デジタル放送におけるメタデータ応用と電子図書館システム

原岡和生
(株)次世代情報放送システム研究所
〒111-0035 台東区西浅草1-1-1,かんぽ浅草ビル8F
Tel: 03-5826-7383, Fax: 03-5826-7382, E-Mail: kharaoka@ibl.co.jp

概要

日本においてTV放送のデジタル化の波が急速に押し寄せてきている。 デジタル放送の利点は沢山あるが、このレポートにおいては、その中の一つとして 最近の話題であるメタデータの応用について報告する。 メタデータを応用する事によってEPGの実現を始めとして番組内の検索や選択視聴が 容易となる。

本レポートにおいては、デジタル放送のメタデータ応用例と共に、 それらメタデータと電子図書館システムにおける属性情報群として Dublin Core Metadata Setの整合性について述べる。

キーワード

情報放送。Digital放送、電子図書館システム、EPG、番組内インデックス、ダブリン コア要素群

Metadata Applications on the Digital Broadcasting and DL Systems

Kazuo Haraoka
Information Broadcasting Laboratoires,Inc
KampoBldg, 1-1-1 Nishi-Asakusa,Taito-ku,Tokyo,111-0035,Japan
Tel: +81-3-5826-7383, Fax: +81-3-5826-7382, E-Mail: kharaoka@ibl.co.jp

Abstract

The wave of Digitalization of TV broadcast has surged rapidly in Japan. There are many advantages of Digital broadcasting. In this paper, we will report about some of the advantages which are based on metadata technique. Using metadata, we can realize not only the Electronic Program Guide, but also TV Anywhere in a program.

We will also discuss about equality between DC Metadata set and Digital Broadcasting metadata set.

Keywords

Information Broadcasting, Digital Broadcasting, DL, EPG, TV Anywhere, DC

1. はじめに

日本において放送のデジタル化が急速に進行している。デジタル化を行う事による メリットは沢山ある。デジタル化を行う事により、チャンネルを増やす事が可能とな り、 視聴者はより自分の好みに合わせた番組選択を行う事ができるし、受信電波状態が 良好でない場合のノイズやゴースト等も軽減する事が可能となる。 それらと同様に、より視聴者の好みに沿った 視聴形態が可能となるであろうこともデジタル放送の一つのメリットである。

本レポートに於いては、まずデジタル放送、および次世代情報放送システム研究所 が 想定している情報放送について第2章で説明を行う。 その上で、第3章において、デジタル放送でのメタデータ応用例を、具体的に2例 挙げて説明する。第4章においては、第3章で用いられたメタデータが、 電子図書館システムにおけるダブリンコア要素群と非常に親和性が高い事を示す。 そして第5章でまとめる。

2. デジタル放送

2.1 次世代情報放送システム研究所について

次世代情報放送システム研究所、通称アイビーラボは、放送を応用し、 利用者のニーズに応じた情報の管理、検索、送受信技術を追求することを 目的として1997年に設立された(1)。 研究会社としては2002年までの時限会社であり、 出資は基盤技術研究促進センターおよび、ソニー、松下電器産業、 リコーのメーカー3社と、NHK(日本放送協会)、日本テレビ放送網、 フジテレビジョンの放送局3社である。 官民、またメーカーと放送局の協力の下、次世代の放送応用技術の研究に励んで る(1)。

 次世代に放送される物は、ビデオストリーム型のテレビ番組のみではない。 インタラクティブな放送も考えられるし、オブジェクトを変えての視聴も 可能になろうし、ゲームも放送で可能になるかもしれない。 そこには無限のエンタテイメントと情報配信の可能性が秘められている。

2.2 想定している系

アイビーラボで想定している系をFig.0に示す。この様に研究内容の要素は、大きく 4つに分けられる。

1) 放送システム、制作システム

2) 配信、伝播

3) 受信、蓄積

4) 検索

この系においては放送素材自体がデジタルコンテンツであるから、 家庭内の受信端末(STB)は、その機能の一つとしてインターネット等の デジタルコンテンツへのアクセスも可能である。しかし、実際に デジタル放送と言った時には、Fig.0で記述されているインターネットからの双方向 通信も 含めた系を指す場合と、下半分は想定せずに、飽く迄電波を使ったデジタルコンテン ツの 配信のみを指している場合があるが、本レポートでは厳密な使い分けをしているわけ ではない。

デジタル放送では、配信受信システムのみでなく、制作システムも変更されると思わ れる。 一例を挙げれば、番組に付加するメタデータを作成したり、それを画像と多重化した りする、 という作業が追加される。

家庭内での受信においてもデジタルである事を生かした形での蓄積が行われる ものと想定している。これは、NHKの提唱しているISDBにおいても同様である(2) 。 放送される番組も、現在の様な形態の物をデジタル化した物から始まり、 ゲームソフトや音楽ソフトの配信、データ放送等いろいろ考えられるが、 どれであるかについてはここでは問題にしていない。 例示をする場合にはその都度そのコンテンツの内容を説明することとする。

では、インターネットのデジタルコンテンツと 放送のそれを比較してみよう。インターネットの世界では、構造化表現、抽象化表 現への規格化が加速されている。これは「見せる人が見せたいように」から 「見たい人が見たい様に」への変更が行われつつあるといっても過言ではあるまい。 放送においては、今後も前者が主流であると思われるが、後者も増加するものと予想 される。 その為、デジタル放送においても、番組の構造化を行おうという動きがある。 その活動の例としてはにMPEG-7、WWW-TVを挙げる事ができる。 その関係をFig.1に示した。

3. 放送におけるメタデータ応用

この章では、メタデータ応用の具体例として、「EPG」と「番組内インデックス」を 説明する。

3.1 EPG(Electronic Programme Guide)

デジタル放送において、EPG(電子番組案内)は、 ほぼ必須のサービスになると考えられる。 EPGの為の基本的な情報(番組配列情報)は、その番組に対する「メタデータ」と 位置付ける事が出来る(Fig.2)。 ARIB(電波産業会)においても、「番組配列情報」として規定を行っている(3)。 この番組配列情報は、ヨーロッパの規格DVB-SI(4)を基礎として、 日本の実状に合うように作られたものである。 番組に、付けられたジャンル、登場人物、といった情報(メタデータ)から、 一般視聴者は自分の好みの番組を選択して視聴する事が可能となる(Fig.3)。 このメタデータの内容の詳細については4章で詳述する。

3.2 番組内インデックス

「番組内インデックス」は、現在検討中の新しい放送サービスである(5)。 テープメディアに記憶されいるものにテープカウンタが付いているように、 デジタルに記憶されているものにも、何処に何があるかを記述している テーブルが必要である。これを番組内インデックスと呼んでいる。この番組内 インデックスもメタデータの一種である。 Fig4.を用いて説明を行う。上段は、デジタル放送を敢えてストリーム化して表現し ている。 ある番組(例えばニュース番組)の中のシーン(例えば経済コーナー)を探し出す 為には、そのシーンに付加されている番組内インデックスを利用する。 上記は最も簡単な例であるが、これを応用する例が下段にある。ニュース番組を3本 、 録画しておき、その日の経済ニュースだけを探して視聴する、というような事が可 能になる。また、シリーズ番組内のある特定のコーナーの録画予約、 というような事も可能である(6)。

4. 電子図書館システムと情報放送システム

第3章で述べてきた様なデジタル放送へのメタデータ応用は、検索、選択がその基 本的な技術として必要である。つまり、コンテンツに付けられた「書誌情報」を頼り に 検索を行っている。 蓄積されている物の検索という立場で考えれば、「図書館」は先駆者である。 図書館においてもデジタルコンテンツを扱い、また検索自体も電子化されてきている 。 ここでは電子図書館における検索の為のメタデータと放送のメタデータの比較を行 ってみたい。

Table.1は、中行に電子図書館システムの基本的な属性語セットである ダブリンコア(7)の要素群、そして、左行、右行には、ARIB番組配列情報に おいて定められているEIT(Event Information Table)内の記述子(記述内容)を表し 、 それらの関係を矢印で示している。DCの要素中、< > で括られているのは、伝送に用 いられる MPEG-2のシステムが必要とするものである。また、関係付けられていないものは、 どれに対応付けするか、Qualifier(ダブリンコアにおける、要素の詳細記述)を用い る等 若干の工夫が必要である。

この比較から、ダブリンコアの要素群と番組配列情報としてのEITは、非常に良く対 応が取れている。 このことは、放送番組の電子図書館システム上での管理が可能であることを表してい る。 具体的には、デジタル放送用に作られた各種メタデータを、要素語(属性語)の対応 表に 従って、電子図書館システム上にのせる。

Fig.0に戻って、Libraryの意味を改めて考える。 この場合、Libraryは、放送局の番組を管理するための蓄積媒体であると言ってもよ い。 利用者は、放送局の関係者のみではなく、一般の人もその利用者である。 「デジタルコンテンツの図書館」として、放送局の番組サーバが加わった考えること が出来る。 インターネット上のポータルサイト(これ自体DBである)に、 DCによって記述された「番組書誌情報」が管理されており、そこを経由して TV局内のLibraryに接続する、というのが1つのモデルである。

  上述は、番組という単位に対する書誌情報としてのメタデータの取り扱いであり 、 書誌情報としてのDCとの親和性であったが、DCを用いて、番組内容自体の構造的 記述も盛んに研究されている(8)。

5. おわりに

本レポートにおいては、日本におけるデジタル放送において、メタデータがどのよう に 使われようとしているかを紹介するとともに、そのメタデータの取り扱いが電子図書 館システム と非常に親和性があり、近い将来において同一化できるのではないかという示唆を行 った。 放送において、実際にメタデータを用いるには、解決しなければならない課題もある 。 一例を挙げれば、「誰が、いつ、どのような」メタデータを作成するのか。 「デジタル放送」という大きな枠組みの中でのメタデータの取り扱いには、まだまだ 解決すべき 問題が山積されているが、しかし、マルチメディアの一端として確実にデジタルの世 界との 共存がターゲットとなってきたことは間違いない。

参考文献

0) http://www.ibl.co.jp/ (Now, Japanese Only)

1) 筆者はソニー(株)IT研究所から兼任出向している。

2)http://www.strl.nhk.or.jp/open96/ex/t2-j.html

3) "Service Information for Digital Broadcasting System," ARIB STD-B10, (in Japanese)

4) http://www.ebu.ch/dvb/dvb_technology/dvb_si.htm

5) 「番組内インデックス」は、次世代情報放送システム研究所とNHKよって共同開発 され、 現在ARIBで審議中のものである。尚、「番組内インデックス」という名称につい ては、 一般ユーザ向けには今後変更される可能性がある。

6) 「−ible」 Vol.2 「番組インデックスとメタデータ」特集号:御希望の方は筆者 まで 御連絡下さい。

7) http://purl.oclc.org/metadata/dublin_core/

8) 一例として http://www.dstc.edu.au/RDU/staff/jane-hunter/EuroDL/final.html