「電子図書館システム」を運用するにあたって、様々なイメージや期待が先行する 中、学内外向けの情報提供を「情報発信」、学内のみ利用可能な情報提供を「情報 配信」と使い分けを行い、この間「情報発信」を重点的課題とした取り組みを行っ て来た。
百年に及ぶ京都大学の歴史の中、附属図書館においては、貴重な資料を多数所蔵し ており、また、予算措置以前からの科学研究費補助金などによる「貴重資料画像デ ータベース」の作成の流れを引き継ぎ、誰もが簡単には閲覧することが出来ない図 書館資料(貴重資料)を電子化し、公開するという「電子図書館」事業が現在のと ころ主体となっている。
平成11(1999)年10月の利用状況は、30,000サイトからアクセスがあったが、その 70%以上が学外からのアクセスである。
学外からのアクセスは、稼働直後は大学サイトからのアクセスが殆どであったが、 現在では、インターネットプロバイダ経由でのアクセスが増加している。特に通信 料金の安価な設定時間である深夜(23:00〜8:00)は、インターネットプロバイダ経 由でのアクセスが顕著である。
以下本稿では、「情報発信」用「コンテンツ」の構築を主に、その概要を述べるもの とする。
その後、平成8(1996)年に、「貴重資料画像データベース」や国宝「今昔物語集 鈴鹿本」 の画像及び翻刻文を作成したが、現在の量的に大きなコンテンツの基礎 が作られた。
平成10(1998)年1月以降は、「電子図書館」事業として、画像データの作成追加 を行っており、現在(平成11(1999)年11月)公開中の画像データは、59種の資 料、約8万枚の詳細画像データ[4]となっている。
また、「紀要」については、著作権処理等も含めて、現在調整中である。
さらに、学内限定利用を前提に、京都大学出版会の出版物の電子化・公開も調整し ているところである。
また、博士学位論文論題一覧(新制分1969年〜) [6]を作成し公開しているが、さ らに、審査要旨については掲載する方向で検討をしている。
公開中の画像データの所有権の明示化についての対応として、ウォーターマークの 導入なども検討しているが、コスト的な問題などで現在は導入していない。
作成は、撮影から公開用データの作成まで、すべて外注作業であるが、作成された データは全て、本学文学研究科大学院生がチェックしている。
テキストデータの作成についても、画像データと同様に別途報告[7][9]があるの で参照頂きたい。
今年秋から、公開しはじめている「保元・平治物語」などの「室町時代の古典籍」 の翻刻文は「樋口一葉」と同様にボランティアによるデータ入力が行われ提供され たものである。
これは、提供する「コンテンツ」の利用が、研究者だけでなく、学生や一般市民に 広がりつつある現状をふまえた、一つの公開方法の模索である。
テキストデータに関しては、日本語の特徴である、「縦書き」、「ルビ」や「外 字」の問題がある。
「縦書き」については京都大学電子図書館システム専用ブラウザ(DBC=Digital Book Creator)では実現されているが、HTMLタグだけで「縦書き」表示することも 検討しているところである。
「ルビ」は、特に「樋口一葉」の公開にあたって、漢字の読み(大和言葉)が重要 なファクタとなったことや古典籍における書き込み、ふり漢字など本文以外の朱書 き等の文字情報を処理するときに問題となっている。現在は、PDF形式のファイルを 作成し提供しようとしているが、画像と共に提供する場合、1枚あたりのデータ量 が大きなものとなり、現在のインターネットでの利用は困難なものとなっている。
「外字」の表現は、様々な方式が提案されているが、●で置き換えて処理してき た。ただし、「室町時代の古典籍」翻刻文については、試行的に合成文字で表現し ている。
まもなく、3年目を迎える京都大学電子図書館システムであるが、今後も「情報発 信」用「コンテンツ」の追加・充実を行うところであるが、とりわけ学内でも有用 な「電子図書館システム」であるための「情報配信」についても、さらに検討して いく事も課題の一つとなっている。今回は、「情報配信」については言及していな いが、一歩一歩充実させていきたいと考えている。
[2] 小川 晋平「京都大学附属図書館システム計画」『図書館雑誌』91, 1997. pp.770-772
[3] 片山 淳「京都大学附属図書館における電子図書館化への取り組みについて」 『現代の図書館』36, 1998. pp.37-43
[4] http://ddb.libnet.kulib.kyoto-u.ac.jp/exhibit/index.html
[5] http://ddb.libnet.kulib.kyoto-u.ac.jp/txtindex.html
[6] http://ddb.libnet.kulib.kyoto-u.ac.jp/common/japanese/kdp.html
[7]朝妻 三代治,長坂 みどり,小川 晋平, 山田 周治「コンテンツ制作の実 際−京都大学電子図書館の試み−」『情報管理』41, 1998. pp.612-622
[8]http://ddb.libnet.kulib.kyoto-u.ac.jp/exhibit/gtest/index.htm
[9]小川 晋平,片山 淳,西山 伸「京都大学附属図書館における資料の電子化作 業に関するSGML文書とHTML文書の比較」『研究成果流通に関する総合的研究−平成 8・9年度報告』1998. pp.67-79