンスされることでDublin Coreの実際的な利用がより実 際的な段階に進んでいくのではないかと思われる。
Qualifierに関しいくつかの点で補足しておきたい。
(1) Qualifierの種類
Qualifierは,形式的に陽な形でメタデータの意味的表現をより明確にするためのものである。 先にも述べたようにQualifierは大きく分けて3種類ある。
(2)Qualifierの導入とDumb-Down原則
Qualifierはメタデータをより詳細に,正確に表現するために重要な役割を持っている。Dublin Coreの草の根的な性格を考えるとコミュニティ毎に有用なQualifierの利用を否定することは 難しい。Qualifierの承認プロセスでいくつかの段階を置いているのはこうしたQualifierの利 用のためである。
一方,Qualifierを導入することは利用するQualifierの違いによって,同じDublin Coreメ タデータと言っても互換性を失いかねないことになる。たとえば,あるところではQualifierを 用いない現在のバージョンで記述し,別のところではQualifierを用いて記述するといったこと が生じる。また,ところによって異なるQualifierの組を用いるということも有り得る。メタデ ータの相互利用性を保つためにQualifierを定義する際には,Qualifier付きの表現からQualifier をはずした場合に基本エレメントのみによる表現に戻すことができなければならないという原 則があり,これをDumb-Down原則(あるいはDumb-Downルール)と呼んでいる。
Dumb-Down原則は,Qualifierはエレメントの記述に含まれる意味的な構造を形式的に表現 できるようにしたものであることを意味している。したがって,Qualifierを導入することでエ レメントの意味を拡張することがあってはいけない。また,言い方を変えると,Simple 15エレ メントからqualifierをつけることによって詳細化した記述を,Dumb-Downすることによって 元に戻せねばならないことを意味する。
(3) レジストリとバージョン管理
今後,Qualifierの定義が進むとあらたなQualifierが追加されていくこと,既存のQualifier の定義が修正されていくことが考えられる。こうしたQualifierに関する情報を管理しておくた めのレジストリの役割が重要であると考えられる。また,レジストリにはQualifierの承認の状 態遷移を管理することや定義記述のバージョンを管理すること,英語で書かれる定義だけに限ら ず,各国語訳を登録することも求められる。レジストリにどのような機能が求められ,どのよう に実現していくかは今後の課題となっている。
図書館情報大学では図書館,および図書館情報学関連の情報資源のサブジェクトゲートウェイ の構築を目的としてDublin Coreを基礎にしてメタデータの蓄積を進めている。ここでは,メ タデータの蓄積と提供を進める応用分野として,少しサブジェクトゲートウェイに関して述べて みたい。はじめに,サブジェクトゲートウェイが重要である理由をいくつか挙げよう。
こうしたサービスのシンプルな例はいわゆる「リンク集」の提供であろう。良いリンク集の在 処を知っていると非常に役に立つことを経験している人は多いと思う。国内の大学図書館でゲー トウェイサービスの例を見てみたい。京都大学や筑波大学附属図書館では大学で出版される様々 な学術資料へのアクセスを提供することが進められている。東京大学では,ネットワーク上の有 用な学術情報資源のメタデータを提供するサービスが進められている。図書館情報大学のディジ タル図書館は図書館情報学分野の情報資源(現在のところ主としてWWW資源)のメタデータ を提供している。
海外を見ると,イギリス,オーストラリア,北欧諸国などを中心にサブジェクトゲートウェイ サービスが進められている。たとえば,WWWが一般化する以前から図書館関連の情報を提供 してきたBUBLはいろいろな分野のネットワーク情報資源のメタデータを提供している。 OCLCが進めるCORC は図書館との協力でネットワーク情報資源に関する目録をMARCや Dublin Coreに基づいて作ろうとしている。社会科学分野の情報資源へのアクセスを進める SOSIGや芸術・人文学分野のAHDS,工学分野のEEVL(以上イギリス),教育関係資料を扱う EdNA(オーストラリア)など分野を限定して情報を提供するものがいろいろある。北欧諸国や オランダでは国内で発信される情報資源へのゲートウェイサービスの提供を進めている。イギリ スではJISCのサポートの下にResource Discovery Network Centre (RDNC)が設けられている。 また,本年6月にはイギリスのWarwickでサブジェクトゲートウェイの国際協力に関するワー クショップ(IMesh workshop)が開かれた。(RDNCがホストをした。参加者は,上のサブジェ クトゲートウェイからの参加者を中心に,全部で30名程であった。イギリスとヨーロッパ各国 が中心。オーストラリア,アメリカ,日本からも参加した。) サブジェクトゲートウェイの構築には,有用な情報資源がどこにあるかを知ることが重要であ る。現在のところ重要な情報資源をシステマティックに見つけ出すことは難しく,人手によると ころが大きい。また,分野の境目を明確につけることは困難であると思われ,分野をまたがった 検索のようにサブジェクトゲートウェイ間の協力が望まれる。さらに,言語の壁を越えた協力が 重要であると思われるが,これらはさらに努力が必要な問題のようである。
Dublin Coreはインターネット上の情報資源のためのメタデータとしてかなり広く認められ てきたように感じられる。Qualifierが定義されることによって,より正確で品質の高い記述が 可能になると考えられる。一方,エレメントやQualifierの定義は進んだが,メタデータ記述基 準はまだ広く認められたものは十分とは言えず,「Best Practice」のような現場のメタデータ記 述者が利用できる基準作りが重要である。加えて,DC SimpleとQualified DCとの間の互換性 を実際に保つためのDumb-Downルールの実現方法もこれからの課題であろう。
[2] 永森光晴他,Dublin Core Metadata Element Set における多言語への対応,情報処理学会 情報学基礎研究会,56-1,pp.1-8, 1999.11