DC-5: ヘルシンキ・メタデータワークショップ ワークショップとそれに続く活動の成果の報告

Stuart Weibel
Senior Research Scientist, OCLC Office of Research

Juha Hakala
Library Network Specialist, Helsinki University Library

(訳: 杉本重雄,図書館情報大学)

 

原論文

DC-5: The Helsinki Metadata Workshop A Report on the Workshop and Subsequent Developments

(D-lib Magazine, February 1998, URL: http://www.dlib.org/dlib/february98/02weibel.html)


はじめに

Dublin Coreの開発は、巨大な情報空間の中から情報資源を発見するために利用 できるメタデータの基本要素(Core Element, コアエレメント)を定義することを 目的として国際的かつ学際的な活動によって進められている。第5回Dublin Core Metadata Workshopが1997年10月フィンランドのヘルシンキで開催され、4 大陸16カ国から情報資源の記述を行うコミュニティを代表するおよそ70名が参加 した。

メタデータは情報資源の発見のために有用な情報である。こうした情報を効率的 に交換し相互に利用するには、様々な情報資源を記述することができるように一 般化されたメタデータが必要であり、しかもその意味(semantics)、構造(structure)、 および構文(syntax)に関する決まりを与える基本的な情報構造が必要であ る。Dublin Core計画では、現在までにネットワーク情報資源のための記述的メ タデータ(descriptive metadata)の基本要素に関する合意が得られた。Web上の 資料のためのメタデータの記述に関する構文的な定義はWorld Wide Webコンソー シアム[W3C]の下でResource Description Framework (RDF)[RDF]として開発が進 められている。Dublin CoreのコミュニティはRDFのコミュニティとも緊密に協力 し合いながら一般的な情報資源のメタデータ記述に共通した基本構造を作り上げ る努力を続けている。

        Dublin Coreメタデータのエレメント
        
        メタデータのエレメントは各エレメントに格納される情報の内容に応じて大まかに下記の
        3つのカテゴリーに分けられる。
        (1)  主として情報資源の内容に関係するエレメント
        (2)  情報資源を知的財産としてみた場合に主として情報資源に関係するエレメント
        (3)  主として情報資源の具現化に関係するエレメント
        
        (1) 内容        (2) 知的財産            (3) 具現化
        Title           Creator                 Date
        Subject         Publisher               Type
        Description     Contributor             Format
        Source          Rights                  Identifier
        Language
        Relation
        Coverage

Dublin Core Initiativeの経緯

ヘルシンキワークショップは一連のDublin Coreワークショップの第5回である。 インターネット上でのより効率の良い情報資源の発見に役立つメタデータの基本 要素に関する合意を得ることを目指して、この一連のワークショップでは、図書 館員、ディジタル図書館の研究者、コンピュータネットワークの専門家、コンテ ンツ専門家、美術館・博物館の情報専門家などいろいろな分野から招待された人 たちによって進められてきた。

第1回のDublin Coreワークショップは1995年3月に開催された。第1回のワークシ ョップでは、電子文書の発見という問題に役立つと考えられる意味的な情報につ いて焦点があてられ、電子的な情報資源の記述のための合理的基盤として、メタ データ要素の基本セットが参加者の合意の下に提案された[DC-1]。

第2回のワークショップはイギリスのWarwickで開催され、国際的なコミュニティ による合意と構文に関する提案がなされた[DC-2]。それによってWeb上でのDublin Core の応用のための基本的な具体的記述方法が提案された。(訳者注:HTMLでの記述 方法やSGMLに基づくDTD。)HTML文書に埋め込まれたメタデータを定義すること だけがDublin Coreの目的ではないが、Dublin Coreをできるだけ早く実際に利用 できるようにするにはHTML上での記述方法を明確にすることが必須であると判断 され、これに基づく様々なプロジェクトがスタートした[DC-PROJ]。

このワークショップで提案されたメタデータの枠組みに関するもっとも基本的か つ重要な概念は、Warwick Frameworkと呼ばれるものである。 Warwick Framework はMetadata Content FrameworkとともにResource Description Frameworkの開発 に関する核となっているものである。RDFはWeb上のメタデータのための柔軟な構 文のための基礎を与えるものであり、これによって情報資源(文書)の中に埋め込 むメタデータにとどまらず、様々にメタデータのモデルを組み合わせた記述する ことも可能になっている。

第3回のワークショップにはイメージ情報の専門家が多く集まり、Dublin Coreの 適用範囲をイメージデータにまで拡大した。この会議では、テキストデータとイ メージデータはいろいろな点で異なってはいるものの、それらをひとまとめにし て記述する上で必要となる記述のカテゴリーはそれほどは違わないということが 認識された[DC-3]。また、この会議で二三の要素が修正され、さらに第1回会議 で定義された13項目に2項目が加えられた。

オーストラリアのキャンベラで開催された第4回のワークショップでは、minimalist とstructuralistと呼ばれる両極の間でメタデータに対する参加者の考え方の広 がりがより明らかになってきた[DC-4]。minimalistは標準が複雑になるにしたが い利用者がそれを受け入れる可能性とメタデータ同士の間の相互利用性が急速に 低下するという観点から、何ににもまして簡明さに重きを置くという考え方であ り、一方、structuralistはこうした危険性は認識しながらもメタデータの利用 を簡便にするために構文的な複雑さは増してもメタデータの内容を記述形式から 分かるようにすることの必要性に重きを置くというものである。キャンベラでの 主たる成果は、記述内容を指定するのに用いる記述要素(qualifier)を定義した ことである。

第1回から第4回までのワークショップから得られた成果

Implementationプロジェクト

Dublin Coreの開発計画を進める過程でなしとげられてきたことの中で最も重要 なことは、メタデータを実際に作り出すプロジェクト(Implementation projects )の数が世界中で増えてきていることであろう。こうしたプロジェクトは少なく とも10カ国で進められており、かつ文化的資料、図書館資料、政府情報、医療な らびに科学資料、数学分野の論文のpreprintなど数多くの分野の情報資源を対象 として進められている[DC-PROJ]。

こうしたプロジェクトの地理的な広がりと多様性を見ると、基本要素セット(Core Element Set)がインターネットという情報資源の共有地(Internet Commons)上の 数多くの異なる情報資源記述コミュニティを統合するために実際に役立つという ことを強く感じる。

最近発表されたオーストラリアにおける政府情報の案内サービス(Australian Government Locator Service)では電子的に出版された政府文書のための情報資 源記述の標準としてDublin Coreを採用することが推奨されている[AGLS]。さら にデンマーク国立図書館では、メタデータの利用のための標準としてDublin Core を採用することを正式な方針としている[DEN]。いずれの場合もDublin Core initiative において国際的な利用を視野に入れて活動を進めてきたことがこれらの重要な要 因になっている。

Dublin Core以外のメタデータの開発計画からもDublin Coreの重要性が認められ ている。たとえば、教材のための情報資源記述の標準を策定しようとしているInstructional Management System [IMS]プロジェクトはDublin Coreをベースセットとして採用 し、このプロジェクトで必要とされる教材用に特化した情報を付加することにし ている。また、Descriptive Metadata Task GroupによるNISO DOIワークショッ プのレポートではDublin Coreを出発点としてメタデータに関する議論を進める ことを報告している。

HTML 2.0における埋め込みメタデータの記述方法

以上のようなプロジェクトを開始させるには、既存の標準やソフトウェアを変更 することなくWeb上でDublin Coreメタデータを実際に記述するための首尾一貫し た方法が必要であった。Dublin Coreに関わっている人たちも多く参加した分散 検索とインデキシングに関するワークショップ(Workshop on Distributed Searching and Indexing , 主催:W3C, 1996年5月)において、この目的に適合し た簡単な記述方法が提案された[HTML-META]。この方法は長期にわたる解決策と しては満足できるものとはいえないが、Dublin Coreを用いることになった初期 の重要なプロジェクトにおける記述方式を提供することになった。

HTML 4.0におけるMETAタグの属性

キャンベラワークショップで提案されたメタデータ要素の内容を指定するための 記述要素(Canberra Qualifier)はHTML 4.0規格(1997年12月にW3Cのメンバーによ って認められた)に含まれるMETAタグの属性の中に定義された[HTML 4.0]。この 属性によってHTML文書中に埋め込むメタデータをより洗練されたものにすること ができ、Web上でのメタデータ基盤にとって重要な要素が加わえられた。

ISO 8601日付データ標準規格のプロフィール

日付データのコード化はほとんどのソフトウェアシステムにとって重要な問題で ある。(この問題は新しい千年紀の前夜である現在、面倒な問題でもある。)ISO-8601 の日付のコード化に関する標準は首尾一貫した日付のコード化を進める上で重要 な仕様である。ISO8601自身は非常に詳しく定義されたものであるが、Dublin Core で利用するためISO 8601のプロフィール(あるいはサブセット)を定義し、それ を用いてDublin Coreメタデータにおける日付データの解析を容易にできるよう にすることにした[ISO-8601-PROFILE]。このプロフィールはW3CにおいてもHTML の全属性での日付データの推奨記述方式として採用されている。

RDFの開発

Web環境において任意の形式のメタデータ記述(メタデータパッケージ)を可能に するには様々なコミュニティで採用されてきたセマンティクスと構造の多様性に 適応することのできる統一されたメタデータの構成方式を提供することが必要で ある。Resource Description Framework[RDF]はこのメタデータ構成方式を作り 上げることを目的とする開発計画としてW3Cで認められたものである。RDFは基本 的な部分でWarwick Frameworkの影響を受けている。また、多くのメンバーがDublin Core 計画とRDFワーキンググループの両方に参加しており、互いに共同して評価しあ うことで互いの活動の進展が図られている。

多言語Dublin Core

Dublin Coreには広く国際的な関心が寄せられている。Dublin Coreの文書はドイ ツ語、フランス語、ポルトガル語、デンマーク語、ノルウェー語、フィンランド 語、スウェーデン語、タイ語、それに日本語に翻訳されており、他にも計画が進 められている。Dublin Coreの世界的な採用を促進するため国際化(internationalization) に関する多言語メタデータ・ワーキンググループが設けられている。

Helsinki Metadata Workshopの成果(およびその後)

The Finnish Finish

ヘルシンキワークショップでの最も直接的な成果はDublin Coreの属性指定なし( 訳者注)の15エレメントを固定したことである。ほとんどのエレメントについて は広く受け入れられたが、一部のエレメントについては利用目的や有用性に関す る熱心な議論があった。これらのエレメントに関してはワークショップでの議論 と引き続くmeta2メーリングリストでエレメントの定義がより明確にされた。こ うして作られた定義はエレメントの基準参照文書[DC-ELEM]に反映されており、 まもなくインターネットドラフトを公開の予定である[ID1]。(訳者注:本稿ではqualified 、unqualifiedを属性指定付き、および属性指定なしというように訳している。qualified はエレメントの内容を記述する際により記述内容を限定することを意味する。た とえば、著者の名前とアドレスをサブエレメントとして定義する場合、creator エレメントの中に「名前」あるいは「アドレス」という値に限定したサブエレメ ントを作ることになる。また、エレメントの内容を記述する際に内容の記述形式 を何らかの基準に基づいて表す場合、記述形式(scheme)を指定することになる のでこの場合も「属性指定付き」に含めて考える。原文にscheme qualifiedとあ る場合、本文中では記述形式指定というように表している。)

ヘルシンキで議論の中心となったのは下記のエレメントである。

Date(日付)

Date(日付)エレメントはDublin Coreの議論がはじめられた頃から問題をはらん でいた。情報資源が生成され消滅するまでの期間にいろいろな種類の日付が関係 する。そうした日付の間に(メタデータとして記録するための)優先順位をつける ことはメタデータの利用の仕方に依存するものであり、情報資源そのものによっ て決まる性質であるとは考えられない。活発な議論の後、「情報資源が作り出さ れた日付あるいは利用可能になった日付」というDateエレメントがはじめに定義 されたときの意味定義がそのまま残されることになった。この定義は多くの参加 者にとって十分には明確化されたものとはいえなかったが、Dublin Coreの属性 付き表現の中で目的に合った何種類ものDateエレメントの型を定義することで合 意した。

Dateエレメントの詳細化に関するワーキンググループ報告はDublin Coreホーム ページからリンクされている[Date]。この報告はメタデータの多様な応用分野に おいて重要であると考えられるいろいろな日付に関するデータの型について述べ ている。このレポートについては、さらに広い範囲での合意を得ることと、実際 の利用経験に基づいて中身の検証をすることが必要であるとはいえ、日付データ に関する包括的なデーや定義のための出発点としては十分なものである。

Covarage(カバレッジ)

カバレッジエレメントもはじめのころから問題の多かったもののひとつである。 このエレメントを基本エレメントに含めるに至ったのは第1回のワークショップ での議論によるところが大きい。このエレメントを含めることを支持する人は多 い。にもかかわらず、実際にこのエレメントを利用するための明確な指針は与え られていない。このエレメントの場合、ウェッブ自身の進化がこのエレメントの 利用の指針を提供していると考えられる。ウェッブは文化的情報や商用目的の情 報に関する情報資源として急速に発展してきた。このことは、ウェッブ上では地 域に依存した情報資源の発見が重要であるということを意味している。カバレッ ジエレメントが地理的情報として参照される資源に対する検索に役立つというこ とは広く了解されており、カバレッジエレメントの利用が広がることで地理的情 報の資源の検索に役立つ。地理的情報のみならず(航空機や衛星からの観測によ って作られる)空間的な計測データやイメージデータを情報資源として利用する ためにも役立つ。

カバレッジエレメントは時間的区間を表すためにも利用できるが、その場合に属 性指定無しの記述はあまり行われないと考えられる、さらに、シンプルなカバレ ッジエレメントの内容は、たとえば郵便番号、ヒトゲノム、宇宙物理学での記述 方式のように分野に応じた形式の記述を行う、すなわち属性指定付きのより進化 した方式の記述によって与えられることになると考えられる。

関係と1対1の原則

関連する情報資源間の複雑な関係に関して十分に内容を尽くした詳細な記述する ことは困難である。このことは伝統的な書誌記述でも同じであろう。電子情報資 源の場合にはいろいろな変形版や翻訳版などが作られる可能性が大きいため、問 題はよりいっそう複雑になりがちである。

他の情報資源をもとに作り出された情報資源のための十分な内容を含むメタデー タについてはいろいろな問題がある。また、元の資源のためのメタデータがある 場合もあり、そうした場合にもいろんな問題が生じる、これは図書館と美術館、 博物館に共通の問題である。この問題は1997年7月にResearch Library Groupで 開催したメタデータサミットと呼ばれたメタデータに関する会議[RLG-SUMMIT]で 注目されたものであり、ヘルシンキでも中心的な話題の一つとなった。ヘルシン キでは、議論の結果1対1の原則(1:1 principle)と呼ぶ考え方を採用することで 合意した。これは、個々の情報資源には分離された(あるいは分離可能な)メタ データが与えられるべきであること、また個々のメタデータの記述、すなわちDublin Core の各エレメントの記述は単一の情報資源に関するものに限ることを意味する。さ らにこうした関連するメタデータ記述を首尾一貫したものとして関連付けること ができるようにすることが望まれる。

関係(relation)エレメントは情報資源間の論理的な関係を記述するために利用さ れることになる。メタデータと情報資源間を結び付けるために関係エレメントを 用いることが他のエレメントの利用にも影響を与える可能性があるが、そうした 問題についてはまだ十分に考察がなされたとはいえず、また実践プロジェクトに おけるテストも行われてはいない。

関係の定義には次の3つの要素が関与する。第1は対象となる情報資源がひとつ の資源として認識、識別できること。(これは記述対象の情報資源はメタデータ の識別子(Identifier)エレメントに識別子を入れることができるので、関係エレ メントのところにその識別子をいれる必要はない。)第2の要素は関係づけられ る先の情報資源である。最後の要素はこれらふたつを結び付ける名前づけられた 関係である。

属性指定を持たないDublin Coreでは、名前づけられた関係と対象情報資源に識 別子を明確に指示する構文を持たない。たとえば下に示すように、フリーテキス トで記述できる関係は人間にとってのみ容易に理解可能である。

「この文書はDublin Core Element Setの参照記述のフランス語訳文書である」

また同様に名前づけられた関係と識別子(たとえばURL)を指示するのに次のよ うに書くこともできる。

「IsBasedOn, http://purl.org/metadata/dublin_core_elements」

はじめの例は人間にとって読みやすく理解可能であるが、機械で情報資源間の明 確な関係を表す記述を解析するという目的には役に立たない。後の例の場合もフ リーテキストで表現してある。この例では、名前づけられた関係を定義している 文書は何かという暗黙のうちに必要とされる情報が含まれている。さらに、(た とえば、どのような区切り文字が利用できるのかといった)記述方式における慣 用的な記述構造が広く理解されていることも必要とされる。

属性指定付きのDublin Coreの場合、もう少し複雑な記述形式を必要とする。そ の場合、構造を持つエレメントや記述方式の指定が可能であるので、人間が読む ためであれ機械処理のためであれ、記述形式に基づいた意味の表現、あるいは内 容の理解が可能であるのでエレメントの記述能力は増すと言える。

関係エレメントに関するワーキンググループのドラフトレポート[RELATION]では いろいろな情報資源間の関係を包含するように多くの関係を示している。関係エ レメントを利用する応用システムを開発する場合には、特別な理由がない限りこ のレポートに示された関係を利用すべきである。属性値の記述形式が与えられた メタデータの記述が増えてくると、メタデータを利用するコミュニティがこのリ ストに新しい関係を加えたり、応用に合うように定義された関係の記述形式を与 えたりするようになることが予想できる。(記述形式の指定に関しては[DC-4]を 参照のこと。)

サブエレメント

属性指定を伴わないDublin Core (Unqualified Dublin Core)に関する定義が終 わった後、属性指定の定義を実際に進めていくための努力が始まろうとしている 。そこでの議論には、既に進められている実際のプロジェクトの中で用いられた サブエレメント(ならびにそれらを形式的に定義し、正式なものとしたいという 要望)や、Dublin Coreの記述精度を高めるために有用であると考えられる記述 形式に関する指定(scheme qualifier)にはどのようなものがあるかということが 含まれている。

サブエレメントワーキンググループは(初期の頃から進められたプロジェクトで のサブエレメント定義を基礎として)Dublin Coreの利用に共通であると考えられ るサブエレメントに関する定義を進めてきており、このグループのドラフトレポ ートも入手可能である[SUB]。

こうしたレポートは暫定的なものでありDublin Coreのデータモデルが成熟して いくにしたがって実質的に変化していく可能性はある。しかしながら、このレポ ートからDublin Coreの利用にとって多くの人が必要と考える付加的な機能がど のようなものであるかについて知ることができる。

Dublin Coreの形式的モデル

Dublin Core Element SetとW3CでのRDFの開発が並行して進められたことは両者 にとって有益であった。Dublin Coreは意味的な観点からRDFに影響を与え、逆にRDF はDublin Coreメタデータに対して総合的な基本データモデルの重要性を明確化 するという点で影響を与えた。変化があまりにも速すぎるともいえるWWW環境の 中では応用システムが長期にわたって生き残っていくことは困難であるともいえ る。現時点ではまだ完結していないけれどもDublin Coreの形式的データモデル の定義に関する研究を進めることは、合理的な形式でDublin Coreメタデータの エレメントを、複雑な記述形式の属性指定がなされたものも含めてWWW文書に埋 め込むための最善の方法を明らかにするために役立つ。また、その結果Dublin Core メタデータがWWW上で長期にわたって生き続けることができるようになる。

Z39.50

最近のZ39.50 Implementers Group (ZIG)の会議において、Dublin Coreの15エレ メントをBib-1 Use Attributesのリストの中に挿入することで合意した。これは 、Z39.50のversion 2と3のクライアントからDublin Coreエレメントを指定した 検索が可能になることを意味する。さらに、Z39.50 version 3ではDublin Core の属性指定や記述形式指定を検索質問中での利用方法に関する提案している。こ の提案を実現するには、Dublin Coreにおける属性指定や記述形式指定に関する 合意が得られること、ならびに新しいattribute setの構成方式に関する合意が 得られることが必要とされる。

標準化

Dublin Coreは学際的な情報資源記述のための第一候補として国際的に認められ るものとなった。Dublin Coreの実利用プロジェクトの広がりを見るとDublin Core の適用性の広さを理解することができる。しかしながら、こうしたプロジェクト だけではなくより広くDublin Coreの利用を進めるには正式な標準化が必要であ り、Dublin Coreの標準化を進めることとなった。

Dublin Coreの標準化は、いろいろな分野を代表する参加者による議論をはじめ てから既に3年近く経過した現在までに決められたもの、すなわち属性指定無し のDublin Coreからはじめることになる。これはDublin Core計画でのまとまった ひとつの成果であり、現在有用かつ安定したものであると認められている。また 現在の形式を信じるために十分な実際的な問題への適用例がある。

Dublin Coreを正式に定義する文書としてはInternet Engineering Task Force (IETF) に提出するInternet上での文書である。これは6ヶ月間の有効期限を持ついくつ かのWorking Documentからなっており、下記のような内容を含んでいる。

1. 情報資源のシンプルな発見のためのDublin Coreメタデータ

Dublin Coreの紹介と属性指定を持たない15項目のDublin Coreエレメン トセットの定義

2. Dublin CoreメタデータのHTMLによる記述形式

属性指定を持たないDublin CoreメタデータをHTML文書の中に埋め込む 際の記述方法に関する形式的定義

3. 情報資源のシンプルな発見のための属性指定付きDublin Coreメタデータ

エレメントの属性指定に関する原則と推奨される属性集合に基づいてDublin Core メタデータを記述するためのセマンティクス

4. 属性指定されたDublin CoreメタデータのHTMLによる記述形式

属性指定を持つDublin CoreメタデータをHTML文書の中に埋め込む際の 記述方法に関する形式的定義

5. ウェッブ上のDublin Core: RDFへの適合とDublin Coreの拡張

RDF (Resource Description Framework)に適合した属性を用いたDublin Core メタデータ、ならびにCoreエレメントセットの拡張方法の形式定義

これらの文書の内容が認められれば、この文書をIETFのRequest for Comments (RFC) 形式の正式文書にする。この文書は正式なものとして扱われ、長期にわたって有 効なものになる。

またこれと並行して、NISOでの標準化に関する議論がはじめられている。今年中 には属性指定のないDublin Coreに関するNISOでの標準化が進められると期待さ れている、これが計画通りに進めば、次のステップとして国際標準へと進むこと が期待される。

属性指定付きのDublin Coreに関しては種々の複雑な問題が残されている。属性 無しの記述だけでは表現が難しい内容を属性付きのメタデータとして表現し、実 利用を目的としたワーキンググループとプロジェクトが活発に進められている。 こうした活動が成熟し果実が実るころになると、これらはより広い範囲のコミュ ニティから注目され、標準化が考えられるようになる。

現状のまとめ

属性指定をしない基本エレメントのみのDublin Coreの意味定義はヘルシンキで 完了した。Finnish FinishはDublin Coreの最初の正式な標準化のための基礎で あり、より広い範囲でのDublin Coreに基づくメタデータの実現を進めるための 拠り所である。

属性指定を持たないDublin Coreはサブエレメントや名前によるデータの記述形 式の指定、およびその他の属性指定を伴わない15項目(あるいはそのサブセット )のエレメントのみからなる。この属性指定無しのDublin Coreの意味定義は落 ち着いたものであり、むやみに変更されることはない。しかしながら、実践利用 が進むにしたがって利用方法の標準は変化していくことになるであろう。

属性指定付きのDublin Coreに関しては当面実験的な努力が続けられることにな るであろう。拡張性の問題、データ記述形式指定(scheme)やサブエレメントの導 入、相互利用性とより強力な記述能力という相反する要求に対する対応など、今 後解決していかねばならない問題が多く残されている。こうした問題を解決する には基本的なモデルに関するより深い研究と実世界での実践的利用から得られる 経験が必要である。

第5回ワークショップ(DC-5)では、属性指定を伴ったより豊かな意味の表現が 可能なDublin Coreの定義を行いたいという期待を満たすことを目的としてサブ エレメントとschemeに関する基礎的な検討が進んだ。こうした問題に関するワー キンググループは、実際に進められているプロジェクトの成果から多くを学びな がらこれらの問題に関する検討を進めている。

RDFの記述形式定義はヘルシンキにおいて、あらゆる種類のメタデータ記述のた めの能力の高い有望な方式として積極的に受け入れられた。ヘルシンキ以降、RDF の開発はさらに進められ、最新のドラフトレポートが2月には報告された[RDF-1] 。ウェッブの基盤にとって非常に重要な要素であるRDFが成熟していくと、ウェ ッブ上でメタデータの実利用を進めるために活用できる道具立てが完璧なものと なっていくであろう。一方、HTML2.0およびより記述能力の高いHTML4.0でのメタ データの埋め込みは有効であり、またこれからも有用でありつづけるであろう。 しかしながら、RDFモデルは埋め込み型のメタデータのみならず、より重要な記 述能力の高いより洗練されたメタデータモデルをウェッブ上で実現していくため に役立つものとなろう。

RDFの開発がさらに進むことは、Dublin Coreの基本的なデータモデルの開発を進 めるきっかけとなるであろう。データモデルを形式的に定義することは、1対1原 理、部分構造(schemeとサブエレメント)の表現、schemeとサブエレメントの登録 といった、現在Dublin Coreのコミュニティで問題となっている主要な問題の多 くを解決するために役立つことであろう。

ヘルシンキでは多くの問題が解決され、また新たな問題が認識された。技術的基 盤が成熟し、メタデータを作成・管理するための道具が作られてきた。そのため 、重要な点は我々が今後対面する最も難しい問題は技術的なものではないことを 忘れてはならないことである。Dublin Core計画の成功の鍵は、推奨される標準 的な実践方法を目にみえるものとし、また生み出された成果を新しい環境に受け 継ぐシステムを統合されたものにするための首尾一貫したビジョンが広く理解さ れるように努力することであろう。

世界的なネットワーク化によって我々の手の届く範囲は広がった。しかし見える 範囲はそれほどは広がってはいない。Dublin Core計画は我々の視界を広げるた めに役立つ世界的、学際的な情報資源の発見のための基盤を形成してきた。その 成功は、Dublin Coreに参加した人々のフラストレーション、不一致、悩み、共 通点を見出すための言葉の違いを越える努力の結果であるといえる。これは成功 裏にはじめられた仕事と言えるであろう、一方まだ多くの仕事が残されていると もいえる。

謝辞

ヘルシンキ・メタデータワークショップはフィンランド国立図書館、OCLCならび にCoalition for Networked Information (CNI)の共催によるものであった。

各自の組織から資金を得て参加した多くの参加者とともに、多くの参加者の旅費 が全米科学財団(National Science Foundation, 科学基金)、OCLC、およびCNI から提供された。

Dublin Coreの開発はたくさんの人が集まって進めることができたものであり、 この報告は多数の人の知的な努力によってやっと達成されたものである。そのた め、名前をあげるだけでは十分に感謝の意を表すことはできない。しかしながら 、多くの人達の中でMisha Wolf、David Bearman、Simon Cox、John Kunzeにはこ のレポートを仕上げるに当たって非常な貢献をいただいた。ここに感謝の意を表 したい。

より詳しい資料

The Dublin Core Homepage

Dublin Coreおよび関連するメタデータのプロジェクトに関するこれまで、なら びに現在の開発に関する情報を集めている。

<http://purl.org/metadata/dublin_core>

参考文献

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