*中国政府派遣外国人研究員として、1995年10月5日から派遣されて図書館情報大学に滞在中。
中国の図書館コンピュータ化の発展はソフトウェア“ブーム”、システム“ブーム”、ネット ワーク“ブーム”の三段階を経てきた。そこで、本論文では、2節で、中国における図書館のコ ンピュータ化の現状を、3節で、中国のネットワークの現状を述べる。最後の4節で、今後の展 望と発展、それに必要な五つの要素を提案する。
中国の図書館のシステムは開発あるいは導入の経緯によって少しずつ異なる為、その数は数え られない程多く、またこれらのシステムが権威によって鑑定されて、高い評価を得ている。(中 国の体制は研究成果の公開前に必ず権威による評価を済ませる必要がある。)しかし、中国の図 書館のコンピュータ化の発展には部門と地方によって不均衡がある。大学、都市部の大規模図書 館では、日本の中小の図書館よりコンピュータ化が進んでいる所がある一方で、辺地ではコンピ ュータ化が行われていない図書館が多く存在している。
本論文では、科学図書館、公共図書館、大学図書館の三種類の図書館について典型的な例を以 下に挙げてコンピュータ化の現状を紹介する。
・オンライン情報検索
DICCAS は国外のSTN 、DIALOG 、DATA-STAR等国際的なオンライン検索システム及び 国内の中国科学院技術研究所と化学工業部(日本の省に当たる)技術研究所のシステムとも接続 しており、ユーザーの迅速、便利なオンライン及びCD-ROM情報検索サービスを提供している。
・新規オリジナル成果のチェックに関するサービス
当センターは、国家一級の科学技術成果のチェックと問い合わせ機関であり、科学院内外の利 用者のためにテーマの設定、成果の申請、鑑定等の全面的かつ系統的な文献検索サービスを行う ことが可能である。
・情報調査研究の関するサービス
中国科学院と国家関係機関に企画の設定、政策の決定と確立及び科学情報の研究に資料を提供 するだけではなく、中国科学院及び各研究所に対し、担当する重要科学研究プロジェクトの関す る情報と調査、研究報告を提供している。
・情報問い合わせに関するサービス
科学技術情報の問い合わせとその応用、仲介と譲渡等の科学技術研究成果の転用を行なってい る。
・文献データベースのサービス
本センターによって構築された科学文献データベースは、広範な利用者に国内の科学技術文献 の検索及びその計量分析サービスを提供することが可能である。
北京図書館は中国の国家図書館である。図書館のシステムは図書館独自によって開発されたも のである。1991年11月から、発注、受け入れ、貸出、返却などに利用している。現在図書 館ではMARC はLC MARC、Japan MARC、J-BISCを利用している。また、書誌情報ユー ティリティとして、OCLCを利用し、図書館専任職員によって目録作成を行っている。さらに、 それらのMARCを利用して、図書の選択、貸出・閲覧に役立てている。雑誌では、目録作成の みにコンピュータを利用している。
広東省中山図書館はIBM AS/400を使用して広東省図書館のシステムを開発して、1991年 から全面的に利用している。
シンセン(中国の経済特別地区)図書館はMicrocomputer Multi-userシステムを開発した。 これは160余りの図書館でも使用されている。
北京大学図書館はDEC VAX11/750機を利用して1991年にPULROSと言うシステムを開 発して、図書館の各部門で応用している。このシステムはレコードの数が10万以上ある。VAX を用いているたくさんの図書館もこのシステムを導入している。
清華大学図書館は富士通の図書館システムを導入して稼動している。同時に、独自でNOVELL ネットワークの検索システムを開発して、全校のユーザにサービスを提供している。
北京師範大学図書館の学内の利用機種は「SUN 4/330 」、「SUN 4/75」、端末機「DEC PC」、 「IBM PC」を導入している。利用ソフトウェアは図書館独自で開発したLiBridgeである。コン ピュータ利用の開始は次のようになっている。1992年に目録、1993年図書の貸出・返却、 1994年予算管理、図書の選書、発注、目録検索を導入している。雑誌については、1995 年に予算管理、選書、発注、1996年に目録を導入している。
上海の復旦大学では、図書館の専用機はFujitsu-K670Si/20である。コンピュータの利用開始 は、図書については、1993年に目録と貸出・返却、1996年には予算管理、発注、受入、 目録検索と言うようになっている。同館では書誌レコード作成にあたって、LC MARCと CN(中 国) MARCを利用している。また、「DIALOG」も使っている。
上海交通大学は80年代末HP/300を利用して、図書館管理システムを開発して今も絶えず発 展している。
シンセン大学のMicrocomputer LAN Libraryシステムも次々バージョンアップして洗練され たシステムの一つになって、100以上もの図書館で利用されている。
1)中国公用ネットワーク
郵電部(日本の郵政省に当たる)は92年に「中国公用分組交換データ網」:CHINAPAC(China Public Packet Switched Data Network)と「中国数字データ骨幹網」:CHINADDN(China Digital Data Network) を作り始めた。そしてそれぞれが1993年9月と1994年10月22日から 利用できるようになった。CHINAPACは中国の700余りの都市をカバーしてアメリカ、イギ リス、カナダ、フランス、日本等23国の45個のネットワークと接続している( Table 2 参照)。 回線速度は最高256Kbps。一方、CHINADDNは中国の100%に近い都市と一部分の県(日 本の町に当たる)をカバーして、アメリカ、日本、香港等に接続している。回線速度は最高2 Mbps。
2)全国の教育と科学研究の為のネットワーク
1989年から開始された「中国教育と科研計算機網」(CERNET: China Education and Research Network[6])(Fig.1 を参照)は中国教育委員会と 計画委員会が実施している。1994年〜1996年の間10カ所程度の一流の大学だけ が接続した(Fig.2 CERNET Backbone[7]を参照)。この ネットワークのセンターは清華大学である。
CERNETの管理者の予測[8]によれば、全国1075大学の中で、96、97年に100ヶ 所程度の大学がCERNETに接続し、その後の5年間の内に残りの大学が接続し、全高校39, 412校と全小学校160,000校も接続すれば、将来CERNETは世界一の教育・科学研究 ネットワークとなる。
3)地域ネットワーク
北京地区の「中国教育科研(科学研究の省略)示範(模範を示す)モデル網」:NCFC (the National Computing and Facilities of China)[6]は国家計画委員会によって世界銀行の援助を 受けて作られて1993年12月から利用されている。1994年4月にインターネットに接続 した。このネットワークの目標は「地区実用化、国内示範、国際聯網」である。北京に中国科学 院の30余りの研究所のLAN(CASnet-the Chinese Academy of Scineces)と北京大学 LAN(PUne-Peking Universty)、清華大学LAN(TUnet-Tsinghua University)と接続している。 回線速度は10Mbps。次のプロジェクトは100Mbpsに高めることである[9]。
郵電省は中国公用Internet-Chinanetによって Internetとつなぐサービスを提供している。 つなぐ方法がいろいろあり、例えば CHINAPAC、CHINADDN( Fig.3利用者CHINAPAC接続概念図[3]とFig. 4利用者 CHINADDN使用業務図[4]を参照)等によってである。基本的なサービスは e-mail, telnet, ftp, gopher等である。
中国科学院123分院によるネットワーク:このネットワークはいわゆるCASnetを広げたも のである。これを利用して科学研究の情報を検索できる。
広東地区公共図書館ネットワーク:広東中山図書館を核としてCHINAPACと電話網を通じて 各図書館は接続している。
なお、北京大学図書館、清華大学図書館、国家図書館、上海における大学図書館などはInternet に接続して、国際ネットワークのノードになった。国家情報センター元副主任Wujiapeiは[10] 20世紀末、中国のノードの数は少なくとも何十万に達して、ユーザは100万以上まで増えて 行くことを推測した。
世界規模の情報ネットワークが普及する今日にあって中国がこの取り組みを実現するために は下の要因が係わってくると我々は考える。
(1)中国の図書館コンピュータ化研究に対する姿勢から見て諸機関は情報政策で孤立化を避 け、必ず、全国的な発展計画が定めたように、統一管理、協力すること。
(2)データベースを構築するために、システムの標準化と漢字処理の技術問題を解決し、全 国的ネットワークを実現すること。
(3)全世界でのシステム開発における先駆的な成果を踏まえるとともに中国におけるこれま での知識、経験を生かし、汎用性の高いソフトウェアを開発し、中国で収集、生産、蓄積された 学術的、価値の高い文献を電子化し、データベース化し、国内の研究者への情報提供は勿論イン ターネットを介して全世界に向け情報発信すること。
(4)図書館機関の基盤整備に投資を増やすこと。
(5)館員の知識を更新すること。
[2] Shen Ying,Zhang Jianyong:A Survey of the Development of Library Automation and Networking in China. 図書情報仕事. No.3, 1996, pp.24-27.
[3] 郵電部データ通信局:CHINAPAC中国公用分組交換データ網. 4p.
[4] 郵電部データ通信局:CHINADDN中国公用数字データ網. 5p.
[5] <URL:http://www.cnc.ac.cn/cnnic/info/survey.html>
[6] <URL:http://www.edu.cn/cernet/>; <URL:http://www.cernet.edu.cn/>
[7] <URL:http://www.edu.cn/cernet/map.html>
[8] <URL:http://www.edu.cn/cernet/scale.html>
[9] Dongxiaoying, Lixiaoming: 中国における大学図書館の現状と展望. 図書館仕事, No.2, 1996, pp.9-11.
[10] Wujiapei: 中国社会科学情報学会の第三回代表大会における演説. 図書館・情報・資料仕事. No.12, 1996, pp.45-51.