京都大学電子図書館システムの現状

朝妻 三代治
京都大学附属図書館
〒606-8501 京都市左京区吉田本町
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概要

「京都大学電子図書館システム」では、「机の上に京都大学」をキャッチフレーズ として、京都大学が所蔵する情報、京都大学が創造する情報を電子化して広く公開 する一方で、学内刊行物の電子化を支援することを目標としている。本稿では、現 在公開中のコンテンツの概要について紹介する。

キーワード

京都大学電子図書館システム, コンテンツ作成,貴重資料

Construction of the Kyoto University Digital Library System

Miyoji ASAZUMA
Kyoto University Library
Yoshida-Honmachi, Sakyo-ku, Kyoto, 606-8501, JAPAN
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1 はじめに

京都大学附属図書館では、平成10(1998)年1月に文部省の予算措置をうけ、「京 都大学電子図書館システム」[1]を稼働した。導入したシステムは、富士通(株)の iLis/mindsである。この間の経過については、別途報告があるので[2][3]、参照頂 きたい。

「電子図書館システム」を運用するにあたって、様々なイメージや期待が先行する 中、学内外向けの情報提供を「情報発信」、学内のみ利用可能な情報提供を「情報 配信」と使い分けを行い、この間「情報発信」を重点的課題とした取り組みを行っ て来た。

百年に及ぶ京都大学の歴史の中、附属図書館においては、貴重な資料を多数所蔵し ており、また、予算措置以前からの科学研究費補助金などによる「貴重資料画像デ ータベース」の作成の流れを引き継ぎ、誰もが簡単には閲覧することが出来ない図 書館資料(貴重資料)を電子化し、公開するという「電子図書館」事業が現在のと ころ主体となっている。

平成11(1999)年10月の利用状況は、30,000サイトからアクセスがあったが、その 70%以上が学外からのアクセスである。

学外からのアクセスは、稼働直後は大学サイトからのアクセスが殆どであったが、 現在では、インターネットプロバイダ経由でのアクセスが増加している。特に通信 料金の安価な設定時間である深夜(23:00〜8:00)は、インターネットプロバイダ経 由でのアクセスが顕著である。

以下本稿では、「情報発信」用「コンテンツ」の構築を主に、その概要を述べるもの とする。

2. 電子化対象資料

京都大学電子図書館システムでは、「コンテンツ」のうち、図書館の所蔵する資料 や京都大学で創造された学術情報等を電子化して広く公開している。図書館資料と いっても様々であるが、貴重資料の画像データを主に、その他学内の各種刊行物等 も視野に入れている。

2.1 貴重資料

京都大学附属図書館での、画像データ作成の歴史は、平成6(1994)年「吉田松陰 とその同志」展で「Ariadne」(電子図書館実験システム)による電子展示おいて、 附属図書館が所蔵する「維新資料」を対象とした画像データの作成を行った時には じまる。

その後、平成8(1996)年に、「貴重資料画像データベース」や国宝「今昔物語集 鈴鹿本」 の画像及び翻刻文を作成したが、現在の量的に大きなコンテンツの基礎 が作られた。

平成10(1998)年1月以降は、「電子図書館」事業として、画像データの作成追加 を行っており、現在(平成11(1999)年11月)公開中の画像データは、59種の資 料、約8万枚の詳細画像データ[4]となっている。

2.2 京都大学刊行物

京都大学が刊行する「Kyoto University Bulletin」や「京都大学−研究・教育の現 状と展望」、大学創立百周年にあたって刊行中の「京都大学百年史」(全7巻+写 真集)を、電子化し公開している。[5]

また、「紀要」については、著作権処理等も含めて、現在調整中である。

さらに、学内限定利用を前提に、京都大学出版会の出版物の電子化・公開も調整し ているところである。

2.3 その他の資料

テキストデータの提供素材として、著作権処理が不要であり、かつ、各作品が比較 的短く、さらに、コレクションとしてまとまりのある「樋口一葉」の小説を選択し た。 [5]

また、博士学位論文論題一覧(新制分1969年〜) [6]を作成し公開しているが、さ らに、審査要旨については掲載する方向で検討をしている。

3 画像データの作成

画像データの作成については、別途報告をしており[7] [8]参照頂くとして、基本 的な品質条件としては、(1)文字が読めること。(2)文字と、朱点・よごれ・虫喰い などが識別できること。(3)画像サイズが、インターネットで実用的に利用できる範 囲であること。の3点があげられる。

公開中の画像データの所有権の明示化についての対応として、ウォーターマークの 導入なども検討しているが、コスト的な問題などで現在は導入していない。

作成は、撮影から公開用データの作成まで、すべて外注作業であるが、作成された データは全て、本学文学研究科大学院生がチェックしている。

4 テキストデータの作成

テキストデータのうち、「Kyoto University Bulletin」に関しては、冊子印刷契約 時に、電子的データも併せて納品する事が予め取り決められたので、公開用レイア ウト作業のみで公開にこぎつけられている。それ以外は、従来型の版下作成方式の ため、電子化データの同時納品が困難な為、別途電子化データの作成を依頼し入手 している。

テキストデータの作成についても、画像データと同様に別途報告[7][9]があるの で参照頂きたい。

今年秋から、公開しはじめている「保元・平治物語」などの「室町時代の古典籍」 の翻刻文は「樋口一葉」と同様にボランティアによるデータ入力が行われ提供され たものである。

5 公開方法について

画像データに関しては、研究者にとっては、「原本」をあるがままの形で公開する だけで、充分研究に役立つとする考え方もあるが、国宝「今昔物語集 鈴鹿本」同 様に翻刻文の提供や、試行的にではあるが、巻子本を巻物らしく見せる方法につい ても現在行っている。

これは、提供する「コンテンツ」の利用が、研究者だけでなく、学生や一般市民に 広がりつつある現状をふまえた、一つの公開方法の模索である。

テキストデータに関しては、日本語の特徴である、「縦書き」、「ルビ」や「外 字」の問題がある。

「縦書き」については京都大学電子図書館システム専用ブラウザ(DBC=Digital Book Creator)では実現されているが、HTMLタグだけで「縦書き」表示することも 検討しているところである。

「ルビ」は、特に「樋口一葉」の公開にあたって、漢字の読み(大和言葉)が重要 なファクタとなったことや古典籍における書き込み、ふり漢字など本文以外の朱書 き等の文字情報を処理するときに問題となっている。現在は、PDF形式のファイルを 作成し提供しようとしているが、画像と共に提供する場合、1枚あたりのデータ量 が大きなものとなり、現在のインターネットでの利用は困難なものとなっている。

「外字」の表現は、様々な方式が提案されているが、●で置き換えて処理してき た。ただし、「室町時代の古典籍」翻刻文については、試行的に合成文字で表現し ている。

6 おわりに

以上、「コンテンツ」の作成や公開の概略について、現状を述べた。

まもなく、3年目を迎える京都大学電子図書館システムであるが、今後も「情報発 信」用「コンテンツ」の追加・充実を行うところであるが、とりわけ学内でも有用 な「電子図書館システム」であるための「情報配信」についても、さらに検討して いく事も課題の一つとなっている。今回は、「情報配信」については言及していな いが、一歩一歩充実させていきたいと考えている。

[注]

[1] http://ddb.libnet.kulib.kyoto-u.ac.jp/minds.html

[2] 小川 晋平「京都大学附属図書館システム計画」『図書館雑誌』91, 1997. pp.770-772

[3] 片山 淳「京都大学附属図書館における電子図書館化への取り組みについて」 『現代の図書館』36, 1998. pp.37-43

[4] http://ddb.libnet.kulib.kyoto-u.ac.jp/exhibit/index.html

[5] http://ddb.libnet.kulib.kyoto-u.ac.jp/txtindex.html

[6] http://ddb.libnet.kulib.kyoto-u.ac.jp/common/japanese/kdp.html

[7]朝妻 三代治,長坂 みどり,小川 晋平, 山田 周治「コンテンツ制作の実 際−京都大学電子図書館の試み−」『情報管理』41, 1998. pp.612-622

[8]http://ddb.libnet.kulib.kyoto-u.ac.jp/exhibit/gtest/index.htm

[9]小川 晋平,片山 淳,西山 伸「京都大学附属図書館における資料の電子化作 業に関するSGML文書とHTML文書の比較」『研究成果流通に関する総合的研究−平成 8・9年度報告』1998. pp.67-79