インターネットからの利用を考慮した図書館システム
                        ――帝京大学理工学部図書館の場合

         武井惠雄*1,高井一男*2,荒井正之*1,渡辺博芳*1

     *1 帝京大学理工学部情報科学科,*2 帝京大学理工学部図書館,

                                 概  要
  京大学理工学部図書館では,インターネットからの利用を考慮した図書館システムを,今秋
の稼働を目標に構築中である.そもそもの目的が,本学と提携している英国の大学からの当地
の遠隔教育にあり,従って,何はともあれ,"インターネット見える" ことが必須の条件で
あった.ここでは,このような件に対応すべく考慮したこと,また,これからの問題点など
について報告する.


                      An Accessible Library from Internet
          --A case of  Teikyo University Utsunomiya Campus Network--

       Shigeo Takei*1, Kazuo Takai*2, Masayuki Arai*1  and Hiroyoshi Watanabe*1

            *1   Dept. of Information  Sciences, School of Science and Engineering, Teikyo University 
            *2  Science and Engineering Library, Teikyo University

                                  Abstracts
 Teikyo University  plans the new type of the  library system  for School of Science and Engineering at 
Utsunomiya Campus.  The first aim lies in ensuring  accessibility from Internet and realizing the remote 
education between Cranfield University in UK and  its graduate school  newly settled in the Teikyo
Utsunomiya Campus.  The  second aim lies in constructing  the utilizable system for library services and
providing services for not only the campus but also the outside. Therefore, we plan to construct a
completely open and very slim system by using TCP/IP protocol and  minimizing functions. This paper
reports details of the plan and  future works. 


                                   キーワード
インターネット, UNIX,  X-Window, MS-Windows,学術情報センター,帝京大学理工学部
図書館


1.沿革――初めに目的ありき
  本学理工学部(栃木県宇都宮市)に,英国のクランフィールド大学(Cranfield University)の大学院修士
課程が置かれることとなった.これは,本学の国際化推進策の一つとしての海外の大学との提携の一
例である. 
  同大学はロンドン近郊にあって,約四千人の学生の大半が大学院学生という大学で,工学を中心に
産業界との共同研究などで実績をあげており,昨年まで Cranfield Institute of Technology  と称してい
た. 
 その準備段階で,横堀武夫理工学部長から,「同大学の教授陣が,帝京大学理工学部図書館の所蔵
の学術図書を,彼の地で検索する要望が出されている.併せて遠隔教育のために有効な手段・方法が
必要である.可能か」というお話が著者の一人にあった.
  本学部では,キャンパスネットワークは既に出来ており,1993年からric-tsukubaに加盟してインター
ネットにも接続していたので,答は「可能である」の一言であった. 

2.図書館システムの目的の設定
  前記の理由から本学部図書館のインターネット化計画が始まった.しかし実は,本学部は平成元年
度創設になる新しい学部であって,図書館システムというものがなかったことをここで明言してお
く.
  そこで,本学部の図書館システムの目的を次のように明確に決定することが出来た.

    "インターネットからの利用を前提に,且つ,図書館業務からみても使い易い「新しい形の
     図書館情報システム」を構築し,学内外にサービスをする".

  これが1992年の晩秋のころであった.

3.図書館システムの立案の過程
  この計画が始まるまで,本学部の図書館には,「図書館システム」というものがなかったことを前
節で述べた.だが,この点は,実は大いなる幸いであった.なぜならば,調査を始めてから実感した
ことであるが,大学図書館では,従来システムにしばられて,新しい姿に移行するのに困難を覚えて
いるところが多いようなのである.この点を,インターネット対応ということに的を絞って列挙する
と次のようになる. 

   1.使用している計算機システムの制約からインターネットに対応するのが困難
   2.図書館システムが図書の全業務を抱え込んでおり,システムの移行が困難
   3.図書館システムの独自性が強すぎて,学内ネットワークへの適応が困難
   4.インターネットを支える技術者がいないか,協力が得られないための困難
   5.専門の図書館員からみて,機器操作が煩雑で長期的対応が難しいための困難
   6.意欲的な図書館員の自発的努力がシステム運用に反映できないための困難

  これらはいずれも,大型コンピュータとか,パソコンとかが抱えて来た問題点が顕在化したもので
あり,一言で言えば「ネットワーク時代以前」のシステムと考え方に起因するもの,と言えよう.わ
れわれは幸いにしてこれらの困難からはフリーであった. 
  ところで,この計画を進める上で,もう一つ重要なことがある.それは,現代の大学図書館は,文
部省学術情報センターの「学術総合目録データベース」なくしては考えられない点である. 
  図書館システムの準備に際し,蔵書データベースの構築がもっとも労の多い仕事であるが,その構
築において,学術情報センターの存在を抜きには考えられないといっても過言ではない.もちろん,
図書館利用者に対するサービスにおいてもそうであり,同センターのNACSIS-CAT(図書目録;所在情
報)およびNACSIS-IR(文献検索)のシステムの利用の重要さを落とすことは出来ないが,図書館システ
ムとしては,前述の蔵書データベースの構築の方が重要である. 
  実は,われわれが新しい形の図書館システムの構築に取りかかれたのは,学術情報センターのユー
ザ・インターフェイス・プログラムのunix版の仕様が,1993年春には公開され,それに対応する各社
の図書館システムの準備が始まっている,という情報を得ていたからである.これは現在,
X-UIP(User Interface on X-Window) として自由配布されている. 
  以上のことを前提に,TCP/IPを通信プロトコルとして持つ完全なオープンシステムを構築するこ
と,付加機能も,そのことを前提として,可能なことだけを取り込んでいこうという計画にした. 
  具体的には, unix ワークステーションをサーバ・マシンとして全体の管理とデータベース管理に
当たらせ,それだけでは使い勝手が悪くなる可能性があるので,同じくTCP/IPをプロトコルとするパ
ソコンを配して,同一の通信環境,同一のGUI環境を持たせることで,図書館システムを実現させる
ことを計画した.こうすることによって,インターネット上のワークステーションやパソコンから
(場合によれば大型機からも)アクセス出来るようになるばかりでなく,取得した検索結果などを,通
常の電子メールに添付して自在に活用する道が開けることとなる. 
  また,こうすることによって,大型機やオフコンの時代から引きずってきた複雑な「図書館機能」
を整理することができるので,スリムでオープンなシステムとなり,財政面から見ると廉価な構成に
出来るだろう,という見通しを得た.この点は,学部長および図書館係長からも積極的な賛同を得る
ことが出来た. 
  さて,1993年が明けたころ,国内各社に電話作戦を開始し,unix対応のシステムを手がけているこ
と,従来型の重いシステムの踏襲ではなく,新時代に対応する姿勢を持つところ,なかんずく,早期
完成をめざしているところを探した. 
  結果的に,伊藤忠テクノサイエンス(株)が,上記の三条件に合致した開発計画を進めていることを
知り,具体的な話し合いに入った.実際のところ,同社の開発になる図書館システムCILIUSが提供し
得るものの一部を納入して貰うことで,本学部の計画の第一段階は実現することが判明し,契約し
た.


4.導入する図書館システム
  まず図.1「全体構成図」を参照いただきたい.
  ワークステーション(記号 WS)は,
        (1) サーバ・マシンとして全体の管理
        (2) データベースシステムの構築・更新・維持・管理
        (3) キャンパス・ネットワークへのサービス管理
を行う.具体的には,Sun SparcStation 10/40を中心とするシステムであり,OSは,現在は SunOS4.1.3
であるが,いずれSolaris 2.3(unix SVR4系のOS)に移行する予定である.
  パーソナルコンピュータ(記号 PC1&PC2)は,図書館基本業務および図書検索業務に対応するもので
ある.PC1,PC2とも製品はCOMPAQ DESKPRO 4/66i で,OSは,DOS/V & MS-Windows である.
データベースの初期作成段階では,これらはいずれも登録作業に用いられるが,定常状態になれば,
2台のPC2は図書館の閲覧室で,いわゆるOPAC(Online Public Access Catalogue ;目録検索サービス)の
サービスマシンとして稼働する.
  図.2は上述のことを,コンピュータ・システムとして見た場合の構成であり,図.3はキャンパ
ス・ネットワークの概要を示す.
  ワークステーション(WS)は,図書館システムCILIUSのサーバ・マシンとして,全体の管理とデー
タベースの維持・管理を行い,パソコン(PC1 & PC2)は,クライアント・マシンとして図書館員によ
る図書館業務を遂行する.パソコン上では,見やすいビジュアルな画面で,登録や検索その他の仕事
が行える.WSおよびPC1 & PC2とも,学術情報センターに直接アクセスして,図書情報の登録・検
索を行うことが出来るのはもちろんである.
  さらにこの図書館システムCILIUSは,通信プロトコルTCP/IPをもつオープンシステムとして構成
されるので,インターネット上の任意のマシンからのアクセスが可能である.この機能こそが,クラン
フィールド大学との遠隔教育に役立つ.すなわち,彼の地からの本学図書情報へのアクセスを可能
にする.  

5.計画の進行と今後
(イ)夏一杯;
  現在,データべースの構築中である.作業は,学術情報センターに既に登録しておいた本学部図書館
の情報の引きだしと,局所情報の付加,バーコードの貼りつけであり,洋書および洋雑誌から進めてい
る. 
(ロ)秋には;
  洋書・洋雑誌の一応のデータベースが出来た段階で,利用者からの検索等に応じることが出来るよう
にする.このサービスは,国の内外を問わない.クランフィールド大学からの利用もこの時期には出来
るであろう. 
(ハ)引き続いて;
  ついで,その他の図書の登録が進むと,一貫した図書館業務システムとして機能するようになる.例
えば,和書を含めて,図書を受け入れた時点で館内登録と学術情報センターへの登録が同時に済み,検
索対象として開放されることになるので,「収書業務」「閲覧業務」「管理業務」「検索業務」の歩調
がそろう. 
  なお,いわゆる「発注業務」「支払い管理業務」や,固定的な「統計業務」はこのシステムには含め
なかった.これは,「何でも電算化」でない方がよいこと,また,必要に応じて統計をとるなどの作業
は,図書館員の自由を確保した方がよいと判断したためである. CILIUSはエンドユーザ・コンピュー
ティングが可能なシステムなので,これらの仕事は,一般的なスプレッドシートのアプリケーションな
どを使用することを考えている. 
(ニ)発  展;  
  さらに,これからの図書館としては,図書収蔵と閲覧というだけに止まることなく,インターネット
上でのユニークなサービスが望まれるところであり,これについては,適切なserver の立ち上げなどを
行って,国際的にも知られる「帝京大学の図書館」となるように,努力して行きたい. 

6.現状で気づいている問題点
  検索を行う際に,unixワークステーションに,学術情報センターから自由配布されているX-UIP(User
Interface on X-Window) を搭載して使用するするならば特別な経費はかからないが,パソコンではそうも
いかない.かといって,ターミナルモードでの利用は,すべて文字モードであるので,使用感に問題が
あるかもしれない. 
  CILIUSが提供するGUI(Graphical User Interface)(図.4,5)を使用すれば,図書館内とまったく同様に画
面モードで使用出来る.情報検索という仕事は,実はヒューマン・インターフェイスが重要なものなの
で,このような環境がどこにでも用意されることがのぞましい.ただし,これは単体ソフトウェアとし
て販売していないので,今回図書館に納入する分以外のものは,本学部で別途契約する必要がある.こ
れを単体で販売をするように,と同社に勧めているが,その見通しは立っていない.
  またこれは, MS-Windows上で使用するソフトウェアであり,日本語だけでなく,英語版を作るように伊藤
忠テクノサイエンス(株)には勧めている. 
  さらに別のことだが,本学部でも,いわゆるCD-ROM検索のサービスの要求が出てくるだろうと予期してい
る.医学分野などでは,図書館利用の大部分がCD-ROMによるMEDLINEの検索であるという報告*3)があるが,
しばらくの間,この種の要求が増えるだろうと思われる.CD-ROMという限りなく個人的な媒体を共同利用す
ることの是非はあるが,利用の要望には答えなければならないだろう.もちろん機器構成としては可能なよ
うにしてあるが,理工学部という性格から,多数のデータベースに対応することになろうから,数十Gbytes
の容量の専用のデータ収納器が必要になるだろう.


注:
*3) 谷澤滋生 東京大学図書館のネットワークとUNIXをベースとした新システム紹介,医学図書館 1994; Vol.41,No.1.



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