筑波大学電子図書館の第一の目的は、学内で収集・生産された学術情報を広く 学内外に発信することである。電子化の対象となるのは、貴重書、学位論文、 研究成果報告書、紀要、学事報告書、シラバス等である。
システムの第一の特徴は、WWW上でのOPAC(オンライン蔵書目録)(図1)が 検索の窓口となり、筑波大学附属図書館の蔵書を検索する中で、原文データが 用意されているものはそのままリンクをたどって見ることができるという点で ある。原文は基本的にはページイメージで提供する。他にHTMLとPDFの文書も 提供可能であり、HTMLのページを仲立ちとして、プラグインなどの形で、他の フォーマットのビューワを立ち上げることもできる。
図1
言ってみれば従来型の総合的な図書館システムのオプションとしての電子図書 館であり、純粋に電子図書館システムとして設計されたものとは言いがたい。 目録はあくまでも従来の図書館資料を対象としており、ネットワーク上の情報 資源を検索するためのメタデータを扱うようにはなっていない。また、コンテ ンツ作成に関してはページイメージ登録ツールしか用意されておらず、原稿段 階からの電子化に対応しているわけではない。しかしながら、これは図書館が サービスする電子図書館としては無理のない形態であるとも考えられる。
事務方の体制としては、電子情報係(2名)及びシステム管理係(3名)の2 係が直接の担当となり、実務を行なっている。電子情報係は電子図書館にかか わる事務全般、著作権処理、コンテンツ作成等を担当し、システム管理係は電 子図書館も含めた図書館システム全般の管理・運営に携わっている。他にも電 子資料の契約や目録作成など図書館の多くの部署が電子図書館の運用に関わっ ている。
図書館システムの納入業者(株式会社リコー)の果たす役割も大きい。レンタ ル契約によりハードウェア及びソフトウェアの保守・点検を行なうほか、新機 能の開発にも積極的に取り組んでもらっている。
以上三者の連携協力によって電子図書館の運営が成り立っている。連絡や意見 交換には電子メールやネットニュースを活用しているが、合意の形成には従来 型の会議が必要なことも多い[2]。
図2
筑波大学における著作権処理の問題点としては、まず第一に、登録申請者が必 ずしも著作権者ではない場合があることがあげられる。学術雑誌に発表された 論文等では学会や出版社に著作権が譲渡されていることが多いのだが、こうし た場合、著者から許諾を得ただけでは不十分で、学会や出版社からも許諾を得 る必要がある。しかしながら、個々の学会や出版社からいちいち許諾を得るこ とは、現状の体制ではとてもこなせる作業ではない。結果として、こうしたも のについては電子図書館への登録をあきらめざるを得ないのが現状である。
不正利用への対抗措置を備えることも重要な課題である。具体的には電子透か しなどの技術を導入したいと考えているが、コスト面などを含めて検討中の段 階である[4]。
------------------------------ 研究紀要 17 学位論文 409 研究成果報告 41 学事報告 30 シラバス 44 貴重書 731 貴重書(高精細画像) 7 ------------------------------
研究者の申請を座して待っているだけではコンテンツは増えない。そこで、以 下のようなコンテンツ整備のためのアクション・プランを策定し、実行に移し ている。
現状ではコンテンツ作成の中心は紙の資料の画像化である。これは外注に出す 場合とアルバイトが館内でスキャナーを操作して作成する場合とがある。外注 に出すためには数量的にまとまる必要があるため、散発的に登録申請される研 究成果などはアルバイトによる作業となっている。ここで作成する画像は文字 がきちんと読めることを最低条件にしているのだが、資料によってはスキャナ ーの解像度や階調等を調整しなければならず、思いのほか手間がかかっている。 貴重書などはまとめて外注している。写真撮影をしてマイクロフィルムを作成 し、それをフィルムスキャナーにかけて画像データを作成する方法を取ってい る。最近はディジタルカメラによる画像データのみの作成を請け負う業者も出 てきているが、マイクロ作成が不要かどうか、検討が必要である。
今後の方向として、原稿段階での電子化をめざしている。著者がワープロ等で 作成した原稿をそのまま利用してHTMLなりPDFなりに変換し、コンテンツとす る。これは既に2、3の実例があるが、本格的に行なうには、データの受渡し 等のルールをきちんと作り上げる必要がある。一方において、印刷業者がPDF ファイルの作成を請け負うようになってきている。データ作成はこうしたとこ ろに任せるのも一つの有力な選択肢である。
他に研究者が作成した比較的小規模なデータベースの簡単な検索機能の提供、 市販データベースとOPACの統合検索、Z39.50対応OPACの試作といった試みが なされている。
運用環境の整備やデータ蓄積に追われて余裕がないのが実情ではあるが、サー ビス開始から1年半以上経過した現在、電子図書館の有効性に関して点検・評 価を行なう必要があると感じられる。電子図書館に関しては評価の基準・方法 が定まっていない。これを探るところから着手したいと考えている。
[2] 石村恵子、福井恵、岡部幸祐、兼松泰文、栗山正光. 筑波大学電子 図書館の現状と課題. 大学図書館研究. No. 55, pp. 65-74 (1999).
[3] http://www.tulips.tsukuba.ac.jp/pub/riyou_annai/DL/youkou.html
[4] 栗山正光. 電子図書館と著作権処理. 情報の科学と技術. Vol.48, No.8, pp. 435-439 (1998).