The Third Wave!
 アルビン・トフラーがその著書「第三の波」を著わしてから十数年,図書館の分
野にいよいよ第三の波が押し寄せてきた.コンピュータの小型高性能化,光ファイ
バ高速大容量通信ネットワーク,マルチメディア,ハイパーテキスト,CD−RO
M,電子図書,電子出版などの技術の進展により,われわれを取り巻く社会情勢は
大きく変化し,図書館の分野を直撃しつつある.(Toffler,A.第三の波.徳山二
郎ほか訳.日本放送出版協会,1980) 
 アルビン・トフラーの第一の波は数千年にわたってゆるやかに展開された農業革
命を指す.それになぞらえてみると,図書館の分野における第一の波は,やはりゆ
るやかに古代,中世にわたって考案されてきた種々の分類法,そして1870年代
に創案された十進分類法(DDC)ということになろう. 
 アルビン・トフラーの第二の波は産業革命を指すが,図書館の分野における第二
の波は1960年代後半に始まるコンピュータ革命ということになる.MARC
(機械可読目録)の出現や,オンライン情報検索システムなどがそれである.第二
の波は第一の波の時代の古い体制の抵抗に会いながら,ようやく一般に浸透したと
言えよう.

  到来しつつある新たな第三の波!
 高速通信ネットワークで結ばれた電子図書館のことを「ディジタル図書館」とい
い,米国の情報スーパハイウエイの一つの目玉となっている.図書館情報大学で開
催される「ディジタル図書館」ワークショップ(第1回:1994年8月31日,
主催者代表:田畑孝一)への参加申し込みは,8月30日現在,313名となって
おり,第三の波の到来を多くの方々も感じ取っている.

 アルビン・トフラーの第一の波の時代は,生産と消費が渾然一体とした手仕事の
時代であったが,何でも屋の個性的な人間の能力が尊ばれた.第二の波の時代にな
ると,生産と消費の決定的な分離ということから派生して,規格化,分業化,同時
化,集中化,極大化,中央集権化というどちらかというと非人間的な原則が人間を
支配するようになった.生産と消費がふたたび融合されてゆく第三の波の時代では,
人々はこれらの非人間的な原則に挑戦し,それを克服していくのだという. 
 図書館の分野における第一の波の時代はそれぞれの図書館でオールアラウンドで
かつ個性的な司書が尊ばれたに違いない.第二の波の時代,これは現在も進行中で
あるが,あまりにも商業的な出版活動によって余儀なくされる著者と読者の隔離,
MARCやオンライン情報検索システムによる規格化,分業化,同時化,集中化,
極大化,中央集権化が行なわれており,没人間的な環境となっているかもしれな
い.

 第三の波の時代がやって来ると,電子出版・電子的流通により,手作りの,個性
豊かな,創造性に富んだ多形態な著述そのものが,時間と空間を超えて,読む人に
直接もたらされる.つまり書く人と読む人の一体化,融合化が行なわれ,分散化,
分権化が進む.人間性あふれる第一の波の時代への回帰ともいえるのである.

 「ディジタル図書館」は第二の波での束縛から人々を解放する担い手であり,エ
イブラハム・リンカーンのゲティスバーグの演説になぞらえば,それは

  ‘Library of the people, by the poeple, for the poeple’

である.そこでは,だれもが権威や資金にとらわれず自由に出版でき,まただれも
がそれらの中から欲するものを自ら探し出し無料を原則に読書することができる.
そして,数多くのそれらの中から未来にわたる価値を見抜き後世に伝えるものを見
い出すには,未だかって経験したことがない高度な Librarianship が要求される
のである.


1994月8月30日
                      編集委員会を代表して
                      田畑 孝一


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