富田 正弘
富山大学人文学部
富山市五福3190
(0764)-45-6157
tomita@hmt.toyama-u.ac.jp
ここでは富山大学附属図書館に所蔵されている川合文書に着目し、WWWブラ ウザから目録と画像の検索/表示を行うことのできるシステムの作成について 述べる。
文学や古典または歴史などの人文社会系の研究者の研究生活においても、 研究者同士の情報交換や資料の入手には、ネットワーク(主にインターネット) を介して行うことができるということが必修になってきた。
特に図書館は人文社会系の研究者にとって非常に重要な情報源であるとされてい るが、早くから情報処理及びネットワーク設備を介した利用に着目しており、中で もOPACの導入は図書館電子化の基盤整備の先駆けとなり、図書館利用の手段の1つ として定着した。
アメリカでも、6大学を中心とする電子図書館プロジェクトが国家情報基盤 (National Information Infrastructure)上に展開するプロジェクトとして、1994年 から4年計画で総額2,440万ドルの助成を受け進められている。[2][3]
日本では、国立国会図書館、情報処理振興事業協会 [4] 文部省学術情報センター[5]、京都大学[6]、奈良先端科学技術大学院大学[7]などの 機関でディジタル図書館の開発が進められているが、その他地方の各大学においても、 附属図書館のディジタル化の一環として、古文書や絵図などの貴重資料をディジタル 化していこうという動きがある。
富山大学には、ラフカディオ・ハーン(帰化名:小泉八雲 1850〜1904)の 旧蔵書である"ヘルン文庫"、加賀藩砺波地方の農政の記録である川合文書と菊地文書、 旧砺波郡鷹栖村の幕末以降の村政記録である鷹栖文庫などが附属図書館に所蔵されて いる。過去に研究者等によって旧文書をテキストのコードに置き換えられ出版された ものもあるが、歴史や文学の研究や調査においては、他人とは違った解釈をする可能 性があり、これらの2次資料では十分な研究・調査が行えない。
資料の現物の閲覧や撮影(もしくはそれに代わるもの)は研究者にとって必須であ り、大学側はこの需要に答え広く資料を公開すべきであるが、状態維持という点から 見ると、閲覧時の汚損の他、保管状況や気温・湿度の影響が原因の汚損によって状態 が悪化した資料も多く、なるべく現物を厳重保管しておきたいというのが実情である。
ここで注目すべきディジタルデータは、劣化することがないので現状を保存するの に大変都合がよい。またインターネット上でのやり取りができるため、遠隔地からも 即時に参照することができる。またどのような内容の資料があるかを知るために最も 効果的な方法として文書目録のデータベースが挙げられる。
以上の背景を踏まえ、現物資料の保護と現状の記録、大学の持つ貴重資料の公開に よる研究者および一般閲覧者の時間と労力の節約を目的として、目録の検索とディジ タル画像データベース検索をWWWブラウザから同時に行えるシステムを作成し、題材と して富山大学附属図書館の所蔵する川合文書を取り上げた。
Fig.1 川合文書
ハードウエアには IBM RS6000 F30 を用い、155Mbps ATM幹線につながるEthernet SwitchingHUBの10Mbpsのイーサネットポートに接続している。DBMSの部分には フリーウエアのリレーショナルデータベースシステムMsql2.0.3を用い、WWWブラウザ からのデータベースへのアクセスにはCGIを採用している。
データベースは検索に使われる項目のほか、文書の管理・整理を行うのに必要な58の 項目が格納されており、そのうち検索画面からは
とこれら全項目をキーに検索を行うことができる。キーワードをもとに検索し得られた 結果の一覧から詳細ボタンを押すとその文書について、詳細の表示がされる。このとき 同時に画像データも読み込まれ表示される。画像データは100dpiの精度でフラットベッ ドスキャナにより撮影が行われており、ブラウザのウインドウの横幅にあわせて画像が 納まるよう表示されるようにした。
Fig.2 URL: http://mirror.toyama-u.ac.jp/Kawai/
Fig.3 キーワードをもとに検索した結果の例
Fig.4 文書の詳細表示の例
まずはコンピュータおよびネットワークへの利用価値については、すべての回答者 から「利用したいと思う。」「利用すべきである。」もしくは 「すでに利用している。」との答えが得られ、コンピュータに関して嫌悪感を持ってい る研究者が学内にはほとんどいなくなったのではないかと判断できた。すでに利用して いる研究者の主な使い道は電子メールによる情報交換やWWWによる情報公開、図書館OPACの利用、学術論文の検索などが中心になっている。
現在の資料の取り寄せ方法や利用については、「図書館、文書館などで直接見る。 もしくは複写する。」「現物を見に行って写真撮影をする。」というように直接現物 のあるところにまで出張していくという方法のほか、「マイクロフィルムを取り寄せ る。」「複写の依頼をし郵送もしくはFAXで送ってもらう。」など複製を取り寄せる 方法が主流であった。なかには「CD-ROMで取り寄せる。」「インターネットで見る。」 など既にディジタルデータの入手をしている研究者もみられた。
次には電子メールによるアンケートで、インターネットの利用頻度と電子図書館や データベースへの関心度を調査した。対象者は富山大学の人文学部と教育学部の文科系 学科の研究者に対し行った。24人の研究者から回答が寄せられたが、紙のアンケート 用紙で調査を行ったときには、約3週間で27人の回答が得られたのに対し、電子メー ルによるアンケートの場合は、アンケートを送信した当日のうちに17人からの返事を 得ることができ、24人分の回答は4日で得ることができた。
アンケートは、電子メールの送受信の頻度(1週間に送受信する数)、WWWを見る 頻度、OPACを利用する頻度と、電子図書館及び貴重資料のデータベース等のシステムに対する期待度、関心度を自身で10段階評価してもらうという形式をとった。
電子メールによるアンケート項目の概要は以下の通りである。
(点数の目安)
10点.....すべての蔵書に対してディジタル化に賛成。著作権などの規則についても ディジタル化に対応していくべきだと思う。
5点.....ディジタル化に賛成。データベースがあれば利用したい。
1点.....ディジタル化には反対。図書館には、先にもっとすべきことがある。
Fig.5 電子メール利用頻度と電子図書館への関心度
Fig.5で分かる通り、メールを頻繁に使うユーザはシステムへの関心度の低い領域には 現れなかった。WWWやOPACに対する利用頻度を横軸にとったものもほぼ同等の結果が 得られている。インターネットを良く利用するユーザほど、どのようなことがネット ワークによって可能になるかを理解しているので、電子図書館やデータベースに対する 期待も大きくなるのだと考えられる。
一方で、著作権や出版権などを気にする研究者も多く、上記の10段階評価で5を付けた 回答者のほとんどは、法規に触れるのではないかという点が最も気になるとしており、 古文書や古美術の写真のうちこれらの権利についてパスできるものをディジタル化し ていけばよいという意見が多く寄せられた。
更に研究資料の入手が比較的困難であると想定される4人の研究者に対してシステム の説明をし意見を求めたところ、
等好意的な感想が得られた。
またディジタルデータおよび本システムの欠点として、
などの点が挙げられた。
100dpiの精度については、端末の能力によっては読み込みに時間がかかって利用者の ストレスになる場合もみられた。端末によって読み込む画像のdpiが変わるようにして ほしいという意見もあった。
一次資料を画像データとしてインターネットで見れるようになることで、遠隔地の研 究者には大変便利になると思われる一方、場合によっては東京などの中央にいたほうが 一次資料以外の情報を集めやすいという事情もあり、研究者同士の研究テーマの重複 が頻繁に起こってしまうケースが増え、研究者の地方離れが進んでしまうのではない かという懸念もあった。
そのような背景で、なじみやすいGUIであるNetscapeやInternet Exproler等のWWW ブラウザをデータベース利用のためのインターフェイスに選び、必要最小限の項目を 検索項目として選んだことは現段階で最良の方法であった。また目録のみを扱うデー タベースを用いるとき、検索の後で閲覧や文献の複写(もしくは取り寄せ)をしなけ ればならないが、本システムでは文書に関する情報と同時に画像を表示させることが できるので、一度の手間で実物の様子を伺うことができるという点がかなり有効で あった。
問題点としては、手触りや微妙な色使いなどが分からない点が挙げられたが、本デー タベースの画像は100dpiでスキャンニングを行ったので、どの程度の精度で撮影した場 合に、どのような研究者の用途に見合った画像になるかという調査が今後必要であると 思われる。
しかしディジタルデータ表示が実物の閲覧に比べて優れている点がある一方、やはり 触覚や人間の目でしか判断できない場合には、実物の閲覧も必要である。ディジタルデ ータを100%実物の閲覧に置き換えることは不可能であるが、いかに歩み寄れるか今後 の課題となる。
またこれと矛盾した問題となるが、地元研究者の利点を重視しなければならないとい う意見と、競争による分野全体のレベルアップをはかるためにも公開するべきという意 見とのやり取りの今後の展開も注目する点である。
技術的な面では、パラパラと繰って「全体性」をつかんだり、思わぬ発見をしたりす る「掘り出し物的発見」がOPACなどの目録データベースが紙のカード目録よりも未熟な 点であると言われているが[11]、この機能に変わるものをデータベースやブラウザに備 えてゆく必要がある。またマウスで囲った部分の画像の拡大なども研究材料として利用 する場合に必要な機能である。拡大に耐えうる画質のデータを用意すること、ハードデ ィスクの容量確保のための画像圧縮などの技術向上も課題として挙げられる。
目録カードと比較してブラウジングの点で劣る点も見られたが、現物の状態保護に有 効であること、遠隔地からの利用が可能なこと、研究者の資料探索に要する時間が短縮 されることなどが期待できるようになった。
今後更に利用者のニーズにあったシステムに更新していく必要があると考えられる。
[2] 杉本雅則,片山紀生,越塚美加,神門典子,高須淳宏,安達淳, 世界の電子図書館の研究動向について, 学術情報センター紀要,1996,pp.221-pp231
[3] 竹内秀樹, 米国図書館界におけるディジタル情報の保存をめぐる動向, 月刊IM'97年8月号別冊,1997
[4] パイロット電子図書館, URL: http://www.cii.ipa.go.jp/el/index.html
[5]学術情報センター電子図書館サービス NACSIS-ELS, URL: http://www.nacsis.ac.jp/els/els-j.html
[6] 京都大学 Electronic Library URL: http://ariadne0.kuee.kyoto-u.ac.jp/
[7] 奈良先端科学技術大学院大学 電子図書館システム URL: http://dlw3.aist-nara.ac.jp/
[8] 田川捷一, 加越能近世史研究必携, 北国新聞社,1995
[9] 富山県大百科辞典, 富山新聞社,1976
[10] 名和小太郎, ディジタル図書館と著作権, 情報処理,1996,pp.857-860
[11] 越塚美加, 文献のブラウジングが研究課程に与える影響 学術情報センター記要,1996,pp.131-142
[12] 波多野宏之, 国立西洋美術館における西洋美術研究支援アプリケーションツールの評価, 情報処理学会研究報告 Vol.97,No.48,1997,pp.31-36
[13] Huges Technologies Web Site, URL: http://www.Huges.com.au/