研究組織としての「ディジタル図書館ネットワーク」

              田畑 孝一

            図書館情報大学
       305 茨城県つくば市春日1ー2
   tel.0298-52-0511 fax.0298-52-4326 tabata@ulis.ac.jp

                  概要

‘情報資源共有の原則’に基づき,参加者の相互協力によってディジタル図書館に関する研究を進
める研究組織「ディジタル図書館ネットワーク(DLNET)」の形成を提案する.
 情報資源共有の原則とは,誰もが自由に自分の著作物を公開するため,それを所蔵できるディジタ
ル図書館を個人または共同で設置し,相互に結ばれたそれらの全てのディジタル図書館が保有するあ
らゆる著作物の本文を無料を原則に誰もが読むことができる.誰もが原著者に断りなく上記の著作物
の写しを別のディジタル図書館に収集・蓄積し,本文そのものあるいはそれからの抽出情報を非営利
目的で第三者に提供できる.同様に上記の著作物から情報検索情報および所在情報を作成し,非営利
目的で第三者に提供できる.また,上記の著作物の本文は誰もが原著者に断りなく言語研究の素材と
して,文はもちろん語句の単位にまで分解して,利用できるものとする.  
  本稿では,これらの原則に基づくDLNETにおける研究活動について論じている.


    "Digital Library Network" as a Research Organization
      
                     Koichi TABATA
                     
             University of Library and Information Science
                1-2 Kasuga, Tsukuba, Ibaraki, 305 JAPAN
         tel.+81-298-52-0511  fax.+81-298-52-4326  tabata@ulis.ac.jp
         
                           Abstract
  In order to create an open forum for those who have interests in researches and activities on digital libraries,
the research organization "Digital Library Network: DLNET" is going to be established based on the following
policy. (1) DLNET participant canbuild his/her own digital library(DL) where publications written by
himself/herself are open to the public without charge. (2) DLNET participant can collect any copies of
publications from the network of DL's, and not only primary but secondary information of his/her collection, 
in turn, is open to the public without charge. 
  Several research activities in DLNET are discussed in this paper.
    
                           キーワード
図書館 ディジタル図書館 ディジタル図書館ネットワーク DLNET メイリングリスト
掲示板 情報資源共有 灰色文献 著作物 収集 蓄積 組織化 二次資料 検索情報 
所在情報 典拠 SDI Librarianship Collaboration 参考業務  SGML DTD 著述方式 
読書方式 検索方式 マルチメディア CD−ROM 検索情報データベース 
サーバ・クライアント アクセス権 課金管理 言語研究 多言語 翻訳 

1.はじめに 

 ディジタル図書館の研究を進めるにあたって,参加者の相互協力のもとに研究活動を行う様々な研
究組織が形成される.図書館,出版業者,学協会,大学,官公庁,通信事業者,計算機会社,専門領
域に関係した民間企業など,種々の団体からいくつか集まって一つの研究組織が形成される.ある団
体が二つ以上の研究組織に参加しても不思議ではない. 
 ここでは,そのような研究組織の一つとして,‘情報資源共有の原則’に基づき参加者の相互協力
によってディジタル図書館に関する研究を進める研究組織「ディジタル図書館ネットワーク」の形成
を提案する.参加者の参加資格としては,ディジタル図書館に関心のあるものは個人,団体を問わず
誰でもよく,その所属や専門分野を問わなく,また国内外を問わないものとする. 
 「ディジタル図書館ネットワーク」をDLNETと略称する.

情報資源共有の原則:
 誰もが自由に自分の著作物を公開するため,それを所蔵できるディジタル図書館を個人または共同
で設置し,相互に結ばれたそれらの全てのディジタル図書館が保有するあらゆる著作物の本文を無料
を原則に誰もが読むことができる. 
 誰もが原著者に断りなく上記の著作物の写しを別のディジタル図書館に収集・蓄積し,本文そのも
のあるいはそれからの抽出情報を非営利目的で第三者に提供できる.同様に上記の著作物から情報検
索情報および所在情報を作成し,非営利目的で第三者に提供できる.また,上記の著作物の本文は誰
もが原著者に断りなく言語研究の素材として,文はもちろん語句の単位にまで分解して,利用できる
ものとする. 
 いったん公開した著作物は,それ以後その公開を撤回できない.なお,著作権は本人に属し,他の
媒体での発表を妨げない. 
 著作物には灰色文献(Grey Literature)と呼ばれるものも含まれるものとする.

 注)灰色文献とは通常の出版・流通の経路で扱われていなく,またそれについての検索手段が整備
されていないので,入手が困難な文献を指す.これにはテクニカルレポート,会議資料,学位論文,
大学出版物,官公庁資料などが含まれる.正規の流通経路にある学術雑誌は研究成果が得られてから
出版までに時間がかかり,現場の研究者にとってはテクニカルレポート,会議資料などがより重要と
なる.また官公庁資料は民間の企業活動にとって貴重であるがなかなか入手できない. 

2.DLNETでの研究活動

 DLNETに参加する各々のディジタル図書館をここではDLと略称する.DLNETで考えられ
る研究活動のいくつかをあげる. 

(1)ディジタル図書館に関する自由討論・情報交換
 DLNETのメイリングリストを利用した電子メイルにより,ディジタル図書館に関する自由討論・
情報交換を行う. 

(2)ディジタル図書館に関する研究・研修・討論および研究成果の出版・蓄積
 ディジタル図書館に関する Workshop, Conference による研究討論を行い,Tutorial による相互
研修を行なう.また,研究成果を蓄積・出版する. 
 また,任意のグループによる研究プロジェクトが企画・推進される.

(3)DLにおける著作物の登録・管理・提供方式の研究
 各DLにおいて,そこに保有する著作物の登録,版管理を行う.外からの要求に応じ,著作本文の
提供を行う.著作はいずれかの著述方式に則って行われるので,著作物はその付随情報としてその著
述方式を指定している.保有著作物のオンライン・オフライン管理についても考慮する. 
 著述内容について著者と読者が議論できるとよい.その結果を著者はその著作物のすぐ次の版に反
映することができる. 
 著作物の本文が,原所蔵ディジタル図書館あるいはその写しを所蔵するディジタル図書館で参照さ
れた場合,一定の期間,その参照回数を計数し,著者に通知できることが望ましい.統計情報はこれ
を公開してもよい. 
 各DLはまた,著作物の所蔵・検索情報の提供を行う.

(4)著作物の著述方式・読書方式の研究開発
 著作物の著述の仕方は,たとえば,SGML(Standard Generalized Markup Language)によるあ
る特定のDTD(Document Type Definition:文書型定義)で定義される.それぞれの専門領域に適した
特色あるDTDやDTD+α,あるいはその他の有用なものを研究開発し互いに共有するのが望まし
い.それに伴いそれに対応する読書方式の定義が必要で,同様に研究開発し共有する.マルチメディ
ア情報の著述・読書方式も検討される.また,多言語による著述についての配慮も必要である.


(5)著作物の収集・蓄積・組織化・二次資料作成の研究
 各DLから,関心をもつ領域に関連する著作物の写しを収集し,組織化し,蓄積し,第三者に著作
物本文そのものを提供するDLを収集DLと呼ぶことにする.各DLで登録された著作物はそこにい
つまでも保有されるものではなく,いつ廃棄されるか分からないので,収集DLの役割は重要であ
る.収集DLでは,収集物の二次資料を作成し,提供することもできる.あるいは,収集物の検索情
報を作成し提供することもできる.経年的変化に対応した検索情報の再編集も可能であり,また典拠
(Authority)コントロールの研究課題も存在する.  

(6)検索方式の研究開発
 著作物本文の全文が処理対象となっているので,より巧緻な検索方式の開発が期待できる.そのよ
うな検索方式は著述方式,読書方式と密接な関連がありうる. 
 ある著述が特定の「著述方式+検索方式」に則って行われるか,特定の「著述方式」に則って行わ
れた著述が特定の「検索方式」で再処理されるか,などが考えられる. 

(7)検索情報データベースの研究開発
 各DLに存在する著作物の本文から検索情報を抽出・収集し,検索情報の提供や所在情報を提供するDL
を,検索情報データベースDLと呼ぶ.検索方式の開発と密接な関連がありうる. 

(8)新刊情報とSDIの研究
  いずれのDLにおいても新たな著作物が登録されると,そのDLからDLNETの掲示板に新刊
情報が掲示される.そのうち特に関心のあるものについて各人に通報してもらうための機構,すなわ
ちSDI(Selective Dissemination of Information:選択的情報提供)の研究も必要である. 

(9)DL管理ソフトウエアの開発
 DLにおける著作物の登録・管理・提供方式を実現するソフトウエアを開発し,共有する.著作物
が指定している著述方式や検索方式のサーバを各種用意しておかねばならない. 

(10)DLサーバ・クライアントプログラムの開発
 定義された著作物の著述方式・読書方式,あるいは検索方式を実現するサーバ・クライアントのプ
ログラムを種々のハードウエア・ソフトウエア環境で動作するものを開発し,共有する.フリーソフ
トウエアとして開発者が求めに応じて無償で提供するのが望ましいが,有償のものがあってもよい.
 定義はいくつもありうるので,それぞれに対応するプログラムが必要となる.

(11)紙媒体・携帯型電子媒体への出力方式の研究開発
 ネットワークにオンライン(有線・無線)でつながった機器で読書するだけではなく,希望する著
作物の本文を紙媒体や携帯型電子媒体(CD−ROM)に出力し読書したい.特定の著作方式にもと
づく著作物のそれらの媒体への出力方式の研究開発.特にマルチメディアに対する配慮. 

(12)アクセス権と課金管理方式の研究
 DLNETでは情報資源は原則共有であるが,これらの資源とDLNETの研究協力機構を利用し
てアクセス権と,課金管理方式の研究を行うことができる.すなわち,特定の資源には特定の人々し
かアクセスできないようにするにはどうするか,あるいは特定の資源にアクセスした場合に課金する
にはどうするかなど,それらの方式の研究・実施シミュレーションができる. 

(13)研究環境の整備と相互協力
 DLNETに関する研究環境を整備し,研究環境での相互協力をする.たとえば,他機関DLへの
著作物の委託登録や情報検索方式の委託テスト,公共DL(公共に供されたDL)への著作物の登録
など,相互協力する. 

(14)期待される Librarianship
 数多くの著作物の中から未来にわたる価値を見抜き後世に伝えるものを見い出す収集DLの構築,
著作物本文を対象に利用者との電子的 Collaboration (協同作業)が可能となる参考業務など,未だ
かって経験したことがない高度な Librarianship が要求され,ますますそれへの期待が高まる.電子的
Collaboration には原著者の参加も可能である. 
 DLNETで研究としての Librarian を志すものは,自身が関心をもつ特定の領域のエキスパート
として,所属機関はもちろん国の垣根を超えて,収集DLや参考業務を行うことができる.各
Librarian の関心はバラエティに富めば富むほどよく,それぞれがその道の一人者になりうる. 

(15)国際化のための多言語・翻訳の研究
 著作物の多言語化は,その本文はもちろん望ましいが,タイトル,抄録,情報検索情報など部分的
であっても有用である.著者自身が用意する場合の記述法,そうでない場合の翻訳処理の自動化への
期待. 

(16)国内外の他の団体との研究協力
 DLNETと共通な関心をもつ国内外の他の団体との研究協力を積極的に行う.


3.著作物の識別子

 著作物は各DLで登録する.その際,著作物にDLNETでユニークな識別子を付ける.その識別
子は,たとえば(DL識別子,そのDLでのシリアルな登録番号,版,発行西暦年)とする.
 単行書の登録番号は10001以上とする.叢書および逐次刊行物の登録番号は1以上10000
以下とし,それに小数点表記を併記する.すなわち[登録番号.X]とする(X=1,2,3,・・・)
とする.
 版は異なる著述方式のもの,あるいは原著書の修正などに用いる.
 DL識別子としては,たとえばDLの Internet ホスト名.
 著作物の大幅な改版では,著者の意思で新たな識別子を割り当ててもよい.

4.DLNET事務局

 DLNETの事務局において,必要な事務,共通機構の提供,および共有すべき情報の保持と公開
を行なう. 

(1)事務
    研究・討論・研修会の開催事務
    研究成果の出版事務

(2)共通機構の提供
    自由討論メイリングリスト
    一般情報掲示板
    新刊情報掲示板

(3)共有情報の保持と公開
        <研究活動情報>
          DLのリスト
          収集DLのリスト
          検索情報データベースDLのリスト
          参考業務 Librarian のリスト
          SDIサービス者のリスト
      研究プロジェクトのリスト

      <共有規格・ツールの情報>
          著述方式のリスト
          読書方式のリスト
          検索方式のリスト
          DLサーバ・クライアントプログラム,その他のツールのリスト
          紙媒体・携帯型電子媒体への出力方式のリスト



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